論述問題対策の前段階~要約の練習(後編)

答えが一つに決まらない問題や、多量の文章や資料を読ませて、そこで理解したことを元に思考させ、その結果を論述させる問題が増えてくる中、その前段階である要約についても、しっかりと力をつけさせておく必要があるのは、前稿で申し上げた通りです。
要約力の向上には、先生方による添削も重要でしょうが、いつまでも隣にいてあげることもできません。生徒自らが、より良い要約にするには何が必要かを見つけ出せるようにしてあげることが大事です。
そのためには、まずは要約問題の採点に利用する「採点ルーブリック」の確立と、生徒自身にもそれを当てはめる練習を積ませることです。

2018/02/16 公開の記事をアップデートしました。

❏ 採点基準を用いて、到達目標を生徒と共有

先生がいくら丁寧に評価を行っていたとしても、その結果を示すだけでは、生徒が自己の答案/発表を評価する力は養えません。与えられた記号(評価の結果)に一喜一憂するだけで終わる生徒がいるかも。

かといって、生徒による相互/自己評価の練習を漫然と重ねるだけでは単に場数を踏んだだけ。評価の力が養えている保証はありません。
別稿「生徒は評価者としてどこまで成長しているか」でも申し上げましたが、採点基準を正しく適用する力を養う必要があります。
まず振り返って点検していただきたいのは、以下の点です。

定期考査や校内実力テストにおける要約問題や意見論述問題などの採点基準(評価の観点と各観点の評価規準)が、3ヵ年を通して、きちんと(=段階性や整合性を備えたものが)用意されているか

万が一、考査での採点基準が明確でない/場当たり的に作っているとしたら、普段の授業での評価基準にもブレが生じているはずです。
指導の初期段階から、卒業を迎えさせる時までを見通して、要約の採点にどんな観点と評価規準を設けているか、どこかでしっかりと「たな卸し」をしてみるべきだと思います。
初学者に対しても、力をつけてきた上級生にも同じ基準で採点しているようでは、「段階的な指導目標」との間での不一致も疑われます。

❏ 3ヵ年を通して、整合性と段階性を備えた採点基準を

課題に挑むたびに、恣意的に(その場しのぎの)採点基準が設定されるのでは、生徒は混乱もすれば、余計な誤解も抱きます。
採点基準は、自分の取り組みとその成果(ここでは要約の出来栄え)を振り返るときの拠り所。それが統一感を欠き、ぐらついていては、いつまでたってもきちんとした振り返りは出来るようになりません。
また、生徒の要約力や論述力が高まってきたら、採点基準をひとつ引き上げて、さらに上を目指す動機を与える必要もあるはずです。
基礎練習の段階ではあえて着目を求めなかった観点も、成長を見極めながら、採点基準の中に組み戻すべきタイミングを探るべきでしょう。
3ヵ年を通した指導計画の中で、それぞれのフェイズで用いる採点基準が、段階性と整合性をもってきちんと用意されていることが、生徒の要約力を着実に引き上げていくための前提ということです。
教科や科目(あるいは先生)によって、基準のあり方がバラバラというのも困ります。根っこになる部分はしっかりと共有し、他教科との学びの重ね合わせが上手に活用できるようにしましょう。

❏ 基準に照らした自己評価で、要約とは何かを学ばせる

要約や論述の採点基準を整えたら、実際の教室でも要約練習と自己評価/自己添削にしっかり取り組ませていきましょう。採点基準に照らしながら、要約の自己添削を重ねるうちに、生徒は体験の中で、

  • 要約とは何をすることか
  • 仕上がりはどんな要件を満たす必要があるか
  • どのような基準で点数化(採点)されるのか

を徐々に学んでいきます。前回よりも要件を満たした要約ができたら、達成感も得られ、次に向かうモチベーションも高まります。
一度の要約練習で学べるポイントは1つか2つであったとしても、回数を重ねるうちに、答案が満たすべき条件が網羅されていき、「要約問題の採点ルーブリック」全体への理解も深まるはずです。

❏ 公開添削で採点基準のより深い理解

自己添削に加えて、生徒が手掛けた要約例をサンプルに「公開添削」を行ってみるのも好適です。
一つの例を目の前に共有し、良いところを挙げさせ、なぜそれが高く評価されるのか理由を言語化させたり、改めるべき点はどのように手を入れていくべきか考えさせたりする中で、気づきを重ねさせましょう。
グループやクラス全体での話し合いの中で、様々な気づきが蓄積され、要約の仕方を、生徒がより深く互いに学んでいけるはずです。
自分ひとりで考えていては、理解が足りなかったり、誤ったりすることもあります。他の生徒の発言に触れた気づきはその防止にも有用です。
話し合いの中では、所与の「採点基準」には記述/言及のない部分に、より好ましい要約とするための「新たな充足要件」を生徒たちが見つけ出すこともあろうかと思います。
それらを採点基準に組み入れるべく、整理したり、適切な表現を与えたりすれば、採点基準そのものの改善も図られていくのではないでしょうか。まさに、評価規準は使いながらブラッシュアップだと思います。
実際の答案例に照らして整えられた採点基準は、「在りもの」をどこからか持ち込んだときより、使い勝手の良いものになりそうです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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