特色ある教育プログラムへの生徒の取り組み状況は?

1学期が間もなく終わりますが、学校が打ち出している「特色ある教育活動」に対し、この春に入学した生徒は十分な熱意を持って取り組んでくれているでしょうか。意図するところを正しく理解しているか、きちんと取り組めているか、所期の成果が上がりつつあるかなど、この機に点検しておく必要があろうかと思います。
もし、これらの観点でどこかに不足があるようなら、必要な補完を遅滞なく講じていかなければならないのは言うまでもないところ。
指導の成果が着実に積みあがらず、計画とのギャップが広がってしまえば、指導計画に大掛かりな見直しが必要になりますし、生徒間で、取り組みへの意欲や、活動に必要となる能力・姿勢の獲得に差が出始めているなら、夏過ぎの指導に備えた補完/キャッチアップを図りましょう。
戸惑いや躓きが多くみられる生徒に対するフォローをしっかり行っておかないと、先行する生徒の後ろ姿が遠くに見えるようになるにつれて、キャッチアップを諦めてしまう生徒も出てきます。

❏ 特色ある教育活動も様々~それぞれについて中間検証

特色ある教育活動には、学校行事や体験学習などに加えて、探究活動など、中長期に亘って活動を積み上げる中でプログラムが進んでいくものや、日々の生活の中で「習慣/ルーチン」として成長に必要な内省と行動を積み上げさせるもの(例:日直や係りの仕事)などがあります。
学校行事や体験学習は、その場で完結する単発の教育機会ではありません。そこで得た「気づき」や、準備なども含めた活動の中で獲得していく「資質や姿勢」といったものが、次の学びのレディネスを作るというスパイラルの中で初めて成果を得るものだと思います。
これまでに終えた行事や体験が所期の成果を得ていなければ、次への準備が整っていないということです。
探究活動などの中長期プログラムでは、フェイズ(例:初期段階の調べ学習など)毎の成果が得られていないのでは、次に進んだときに基礎工事が出来上がっていないところに柱を立てるようなもの。建物がどうなるかは容易に想像がつきますし、途中で倒壊してけが人がでるかも。
調べ学習の段階でも、リサーチクエスチョンを立てる段階でも、その時点での成果品がしっかりしたものであるかどうかに加え、そこでの活動を通して獲得を図ったスキルや姿勢、取り組み方(探究方策)への理解と習熟などに不足が残っていないかも同時に点検が必要だと思います。
日々のルーチンにも、それらを通して涵養を目指している資質や姿勢といったものがあるはず。目的意識をもって取り組めていない生徒や成果が十分に上がっていない生徒を放置するわけにはいかないはずです。
日直や係の日誌などにしっかり目を通して、成果の上がっていることを伺わせる記述を拾い上げて教室でシェアする等、成長が遅れ気味な生徒に刺激を与える策を講じるべきだと思います。

❏ 成果物の評価と、ルーブリックを使った活動評価

特色ある教育活動を通じて狙うものには、各場面で生み出される具体的な形を伴った成果物(論文やポスター、プレゼンテーション)のほか、意識や姿勢の変化といった生徒の内面や行動に現れるものもあります。
それぞれに応じた評価方法をセットしないと、指導の成果を測定できませんし、個々の生徒の成果と反省をきちんと記録に残しておかないと、せっかくの体験や活動も一過性のもので終わってしまいます。
ポートフォリオに残せるような「成果」が得られたのであれば、しっかりと保存・記録すべき、ということです。
行事などを通して何を実践・体験したか、どんな成果を得たかをきちんと整理して「プラクティス・ログ」(実践体験記録)、「ラーニング・ログ」(学習成果記録)に残させることはもちろんですが、活動を振り返って、そこで自分が何を感じ、どのような課題を見つけたかを明らかにして「リフレクション・ログ」(省察記録)に言語化させましょう。

