進路希望なり、将来の夢なり、目標となるものを決めたら、それを達成するためにクリアすべき課題が何かを洗い出し、その一つひとつにどう取り組んでいくかを考えていく必要があるのは言うまでもありません。
目標達成の要件/課題を正しく捉え、それを充足するための行動を持ち時間の中に効率よく配列しておかないと、無駄なことに時間を費やしたり、肝心なことが意識から漏れて手付かずになったりしがちです。
最上級生となる3年生に対して、4月の教室で「受験生としての心構えや、取るべき行動/身に付けるべき習慣」を話して聞かせるのも、目標実現への歩を確実に進めさせようとの意図によるものだと思います。
しかしながら、目標達成までの工程を描かせる前に、しっかりと確かめておくべきことがもう一つ。個々の生徒が目標としていること(進路希望)が、当人が本気で目指したいもの、自分事として向き合える(=途中の困難を乗り越えて頑張れる)ものになっているかどうかです。
❏ 体験に根差した明確な志望理由を持っているか
進路希望調査を行い、志望上位の大学(学部)について志望理由を質したときに、選択に至るまでのプロセスに不十分なところがないか、対話の中で掘り下げて確かめる必要があるのは、別稿でも書いた通りです。
何をきっかけに興味を持ち、それをどのように広げ、掘り下げてきたかを「体験」に基づいて語れないようでは、志望理由は十分な根っこを持ちません。「自分への向き合い」も不十分な可能性が高そうです。
起点となる興味は、日々の教科学習や、様々な体験的な学びの中にあろうかと思いますが、それを深めて「自分のあり方、生き方」と結びつける活動は、探究学習や進路指導の中にこそあるはずです。
- 探究型学習を使った進路指導(全5編+2)
なぜ、その学部を志望するのか、どうして(他大学ではなく)その大学なのかを訪ねた時に、きちんとした(=他者も得心させられるだけの)理由を、生徒は自分の言葉で表現できているでしょうか。
不足するところが見て取れるなら、これまでの「進路意識を形成する指導」に不足があったことを反省しつつ、本格的な受験期を迎えるまでに改めて自分の未来に向き合わせていく必要があろうかと思います。
❏ 選んだことは、本当にやりたいことか(自分を知る)
進路意識形成までのプロセスをきちんと踏んで選んだはずの進路であっても、何かの折に「これって本当に自分がやりたいことなのか」と疑念のようなものが心の内に芽生えてくることも少なくありません。
選択したものが「自分にとっての正解」かどうかは、当人の志向や資質と、選択の先に広がる世界のマッチングによって決まるもの。万人が称賛するような立派な選択でも、合わない人には正解になり得ません。
後になってこうしたミスマッチに気づき、選択の結果に向き合えなくなるのは、自分の志向や資質を十分に見極めようとしないまま、世間の間尺で進路(将来の夢や目標)を選ぼうとしてきたからかもしれません。
自分を知る=自分は何が好きで、どういったことに頑張れるのかを知るには、選り好みせず様々なことにチャレンジしながら、それらに自分がどうレスポンスをするのかを少しずつ知っていくしかありません。
学校がプログラムを整えた体験と学びの場は、自分を知る貴重な機会。仮に関心が持てなさそうなことでも、先ずはきちんと取り組んでみないことには、自分が何にどう反応するかは分からないままです。
他人の体験記をいくら読んでみたところで、その場に置かれた自分がどう反応するかは想像の域を出ず、自信をもって「ここが私のいるべき場所」とは思えないのではないでしょうか。
ただ体験だけを積み上げても、生徒の内省は深まりませんし、思いもよらなかった自分が活動の中にいたとしても、それを見過ごしてしまうこともあります。きちんと振り返りをさせ、自分に向き合わせましょう。
❏ これまでの体験と学びを振り返り、改めて自分を知る
自分を知るための機会は、小中学校で生徒が取り組んできた体験的で横断的な学び(総合的な学習の時間や体験行事など)、日々の授業の中で重ねてきたPBLや探究活動などの中にも豊富にあったはずです。
そうした時間を漫然と過ごしてきてしまった生徒が、自分の志向と資質に合う対象がどこにあるのか見つけ出せずにいるとしても、改めて再/追体験の場を作ってあげるのは、時間的にも無理がありそうです。
しかしながら、その時の記憶を辿らせ、「関心をもって/意欲的に取り組むことができた課題」にどんなものがあったかを思い出させる中で、どんな場面で自分がポジティブに反応していたかを考えさせてみることなら、十分に可能ではないでしょうか。
進路を選択し、その実現に向けて具体的な行動を重ねて行く(=目標達成のためのタスクを一つずつクリアしていく)フェイズに入ろうとしている生徒に、こうした振り返りの場を持たせるのは有為だと思います。
志望理由を言語化させる(=第一志望宣言を起こさせる)にあたり、進路希望を作り上げるのに重要な役割を担った体験を洗い出させ、それぞれの場面での自分のレスポンスを思い出してみることを求めましょう。
もし、現時点での選択(進路希望)にしっくりと来ない部分があるようなら、視野を少し広く持ち直し、自分事にできる(=意欲的に取り組める、役割を引き受ける覚悟を持ち得る)社会との接点」をもう少し時間をかけて探させてみるべきではないでしょうか。
出願まではまだ十分に時間があります。体験と学習を重ねる中で新たな自分を見つけることも多々あろうかと。柔軟な発想で選択を重ねる中でこそ、「自分らしい生き方、あり方」に近づけるのだと思います。
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本稿は、生徒の進路意識形成/進路希望の実現に焦点を当てて起草しましたが、同じことは、組織や個人が何らかの目標を打ち立て、その達成に取り組むときにも当てはまります。目標を打ち立てたら、それは本当に「自分事」として、達成への努力を惜しまずに頑張れることなのか、一度立ち止まってみる必要もあろうかと思います。「我がミッション」と本気で思えることにしか、意欲と努力は継続しにくいものです。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一