生徒を指名して発言させるとき(その3)

生徒に発言させることには様々な目的がありますが、その目的を達する方法は発言だけに限られるわけではなく、目的に応じた代替手段を講じた方が効果が大きいこともある、というのが前稿の趣旨です。
しかしながら、生徒に発言させてこそ、そこに含まれる気づきや考えをクラス全体で確実にシェアすることができ、その先に発想の拡充や思考の深まりが期待できる場面も少なくありません。活発に発言が飛び交ってこそ、対話的で深い学びに近づけます。
発言させようとしても中々声が上がらないクラスでは、普段の教室で発言を妨げている悪習慣や、発言を引き出す仕掛けの拙さなど、見直すべき点があるかもしれません。どうしたら良いか(対処法)を考える前に先ずはどうしてそうなっているのか(原因)を考えていきましょう。

本稿の内容をChatGPTでイラストに起こしました。クリックで拡大します。

❏ 発言の活発さと対話への参加は別物

生徒が活発に発言し、元気いっぱいに見えるクラスでも、「一人ひとりの発言がクラス全体の学びの起点になっているか」「発言が学びを膨らませる対話になっているか」どうかはまた別の話です。
元気いっぱいだけど、一部の生徒だけが発言を繰り返し、他の生徒は自分の意見を差し挟むでもなく、その生徒と先生のやり取りに興味津々というわけでもなく…、という場面もさほど珍しいものではありません。
積極的に発言しようとする生徒をむげに押しとどめるのも何ですが、この状態を放置していては、ほかの生徒が学びのための対話に参加できないという問題も生じます。
グループ討議でも、「オピニオンリーダー的」な生徒がガンガン意見を言って、他の生徒はそれを黙って聞いているだけというシーンも珍しくないように思います。じっくり耳を傾け、考えを巡らせているならともかく、中にはフリーライダーを決め込んでいる生徒もいます。
これを放置しては、「発言しない/傍観者として50分を過ごす」ことを学習させてしまうようなものです。

❏ 指名する前に、生徒に準備をさせ、しっかり観察

生徒一人ひとりに、対話的な学びに参加させ、その成果を享受してもらうには、自発的な発言に任せっきりにするのでは不十分。
指導者の側で、教室全体の発言をコントロールしたり、一人ひとりが発言者という役割を担える場をプロデュースしたりする必要があります。
そのための手段の一つが「指名」ですが、やみくもに(順番に/ランダムに)当てるのでは、学びのコミュニティは上手く回らないはずです。
事前に問いを投げかけ、しっかりと生徒に準備(調べる・考える・まとめる)をさせ、個々の生徒の頭に何が浮かんでいるかを、きちんと観察を通して捉えておくことが前提であるのは言うまでもありません。
その1でも書いた通り、先ずは反応を観ること。手元(ノートやワークシート)に考えを書き出させておけば、それを覗き込めますし、指名する前に隣同士で話し合わせてみると、そのやり取りも観察できます。

❏ 発言しない習慣を作っていないか

しかしながら、いざ発言させようと指名すると当の生徒はだんまり、対話がちっとも進まないことも少なくないかと思います。
普段から頻繁に発言の機会を作り、考えたことを言葉にする習慣を作っておかないと、「発言すること自体に慣れていない生徒」は当てられてもドギマギするばかりです。
先生が話している場面が長く続いた後、急に指名したときにも、同じようなことが起きます。話を聞くだけの場面が続くうちに、生徒の側では発言を用意するという意識が薄れていきます。いざ指名されても、用意が整っていなければ、突然の指名にはフリーズでしょう。
まずは、頻繁に問いを重ね、生徒に「思考を継続させる/問われる態勢を解かせない」ことが大切です。隣同士で説明し合う場を挟むなど、口をつぐんでいる時間を短くすることにも注意したいものです。

❏ 生徒の発言をどう受け止めているか

正解をいい当てない限り、きちんと取り上げてもらえず「ちょっと違うね」で片づけられる場面が幾度も繰り返されては、「わかりません」がもっとも無難だと学習してしまっても無理からぬところ。
その「ちょっと」がどこで、どうすればより良い解に近づけるか。これこそが学ばせるべき事柄であり、切り捨てては何にもなりません。
生徒の手元や頭の中を把握しないままランダムに指名し、しかも誤答を十分に予想できていなかったら、トンチンカンな答えに「うーむ、ちょっと違うね」としか返せないのも当然の帰結かと。
順番に当てていく方法も、「当てるのは先生、指名されたら答える(思いついたことがあっても指名されるのを待つ)」との誤解を与えます。
学年が進むにつれて発言が出にくくなるのはよく見かけるパターンですが、もしかしたら教える側の無自覚な繰り返しの中で生徒に「学習」させてしまった悪しき行動様式/習慣に過ぎないかもしれません。

❏ 答えられなかった生徒をどう支えるか

問い掛けて十分に考えさせ、しっかり観察して指名したつもりなのに、その生徒が(想定外に)答えを持っていなかったり、見当違いなことを考えていたりした場合にどんな対処をとるかも悩ましいところ。
有効なひと言が浮かばず、「次は頑張れ」と励ますだけで放置しては、対話がそこで途切れてしまいますし、あからさまなヒントを出して切り抜けるのもスマートとは言えません。
発言への評価や正誤の判定をひと先ず留保して、「ほうほう、では〇〇君は?」と(あたかも予定していたかのように)他の生徒にも順に発言させていく手もあります。幾人かの考えを聞いた後で、最初の生徒を再び指名し、「どう考える?」と発言を促してみましょう。
習慣化すると、一度当てられてもまた指名が戻ってくる前提で、思考を止めずに「問われる態勢」を取り続けられるようになっていきます。
前段で説明したことを訊いて言語化させたり、何に着目してそう考えたのかを尋ねたりするなど、別の角度から問いを起こして、再び考えさせるという手もあります。事前の観察でどこまで認識しているかを捉えておくと、「次の問い」も選び出しやすいはずです。
すでに教えたことであれば、黒板やノート、教科書に目線を走らせることで答えを見つけられるかもしれませんし、「どこに着目したか」「どう考えたか」なら、問いへの正解とは違って、自分の中に何かしら「言葉にするべきもの」が存在するはずです。

❏ 対話を止めず、個々の学びにつなぐ

同じ一人の生徒とのやり取りを続けるだけでは、本人は追い込まれ、他の生徒は傍観するだけですので、「別の角度からの問い」はクラス全体に投げかけ直すようにするのが好適です。
最初に当てられて答えに詰まった生徒が答えられそうなら、もう一度指名しても良いでしょうし、他の生徒に発言したがっている様子が見られば、どんどん発言させましょう。
どの生徒もモジモジして発言のそぶりを見せないようなら、「隣同士で説明し合ってごらん」と、発言から話し合いに切り替えてみるのも一手でしょう。繰り返しになりますが、話し合いに耳を傾けていれば、改めて指名して発言させるべき生徒が見つかることも少なくありません。
また、「わからないときは周囲にヘルプを求めても良いというルール」をしっかり根付かせておくのも良いのではないでしょうか。
隣に訊いたとしても、発言は自分の声で行うわけで、「わかりません」としか言わなかったり、黙ったままでいたりするのと違って、少なくとも「理解したことを言葉にする機会」を持てる分だけましなはずです。



こうして発言を繋いで作った対話も、その場で終わりにしては、何となく出来上がった答えに安堵するだけ。深く確かな学びにはなりません。
授業を終えたら、問いに立ち返ってじっくりと自分の答えを仕上げさせることを習慣化させましょう。(cf. 答えを仕上げる中で学びは深まる)

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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