いよいよ2年後に迫った新テストは、これまでの2回に亘る試行テストを経て、出題の方向性がはっきりと見えてきました。共通一次試験やセンターテストは、高校現場での教育をできるだけ邪魔しないようにという配慮のようなものが見えていましたが、新テストで、「今後の高校教育はこうあるべきだ」というメッセージを強く発信しています。
第2回試行テストに合わせ公表された平成30年度試行調査(プレテスト)問題作成における主な工夫・改善等についてにはこう書かれています。
大学入試センター試験における問題評価・改善の蓄積を生かすことや、大学教育の基礎力としてどのような知識・技能や思考力・判断力・表現力を問うのかというねらいを明確にすること、高校において「どのように学ぶか」を踏まえることなどを基本的な方向性として問題を作成した。
試行テストの問題を実際に解いてみると、そこに込められた意図がより具体的に読み取れます。来年度以降の指導計画を起こす前には、改めてじっくりと問題を解いてみる必要があると思います。
注意を向けておくべき点は多々ありますが、その中でも見落としてはいけないことを幾つかピックアップしてみたいと思います。
❏ その場で読んでテクストをどれだけ理解できるか
どれだけのことを既に覚えていたかよりも、目の前に与えられた情報を「その場で読んでどれだけ理解できるか」「理解したことを元にどう考察できるか」を試す点に重きが置かれていることはその筆頭です。
テクストの理解力を試す意図のもと、問題で与えられるテクスト(本文だけでなく、グラフや表で示されるデータ、考え方をモデル化した図版なども含む)は、膨大と言える量になっており、現代社会などは60分間で18,000字を読む必要があります。
いわゆる「学習型問題」と呼ばれる、高校生にとって馴染みがない(=教科書で学んでいない)ことを題材に、「その場で読んで概念を理解すること」を求め、そこで得た理解を元に考えなければならない問題も様々な科目に見られます。
丁寧に教えて理解させ、あとはしっかり覚えさせるという戦略では、この手の問題には対処ができません。
普段の授業から、生徒に自力でテクストを読ませ、理解を求めることを繰り返していく必要があるということです。
◇ ご参考記事:
❏ 正解を導くのにどんなアプローチをとるべきか
これまでの大学入試は主に「正解は何かを尋ねる問題」で構成されていましたが、大学入学共通テストの試行問題で特徴的に見られたのは「正解を導くのにどんなアプローチをとるべきか」を尋ねる問題です。
例えば、現代社会の第6問では、探究学習の場面を想定しており、「問題発見のためにどの資料に当たるべきか」が問われています。
モデル問題(共通テスト)を見て #2数学でお伝えした通り、第1回の試行テストでも、「証明せよ」ではなく、「確かめる方法を式を用いて説明せよ」という問題がありました。
解内在型の問題に正解が導けることや、その理由や根拠が説明できることに加えて、初見の課題にどうアプローチすべきかを考えられることを確かめることに出題の方向が変わってきています。
新テストでは出題の在り方を従来とは変えることで、解法を生徒自身が考える場面を拡充することを高校の日々の授業に求めているということだと思います。
正解は何かを尋ね、その根拠を言語化させることには今後の教室でも力をいれていく必要がありますが、課題解決学習などを通して、どう問題に対処していくかを考える機会も充実を図る必要がありそうです。
◇ ご参考記事:
❏ この立場をとる人ならどう考えるか
正解が一つに定まらない問題を取り上げ、「この立場をとる人ならどう考えるか」という訊き方も試行テストの問題に散見されます。
例えば、現代社会 第4問にはこんな問題があります。
問2は本文を広く見渡したうえで、「どんな立場をとる人なのか、バックグランドにどんな価値観が働いているのかを見極めたうえで答えなければならない問題で、正答率は29.9%とかなり低調です。
一方、問1は空所の前後などを局所的にフォーカスすれば正解が選べる問題であり、ある程度の読解力が求められるとはいえ正答率は57.6%とさほど悪いものではありません。
両者の正答率の違いには、発言者の立場を直接的に説明する箇所を見つければ良い問題には対処できても、「どんな立ち位置の人の発言か」を把握して判断しなければならない問題に脆さがあることが窺えます。
現代社会の第1問 問6(正答率72.2%)と第3問 問4(同32.9%)を比べてみても、読んで発言者のバックグラウンドを想像し、その人ならどう考えるかという思考プロセスがハードルである様子が窺えます。
直接的な該当箇所を見つけるだけでは解けず、書いてあることの背景を正しく推定したり、その推定に基づき対象を拡充してみる「思考」が求められるようになるのは間違いなさそうです。
そうした思考のトレーニングを3年間/6年間でどれだけ積み上げられるかが問われているとの前提で、次年度以降の指導を考えていく必要があるのではないでしょうか。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一