新しい学力観に沿った学ばせ方への転換を図る中で「主体的・対話的で深い学び」がどこまで実現できたか測定することは、これまでに重ねた授業改善に向けた行動の妥当性を検証し、効果を挙げてきた優良実践を抽出するために欠かせません。
今後のさらなる改善に向けて、どこに次の一歩を踏み出すべきかの判断をするにも欠かせないデータの一つになるはずです。
授業者としての行動/活動の配列などに視点を置くことも大切でしょうが、そればかりに目を向けるのではなく、あくまでも学習者の行動と意識の変化(成長)にこそ焦点を当てた議論が必要だと思います。
前稿で考えた「主体的」と「対話的」とは何かに続き、本日はもう一つ残った「学びの深さ」について考察するところから再開します。
2018/06/20 公開の記事をアップデートしました。
❏ 深い学びを考える~まずは「浅い学び」をイメージ
深い学びとは何かを考えるには、先に「浅い学び」をイメージしてみると取っ掛かりがつかみやすくなります。
典型的な「浅い学び」の典型は、習ったことをそのまま覚えているだけというパターンでしょう。
ある問いに対して正解できたとしても、理由を尋ねられてきちんと説明できるようでなければ、別の場面での応用は難しいはずです。
物事のメカニズムや背景、あるいは行間に思考を巡らせることなく、書かれたこと/教わったことを鵜呑みにしているのでは困りものです。
学習した内容に対して、「どうしてそう言えるのか」「別の捉え方はないか」「他のケースに適応したらどうなるのか」といった問いを立てられたかどうかは、学びの浅い/深いを見分けるポイントのひとつです。
また、対話を通じて、自分だけで考えていた時と違った角度から物事を捉えることができるようになったとしたら、それまで「平面」だったものに「深さ」が加わり、「立体」になったと言えます。
学び終えた生徒に「話し合いなどを通して新たな気づきが得られたか」「答えを仕上げる中に深く考える機会が持てたか」などをダイレクトに訊いてみるだけでも、指導の手応えを確かめることもできそうです。
❏ 評価規準の完成を待たず、できた部分から使ってみる
これまでに例示した、「主体的・対話的で深い学び」の実現を確かめる上で指標になり得るものをランダムに拾い上げてみただけでも、
- 自分なりの目的や課題を持っている
- 何をすれば良いか自ら考えている
- 与えられた指示の意味や目的を理解している
- 対話を経て、より良い答えに作り直せた
- チームやパートナーに何らかの貢献ができた
- 協働の場面で状況に応じた適切な行動を取れている
- 不明点を自ら調べる姿勢と方法を身につけている
といった具合に、様々な「充足して欲しいことがら」が並びます。校内での検討が進めば、評価すべき項目はもっと増えてくるはずです。
必要な評価ポイントをすべて拾い上げて評価規準にまとめてから実際の教室で使おうと考えたら、「始動」がいつになるかわかりません。
評価の必要性が先生方の間で共有され、評価規準として文言が書き出せたものから順次、教室に持ち込んで使ってみるのがお奨めです。
実際の評価場面で使ってみてこそ、表現に改善すべき点も見つかりますし、使い方にも習熟できます。以前の記事にもありますが、評価規準は使いながらブラッシュアップ するという発想が大切だと思います。
❏ 様々な場面での評価を組み合わせて多角的に
教室での「主体的・対話的な深い学び」の実現度を測ろうとすると、
- 先生による行動観察(ルーブリック評価)の結果
- 生徒が残したリフレクションシートへの記述や省察ログ
- 生徒による授業評価アンケートの結果
など様々な方法で集めた評価結果を組み合わせなければなりません。
個々の機会に評価した結果を一元的に集約するには、校内に蓄積されてきたデータを生徒IDで関連付ける方法も同時並行で考えていく必要があるということではないでしょうか。
こうした評価は、実施に相当なエネルギーが必要になりますが、新しい学力観に沿った学習指導の実現に学校を挙げて取り組むには欠かせないものです。
❏ 生徒が自分の行動を振り返り、評価できてこそ
せっかく行う評価ですから、学びの主役である生徒にも、主体的・対話的な深い学びを自ら実践しているか認識させるようにしましょう。
主体性、対話の質と量、学びの深さの各領域での評価結果をスコア化して、クラス・学年内のスコア分布を示し、自身の位置を確認させることもできるのではないでしょうか。
スコアの分布に照らして、自分が相対的に「遅れた位置」にいることを知れば、どんなことに意識を向けてこれからの学びに向き合っていくかを考える機会になるはずです。
如上の評価規準リスト(繰り返しになりますが、作りかけでも構いません)から、その日の授業、当該時期の指導で重きをおいた事柄をピックアップして、生徒にも尋ねて、その回答分布を確かめてみましょう。
リフレクションシートや小テストの余白を使ったアンケートなどで、生徒の自省を求めてみると、先生方の目による評価と違った結果が出てくることも少なくありません。そうした乖離の存在に気づくこともまた、客観的に授業改善をすすめていくときに必要なことだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一