
授業評価における「この授業を受けて学力の向上や自分の進歩を実感するか」という質問には、全生徒にYESで答えてもらいたいものです。
授業評価の結果は、教科担当の先生方の指導技術(伝達スキルと授業デザイン)に大きく左右されます。しかし、それだけではありません。
ホームルームが「生徒が互いに刺激し、共に成長できる、学びにふさわしいコミュニティ」になっているかどうかも、大きな影響を与えます。
本稿では、データの分析を通して「好ましい学びのコミュニティの創出と維持に学級担任と学年団がどのように関われるか」を考えます。
2018/08/02 公開の記事をアップデートしました。
❏ 成長の場としてのHR×教科学習指導の成果
下図は、ある年度に行われた「授業評価&生徒意識アンケート」のデータ(サンプル数:340ホームルーム)に基づいて作成したものです。
各ホームルームが「成長の場」としてどの程度機能しているか、それぞれで行われている授業での学習効果がどの程度得られているかを、生徒の目を通した評価の結果を用いて推定しました。
前者(成長の場)の得点分布はヒストグラムで、後者(学習効果)との相関の様子は重ね合わせた散布図で表示しています。
なお、ヒストグラムでは、Ⅶ学習効果において「目標値」である換算得点で75ポイント(=肯定的な回答が9割を占める水準)に達しているものと、未達のクラスに分けて集計し、色分けして表示しました。
縦軸と横軸の数値は、上記のアンケートにおける以下の質問の回答を「得点(率)」に換算したものです。換算方法は以下の通りです。

横軸: Q06成長の場(生徒意識アンケート)
「私のクラスは、生徒が互いに刺激し合い、ともに成長している」
縦軸:Ⅶ学習効果(同時実施の授業評価アンケート)
「授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できる」
分析の結果、両者には有意な正の相関が確認されました。上図に見る通り、Q06成長の場が 75ポイントを超えると、Ⅶ学習効果も 75ポイントを超える傾向が見られます。特に、前者で85ポイントを超えるクラスでは、Ⅶ学習効果もほぼ確実に75ポイントに達しています。
❏ 成長の場の創出に優れた結果を得ているクラスを探す
生徒意識調査の対象としている各項目と、授業評価のⅦ学習効果の間で算出された相関係数は以下の通りです。講義座学系と実技実習系で若干の差はありますが、Q06成長の場が最も高い相関を示しています。
なお、それぞれの評価項目の質問文は、別稿「授業のこと以外にも尋ねておくべき“生徒の意識” 」で詳しく紹介しています。ご参照ください。
学校/学年全体でクラス別のデータを集約し、下図のように可視化すれば、各項目で高い評価を得ているクラスを見つける基準が得られます。

高い評価を得たクラスでの実践や工夫、取り組みを言語化・発信することで、それを改善が遅れているクラスが参考にでき、学校全体での改善を加速できるのではないでしょうか。
優れた実践があるのに、その特定と共有ができなければ、改善は個々の先生方の試行錯誤に依存する(同じ轍をあちらこちらで踏む)ことになり、学年や学校全体での組織的/継続的な改善は難しくなります。
❏ 課題解決への協働を通してコミュニティを作る
Q06 成長の場を目的変数、生徒意識調査の他の項目を説明変数とする重回帰分析で推定する「影響」が最も大きいのは、ほぼ例外なく「学級の係や当番はきちんと役割を果たしている」(Q05係の仕事)です。

係の仕事を通して、生徒が協働でクラスの課題を解決する場を経験する中で、互恵意識が高まり、相互啓発がより大きく働くようになることで、学びに適したコミュニティが形成されると考えられます。
例えば、より良い学習環境の創出と維持というミッションの下、係(美化、広報など)ごとに「やるべきこと」を考えさせ、メンバーが個々の役割を引き受け、遂行させるといったことも効果を得るはずです。
課題をどう解決するか知恵を出し合うことで「集団知の活用」「気づきの交換」の重要性を実感できれば、そこで養われた力が各教科の学びにも生かされ、対話的/協働的な学びの実現も進みます。
各教科の授業でも協働的な課題解決の機会を増やせば、生徒間に働く相互啓発と互恵意識が高まり、Q06成長の場の向上につながります。これは双方向に影響し合う関係です。
Q06の評価が相対的に低かったホームルームでは、教科担当の先生方からの働きかけが、成長の場の改善を後押しするということです。
❏ 規律ある生活、先を見据えての行動選択
上表で相関係数が2番目に大きいのは、「規律ある生活を送るとともに集団生活のマナーを守れるようになった」(Q10 規律ある生活)です。
ルールを押し付けるばかりでは、生徒のストレスも増えそうですし、さらに問題なのは、より良いコミュニティの形成に取り組む(=何をすべきか自分たちで考える)姿勢が育たないことです。
授業規律も、生徒自身に考える機会を持たせ、自分たちでルールとマナーを作らせていくことが重要です。これは、別稿「ルールでの保護と危険回避の思考力養成」で書いたことにも通じます。
初期段階(低学年のうち、年度のスタートなど)では、ルールを示し、その理解を深めさせることに注力するのが好適ですが、生徒の成長に応じて、Q09行動選択「私は、進路のことや今何をするべきかを考えて行動できるようになった」の向上に指導の重点を移していきましょう。
上記の表(相関係数一覧)では、学習効果との相関係数が他の項目と比べて控えめな数値ですが、生徒の成長で自律的な行動が増える(他律からの抜け出し)につれて、相関係数が大きくなる傾向があります。
進路指導などを通して、3か月後や半年後に迫る選択の機会やハードルを意識し、それに備えた行動を取る習慣を身につけさせることも、教科学習指導の効果を確かなものにする上で重要な指導になるはずです。
ホームルーム経営が教科学習指導に与える影響について、データを基に考察しました。特に、Q06成長の場がQ05係の仕事やQ10規律ある生活と関連しながら、学習効果を高めることが明らかになりました。
ホームルームの経営においては、生徒同士の協働経験を積極的に増やすとともに、ルールも生徒自身に考えさせていきましょう。授業を通した学びの拡大・質的改善に繋がっていくと考えます。
■ご参考記事:
- 授業のこと以外にも尋ねておくべき“生徒の意識”
- 好ましい”成長の場”を成立させる要件~生徒意識(3)
- 海外も注目している日本の”トッカツ”
- 互恵意識で結ぶ学びのコミュニティ
- 生徒に考えさせる授業規律
- 大きな分岐に臨ませるまでに行うべき指導
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一