優れた実践にも手札は様々、組み合わせて更なる進化

生徒による授業評価アンケートを利用して、継続的な授業改善(=より良い授業の実現)に取り組んでおられる学校が各地にあります。
多くのケースでは、集計結果を用いて、校内に既に存在している優れた実践の所在を探り、そこでの工夫や取り組みを共有することで、改善が遅れた授業でのキャッチアップが進められています。
また、高い評価を得ることができた授業における工夫も様々。それらを効果的に組み合わせれば、現状を超える「さらに優れた指導の手法」を生みだしていくことも可能なはずです。

❏ キャッチアップに際してのモデルとしてのみならず

優良実践の共有を起点に、先生方が協働で授業改善に取り組んでいるケースでは、集計値分布の変化をヒストグラムや箱ひげ図で確認してみると、分布の尾が短くなる様子が見て取れます。
目的変数である「学習効果(授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できるか)」への寄与度が大きい項目での工夫に倣えば、高い確率で「生徒が科目の学びに自己効力感を持ち得る授業」が実現します。

生徒による授業評価アンケートで高い評価を得た授業での実践には、自校の生徒の学習者特性との高い親和性が見込めます。他の授業に取り込んでも、あらぬ副反応を引き起こすリスクは低いはずです。
しかしながら、如上のケースでも、相対的に高い評価を得ていた授業群の集計値分布には徐々に目立った動きが見えなくなってくる(=四分位グラフの箱の上端の高まりが止まる)ことも少なくありません。
優良実践が「改善の遅れた授業でのキャッチアップ」のために効果的に共有された一方で、高い評価を得ている他の授業で効果を挙げた手法を互いに取り込み、融合させる部分に不足があったのかもしれません。
一人ひとりの発想の中で生まれる工夫には限りもあり、どこかで手詰まりになることもあろうかと。他の先生方の取り組み、様々な実践に触れて、さらなる改善に向けた着想を広げていくことが大切です。
同じ評価項目で同じように高い評価を得ている授業でも、その工夫は一様ではなく、それぞれの先生が作り上げた効果的な手札もあろうかと。
それらを上手に組み合わせて、自分の授業スタイルに取り込んでいければ、これまでに到達できたところの先にも進める可能性が高まります。
これまでの授業が上手く回っている(授業評価の結果も良好、成績も伸びている、好ましい学習行動を取れる生徒も増えたなど)としても、新たなパーツを組み込めば、さらなる改善が図れるかもしれません。

❏ 強みをさらに活かすための一手を考えるヒントとして

例えば、教室内での対話協働を充実させてきた結果、生徒が実感する学習効果(学力向上感)でも高い評価を得たとしましょう。
対話協働について尋ねた項目がほぼ満点に近づいているにも拘わらず、学習効果の集計結果に改善の余地が残るとしたら、他の部分に潜んでいるかもしれないボトルネックを探して解消を図る必要があります。
その時に参考になるのは、学習効果で同様に高い評価を得ている他の授業での工夫や取り組みです。
別の先生は、理解の確認とその結果を踏まえた学びの仕上げにしっかりと取り組ませることで、学力向上感を高めているかもしれません。
適切な問いを用意し、各単元の学びを「より多くの生徒にとっての自分事」にすることで、学びに向かう姿勢(学ぶことへの自分の理由)の強化を図った結果、学習効果を大きく向上させた事例もあるかも。
こうした、自分とは異なるところに強みを持つ先生/授業は、校内のあちらこちらに存在するのではないでしょうか。それらに触れて、着想と手札を膨らませたところに、想像を超えた大きな可能性が広がります。

❏ 隣接学年や他教科の授業を観て、授業観の更新と拡大

共有すべき優良実践というと、学年教科内、あるいは自教科内にその対象を探しがちですが、隣接学年や他教科の授業から有意なヒントを得られることも多々あろうかと思います。
同一教科の隣接学年に優れた実践があれば、それを起点に自分が担当している学年の授業にどうアレンジして適用するかを考えてみるだけで、これまでになかった視点で改善に取り組めるはずです。
他教科の授業も大いに参考になります。生徒は、教科や科目が変わるたびに脳みそを入れ替えているわけではありません。
ある教科/科目の授業で良好なレスポンスを示している働き掛け(活動の置き方や指示の方法)には、自教科の授業を受けているときも、同様の反応をしてくれると期待しても良いのではないでしょうか。
実際、自分が担当するクラスの他教科の授業を、空きコマを利用して覗いてみたら、見違えるような動きをしていることに驚き、その授業でのやり方を採り入れてみたら生徒の反応が一変したという例もあります。

❏ それぞれの工夫を「融合」するために~まずは発信を

それぞれの先生方が重ねてきた工夫とそこで生み出された指導のノウハウを共有することで、改善が遅れた授業のキャッチアップを支えることができ、且つ、優れた手法に新たな組み合わせを与えることでもう一歩先にある、さらに優れた指導法が生み出されていきます。
その起点になるのは、高い評価を得たり、成績を大きく伸ばしたり、生徒の学習行動をより良く改めさせた授業での実践を、教科内外に広く伝えて共有することです。
個々の先生がどれだけ工夫を重ねても、自分の中(担当する授業の中だけ)に止めていては、共有のしようがありません。
狙い通りの効果があった、成果が上がったことを伝えるのは、「自慢」では決してありません。自校に通う生徒の誰もがより良い授業を受けられるようにするための「責任」を全うすることだと思います。
また、ある年度に高い評価を得ていたのに、次年度にはそれまでの改善から逆行するかのように、評価が低下するケースも見られます。これも根っこの原因は、発信を怠ったことによる継承の失敗です。
授業評価、成績分析、行動評価などで得たデータをきちんと活用し、共有すべき実践を探すところまでは、教務や進路といった分掌でも担い得るところです。(cf. 共有すべきは付加価値の大きな指導
しかしながら、ご自身が担当している授業での工夫や手法を整理して、可視化/言語化して伝えるのは、授業者本人にしかできないことです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一