生徒が残したログは、先生方がご自身の指導の成果を測る上でも欠かすことのできない重要な資料になるはずです。生徒のログに残った記述が初期の指導目標と照らして物足りないものになっているようなら、指導の計画や方法に改めるべきところがあるということです。
指導計画にあった「期待」とログから窺える「結果」のギャップは両者を読み比べることで見えてきますので、それを埋めるのにどうするべきかを考えることで、次の機会にはより良い指導が実現するはずです。
当然ながら、優れた成果/結果の中には学ぶべき知見があります。それを生み出しただけの理由を、実際の指導記録と照らして探し出し、範とすべき指導ノウハウとして、広く共有と継承を図るべきだと思います。

❏ 生徒の内面に生じた変化(成長)はアンケートで

活動を通して生徒の内に生じた変化であれば、アンケートを用いて把握するのが手っ取り早い方法の一つだと思います。
一定期間の活動を経験した生徒に、「興味が湧いてきたか」「目的意識を持って取り組めているか」「活動を重ねて成長を実感できるか」などを聞いてみれば、ざっくりしたところは把握できます。

もう少し、細かく/具体的に把握したいなら、それぞれの教育プログラムが目指したところ(こうした資質や姿勢を生徒に身に付けてもらいたいなど)を一つひとつ「生徒を主語にしたセンテンス」に起こし、自分にどのくらい当てはまるか聞いてみましょう。ルーブリック(観点別の段階的評価規準)に照らした自己評価を行わせるということです。
アンケートの結果は数値化できますので、それぞれの先生が最善と思う方法で試してきた成果を比較する中で、校内で既に生み出された「倣うべき優れた実践」の所在を捉えるのにも大いに役立つはずです。
なお、指導を開始する時点と一定期間を経た時点とで二度アンケートを取り、両者に同じ質問を用いた項目をいくつかちりばめておけば、指導を経た「到達点」だけでなく、歩き始めから進んだ距離(差分=指導効果)でも、やり方による成果の違いを把握することができるはずです。

❏ ある時点からは「複線的なルート」も必要ですが…

学校が力を入れて整備を進めてきた特色ある教育プログラムにも、すべての生徒が十分な興味を持って乗っかることができるとは限りません。
残念ながら、教育プログラム以外のところに価値を置いて学校を選んで入学した生徒もいれば、面白そうだと思っていたけど、実際に経験してみたらどうにも自分には合わなかったという生徒もいるはずです。
ある段階まで進めて、ひと通りの体験を積ませた後は、生徒の適性や志向に応じて、別のプログラムやチャレンジを用意しておく必要もあると思います。既に興味を失ったことに無理して/形だけ取り組ませても、そこでの成長は大きなものにはならないような気がします。
ただし、「色んな生徒がいるから仕方ない」と早々に諦めるのを勧めているわけではありません。十分な議論と検討を重ねて整備してきた特色ある教育活動ですから、それにしっかり取り組ませるのがベストです。
脇道を多く用意すれば、生徒がバラバラの方向を見始め、クラスの中でコミュニティの分化が進みます。同じ目的に向かってみんなが頑張り、互いに刺激し合うことは、一人ひとりの成長を大きくする上で重要だと思いますが、分化によりその機能を弱めないようにしたいところ。
生徒募集に際しての学校広報で、特色ある教育プログラムの目的や実際をしっかりと伝えることで入学時点でのミスマッチを可能な限り予防するのはもちろん、途中でうまくプログラムに乗っかれなくなる生徒を出さないための指導ノウハウを確立することが先決であるのは当然です。
前者であれば、プログラムを経験した生徒が残した各種ログなども資材に活用した学校広報で、特色ある教育活動への理解を形成しておくことが重要でしょうし、後者では、如上の方法で「生徒の興味を維持し、高めるのに有効な指導手法」を探り当て、それを校内で広く共有・継承していくことが欠かせないと思います。



通年で/入学から卒業まで一貫して取り組ませていること(ルーチン)については、段階的に目指すところを引き上げていかないと、マンネリ化が進み、成果も頭打ちになります。
生徒の成長を止めたり、取り組みそのものが形骸化したりするのを防ぐため、学期・学年が進むごとに、目指すべき到達状態/できるようになって欲しいことを新たに示していきましょう。別稿で申し上げた通り、ひとつの期待が満たされたら次のハードルを示すことが肝要です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一