4月の授業開きを思い出して~夏を迎える準備

学期が終わりに近づいたこのタイミングで確認しておくべきことの一つは「新学期に生徒に伝えたメッセージを生徒がどこまで消化し、自分のものとして習慣化できているか」です。別稿の「やりきらずに放置してきたことを仕上げさせる」と共に、この時期の指導の主眼でしょう。
新学期が始まるとき、教科担当者として、あるいはホームルーム担任として、生徒に様々な期待(獲得して欲しい能力や資質、深く考えてもらいたいこと、習慣にして欲しい行動など)を伝えたことと思いますが、どんなことを求めたのか、この機に改めて思い出してみましょう。
その一つひとつについて、生徒の行動を観察し、指導の成果を測ってみないと、休み明けからの指導設計も、次年度の指導改善も根拠を欠くものになってしまいます。同時に生徒にも、現時点で生じている「遅れ」を認識させ、これからどうすべきかを考えさせることが大切です。

2016/06/13 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 授業開きで伝えた「期待や要求」を満たせた生徒には

4月の「授業開き」で生徒に示した「予習・復習の方法」や「授業への取り組み方」(協働の場面でのふるまい方などについても期待を伝えたはず)は、どのくらい実行できるようになっているでしょうか。
十分にこなせるようになっている生徒には「次のステップ」を示す必要があります。既にできるようになったことを繰り返しているだけでは、次に向けた課題形成の材料も得られず、成長は鈍くなるばかりです。
学習者としての次のステージに進むために必要なことを、先生が示したり、生徒自身に考えさせたりしないことには、成長に蓋をしてしまうことがあります。ルーブリックを用いている場合も、副作用に注意です。
学期が進む中で高度化してくる学習内容に対応するためにも、予習なども変わってくるはず。できるようになった先を常に考えさせましょう。
また、初期のうちは丁寧なガイドで、円滑な学びをサポートする必要がありますが、学習方策の獲得や目的意識の向上が観測されたら、生徒が自分で取り組み方を考える場面を増やすことも大切。自らの学習を改善しようとする態度は、「学びに向かう力」の構成要素です。
学期末の観察を通して、どこまで手を放し、どんなことを求めていくのか、次の指導に展望を立て直しましょう。cf. 学び方における守破離

❏ 生徒の好ましい工夫は正しく評価し、クラスでシェア

先生が指示していたこと以外にも、生徒が自ら工夫して好ましい方法に行き着いているケースもあるはずです。そうした行動を見つけたら、きちんと評価し、良さを言葉で伝えましょう。さらなる主体性・積極性を引き出すきっかけにもなるはずです。
本人に伝えるだけでなく、優れた取り組み/工夫として紹介し、クラスの中でシェアすれば、他の生徒への刺激にもなります。それが好ましい結果をもたらすメカニズムを、考え/話し合わせてみるのも好適です。
それぞれの生徒が自分でやってきたこと(工夫や努力)を客観的に振り返る機会にもなりますし、如上のメカニズムを考える中で、発想が広がり、元の工夫を応用した他のアプローチも生まれ出てきそうです。
先生の指示を的確に実行できることも大事でしょうが、周囲を見渡して自分を相対化し、次に向けて何をすべきかを考え出す能力(思考力の一つである「メタ認知・適応的学習力」に相当)の育成は重要。周囲の頑張りに触れる機会を整えることは、その環境づくりに他なりません。

❏ 指示をこなすところに、未だ至っていない生徒には

一方、授業開きに伝えた期待を現時点で満たせていない生徒には、キャッチアップを促すとともに、その支援を忘れずにしたいところです。
授業開きなどで配ったプリントを取り出させて、自己点検させてみるのも好適です。本来ならば、中間テストを終えた辺りで振り返りをさせ、その後の行動変化を引き出しておきたかったところですが、出遅れを悔いても得るものなし。これからのことを考えましょう。
指示を守れていないことを責め、指示通りに取り組むことを改めて求めたところで、大した効果は期待できません。「できなかった理由」に立ち戻ってから、解決策を考えていく必要があるはずです。
指示(=行うべきことが何か)はわかっていても、なぜそれが重要なのか、どんな効果があるのかに「実感を伴う理解」がないと、実行するモチベーションは持てません。数ヵ月の学習を経て、指示をよりよく理解できるだけの土台が整ったことを期待し、改めて伝えてみましょう。
目的とすることは、より良い学びの実現ですので、必ずしも先生の指示通りにする必要もないはずです。中間・期末と2度の考査を経験し、本人なりに反省点や後悔もあるでしょう。それらを土台に、これまでの学びを振り返り、どうすべきか考えさせるのも好適です。
なお、授業開きで伝えたことが合理的・効果的だったかの検証も必要です。指示をきちんと消化して行動にできていた生徒と、それ以外の生徒の間で、一定期間を経た成長の度合い/成績の伸長に有意差が生じていなかったら、指示した内容の合理性を疑ってみるべきです。

❏ 2学期の教室で求められることをイメージさせて

4月からの学習を振り返って、「より良い学びの実現に必要なこと」を改めて考えさせる上で欠かせないことは、これから先に経験する学びや来るべき選択の場についてイメージを持てていることでしょう。
2学期からの学習や体験の場(予定)を改めて提示し、それぞれの局面で必要なこと/求められることを話して聞かせておきましょう。「それまでに出来るようになって/追いついておくべきこと」を認識させることができるかどうかは、夏を挟んだ生徒の成長を大きく分けます。
授業の進め方や、その準備や仕上げ(予習や復習)に求められるものがどう変化するかを伝えるだけでは、現時点で既に後れを取っている生徒には「高すぎる壁」を突き付けるだけの結果にもなりかねません。
そこに至るまでの工程を段階的に示し、「夏を終えるまでに、ここまで出来るようになっておけば後は何とかなる」と明確な線引きをしてあげましょう。スモールステップ化はモチベーション維持に効果的です。



教科学習指導のみならず、進路指導における「志望校作り(進路意識形成)」の指導や、探究活動などのプログラムでも、後れを取ったことでその先の取り組みへのモチベーションを弱めている生徒もいるはず。同様のアプローチで、キャッチアップを諦めさせないことが肝要です。
別稿でも申し上げましたが、一緒に歩いていたはずの仲間の後ろ姿が遠くにしか見えなくなると、ついて行くことを諦めてしまいがちです。追いつけそうだという展望を、失わせないことが何よりも大切です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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