学習指導は教科ごとに行われますが、学習姿勢や学び方を生徒が獲得していく過程は、教科を跨いで同時に進行していきます。ある教科を通じて身につけた姿勢や技術は、ほどなく他の教科にも転用されるようになるのが普通です。
❏ 獲得した資質や行動様式は科目を超えて
ディスカッションに臨んで、相手の発言を理解したうえで自分の意見を組み立てられる/表現できるようになること、わからないものを見つけたときに適切な参照手段を選んで検索ができるようになることは、相応の能力を当人が獲得したことを意味します。
新たに獲得した能力の発現は、特定教科の中だけに留まらず、他教科の学びの中にも見られるのが普通でしょう。
仮説を立てて検証するなど抽象度の高い活動でも、テストのやり直し方や重要項目の覚え方などの身近で具体的な行動でも、身につけた能力・資質、行動様式は、様々な場面で使われるようになるものです。
もし、こうした転用の様子が見て取れないとしたら、その機会が与えられなかったことが原因かも知れません。
教科ごとの学び方に接点(同じ資質・能力を利用する場面)が増えれば、転用もより多く観察されるようになります。
同じ時期に発せられるメッセージは、教科ごとに関連性のないものよりも、「共通した方向を持ちながら教科の特性を反映したもの」であったほうが、生徒の側でも得るものが大きいはずです。
また、学級担任が生徒の学習行動を観察する場合にも、今の時点で生徒に求めていることをシンプルに把握できるため、指導に一貫性を保ちやすくなります。
❏ もう一つのキーワード:連続性と段階性
マトリクスの縦方向での点検が、ある時期に一人の生徒が求められる事柄の「整合性」に着眼点を置いているのに対し、横方向での点検では「連続性」と「段階性」がキーワードです。
ある時期に示したハードルを生徒がクリアできるようになったら、次の時期にはもう一段引き上げたハードル(より難しい課題へのチャレンジや、自ら考え出すべき部分の拡大)が示されるべきと考えます。
既にクリアできている難度の課題を繰り返し与えていても、可能性/ポテンシャルを伸ばしきることになりません。
逆に、二段飛ばしのように、中間段階が欠けて急激にハードルが上がると、飛び越えられない生徒も出てきます。
入学から卒業までに登るべき高さは決まっていますので、ある時期に上がった幅が足りないと、別の時期に過剰に大きな段に挑ませることになってしまいます。
授業評価アンケートのデータでは、最終学年になって急激にハードルがあがりながら、それまでの学習で方向付けがうまくできていなかったため、苦手意識が急激に強まっている学校も少なくありません。
終盤に来て、勝算が描けなくなれば、進路希望を放棄し、志望の切り下げが発生するのも、なかば当然と言えるのではないでしょうか。
たとえば、定期考査での初見英文の出題比率など、入学時から徐々に段階を追って高めていかないと、このようなことが起きてしまいます。
その3に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一