コミュニケーション・ツールとしてのICT

臨時休校や分散登校が続くで、ICTの利用が一気に進んだように見受けられます。校内のWi-Fiも整備が加速しそうですので、利用環境は今後ますます改善していくものと思われます。タブレットやスマホを使って小テストやアンケート、意見集約などを行う機会も増えています。
ICTを用いた小テストは回答した瞬間に採点が完了し結果を表示できるため生徒の理解度がリアルタイムで把握できます。賛否が分かれる問題で生徒の意見を集約することや、生徒が考えた問題解決のアプローチなどをシェアすることで「対話的な学び」の拡充も図れます。

2018/07/02 公開の記事をアップデートしました。

様々な取り組みがなされたからこそ、ICT利用の利点も、より良く利用するための改善課題も見えてきました。以下の各記事は新型コロナで一斉休校が要請された後に起こした拙稿です。併せてご高覧下さい。

❏ 多様な意見に触れて、思考を深め、判断力を養う

日々整備が進んでいるICT( Information and Communication Technology )は、対話的で深い学びの実現に大きな役割を担います。
プロジェクタや電子黒板も、先生が予め用意してきたスライドを提示するだけでは、プレゼンテーションツールとしての利用に過ぎません。

生徒からのレスポンスをきちんと拾い上げ、教室で共有してこそ、コミュニケーションの道具として生きてきます。
他の生徒の答案や意見に触れることは、物事には多様な捉え方があることを知り、自分の考えを相対化することに繋がります。
多様なアプローチに触れてそれを吟味して、何が最善の選択かを考えることは思考の範囲を広げ、判断力を高めます。
ここで養われるのは、新課程が求める「思考力・判断力・表現力」そのものであり、コミュニケーションという視点を欠いた利用では、折角のICTも目指す学力の形成に寄与しないことになります。

❏ 理解度をその場で確かめ、進め方を考える

ICTを用いた小テストの利点は、結果を瞬時に把握できることです。
広く用いられている Google Forms はもともとアンケートフォームを簡単に作るためのツールとして提供されていますが、採点機能があるため小テストとしての使い勝手も良好。利用する教室も増えてきました。
導入フェイズで既習事項の理解度を確かめるのに用いれば、どこまで遡らせてから新しい単元の内容に入るべきかの判断材料が得られます。
説明の途中でも、「ここまでちゃんとわかっているか」を確かめるべき場面で問いを出せば、瞬時に結果が出てきます。
選択式の問題に限らず、テクストでの入力・回答もできますので、理由を述べさせたり、要約や内容説明を課したりすることも可能です。
自動採点の仕組みを利用して採点時間を削減すれば、そこで浮いた時間を生徒指導や誤答分析に基づく指導改善に当てることもできます。

❏ フィルタ機能を用いて公開添削や意見吟味の材料に

回答データは、スプレッドシートとして蓄積されますので、データ処理や解析も容易になります。
生徒から寄せられた解答や意見から、特定の文字列を含むものを検索・抽出した結果を公開添削や意見吟味の教材として使うのも簡単ですし、実際にそうした利用をしている先生方もおられます。
資料の中から同じキーワードを拾い上げた答案でも、まとめ方は様々であり、その多様性を知ることは生徒にとって重要な学びになります。
個人/グループでそれぞれ考えた答えや意見を一覧で表示した上で、その分類にも挑ませましょう。分類した結果を吟味し、改めて答えを作り直させれば、学びは大きく広がりと深まりを持つはずです。

❏ 賛否の分かれる論点で、対立意見の根拠を知る

賛否の分かれるイシューを教材に用いる場面では、賛成/反対のいずれかを選択させた上で、その理由を論述させるのも面白そうです。
自分と対立する意見(賛否)を持つ人が、何に着目し、どこに重みを置いて考えているのかを知ることは、思考の相対化を図り、判断の軸を作らせるのに欠かせない工程です。
同じ立場をとる他の生徒が、どんな理由を挙げたかを知れば、自分の意見をよりロジカルで説得力のあるものにブラッシュアップする手がかりも得られます。
こうした学習活動は、島型のレイアウトを作ってグループワークで取り組ませるのが通常でしょうが、ICTを利用して文字で意見をシェアしてみると、対面での対話とは違ったものになることもしばしばです
実際、他の生徒のペースに巻き込まれず、自分の関心と興味に添ってじっくり考えられた、取り組みやすかったという生徒の声も聞こえます。

❏ 対話で膨らませた思考は答案に仕上げ直させる

ICTを上手に利用すれば、「対話的な学び」をより効率的に拡張していくことができますが、対話で膨らませた発想や、深めた学びも、そのままにしては確かな学力として定着しません。
最初に自分が作った答えを、学びの成果を採り入れて作り直させることが大切です。(cf. 答えを仕上げる中で学びは深まる
別稿の通り、「最初の答えと作り直した答えの差分=学びの成果」ですから、最初に作った答えと、学びを経て仕上げた答えの双方をデータとして蓄積しておくことは、学習評価を適切に行う上でも欠かせません。
如上の差分は、先生の立場では指導の結果です。どれだけの差分を得られたか、指導の改善を図るための課題を見つける材料になります。

❏ 導入フェイズで学びのウォーミングアップに利用

過日参観させていただいた世界史の授業では、四大宗教の導入で、それぞれの宗教に対してどんな印象を持っているかをスマホから回答してもらっていました。

それぞれの生徒が知っていることや抱いている漠然とした印象を、集計結果としてシェアした上で、そうした認識がどう形成されてきたのかを考えるところから単元の学習に入っていくという手順です。
これから学ぶことへの関心を持たせ、学ぶ意欲を刺激する効果は、そのときの生徒の表情やディスカッションへの積極的な参加の様子からはっきりと見てとれました。



普通教室にもプロジェクタが設置され、電子黒板を備える学校も増えてきましたが、スライドの提示や動画の利用といった「プレゼンテーション機能」の活用に偏っているようにも感じます。
生活指導上の理由でスマホの使用を校内で禁止していることもあるようですが、禁止により問題の発生を防ぐことと、使わせながら正しい方法を学ばせることのどちらを優先すべきかは、自明ではないでしょうか。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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