論述問題対策の前段階~要約の練習(前編)

新課程への移行で、思考力、表現力、判断力の重要性が高まりました。読んで理解したことを元に思考を展開し、その結果に他者の理解と共感を得られるよう適切な表現を与える力を育み、評価する手段として「論述問題」を課すシーンも、以前に増して多くなっているかと思います。
読んだり話し合ったりして集めた様々な材料(情報、知識、気づき)を土台に、自分の考えを展開する前に、しっかり行わせたいのが、それらの材料を筋道を立てて簡潔にまとめ上げること、即ち「要約」です。
これを欠いては、それまでの(面前のみならず、先人たちが多くの場所で行ってきた)議論を踏まえた意見を効果的に構築していくことはできません。論述対策の入り口では要約の練習をしっかり積ませましょう。

2018/02/15 公開の記事をアップデートしました。

❏ 自分の意見の前に、土台とするところをきちんと要約

論述やプレゼンにまとめた主張が聞き手の共感を得るには、議論の土台としているところを、聞き手(テストを受けているときは「採点者」)との間で、共有していることが大前提。
何かを読んで/調べて理解し、その上に自分の意見や論理を組み立てたとしても、土台としたこと(理解)を要領よくまとめて伝えておかないことには、「何を土台にした議論なのか」を相手は捉えてくれません。
その結果、「勝手なことを好きに話しているだけ」と思われてしまっては、せっかく組み立てた意見や論理も相手の心に響かず、自分の思いや考えは、相手の理解と共感を得るには至らないのではないでしょうか。
こう考えてみると、論述問題の指示文によく見られる、「資料の要旨を簡潔にまとめた上で、それに対する意見を述べよ」という条件指定も、改めて合理的なものだと感じます。
限られた試験時間の中で、ときに膨大な資料に目を通し、その要旨をまとめるのは大変ですが、しっかりと練習を積ませ、出題者の要求の第一段階(資料の要約)はスパッとクリアして見せたいところです。
試験以外でも様々な場面で、(文字にするかどうかは別として)要約の力は大切です。
誰かと対面でディスカッションをするときも、自分の発言が土台としているところを簡潔、且つ明解に伝えることで、相手との「前提共有」が進み、その後の議論もかみ合いやすくなるはずです。
相手がそれまで話していたことを整理して、「こういうことですよね」と要約して見せれば、そこからの議論にも新たな展開が作れそうです。

❏ 要約力は、国語や英語以外の言語系教科以外でも

読んで理解したことを自分の言葉で簡潔にまとめ直す力は、国語や英語などの言語系教科だけで作り上げるものではありません。
教科書に書かれたことを自力で読ませ、理解したことをプレゼンさせる場面はどの教科の授業にもあるはず。要約力養成のチャンスです。
地歴公民や理科、家庭科や保健でも同じことができます。数学では式や図などの非言語的手段を用いることになりますが、理解した題意を図式化するのも、趣旨としては同じことをしているのだと思います。
生徒が要約に慣れていないときは、資料は短めのものにするのも良いですが、焦点を絞る「問い」や「指示」を与えることで、ピックアップすべき情報を探しやすくしてあげるのも好適です。
将来(卒業後など)、誰かが親切に短い資料を用意してくれる環境から出たとき、生徒は自らポイントを絞れるようになっている必要があるはず。如上の問いや指示でガイドし、徐々にできるようにさせましょう。

また、参照型教材(参考書)の説明を読んで、そこで理解したことを他者(ペアの相手など)に伝えることなら、どの教科でも日常的に行われているはずですが、これも見方を変えれば要約の一種です。
情報を素早く且つ的確に拾い上げ、ポイントを押さえて簡潔にまとめる力は、生徒が社会に出た後の職業生活などにおいても大切です。

❏ 要約力を高めることへの意識は考査問題で作る

要約力を高めようとするなら、定期考査でも初見の資料を用いた要約問題をしっかりと課していくことも検討しましょう。
教室で既に学んだテクスト/資料を元に要約問題を起こしても、「本文内容を正しく理解する力」が身についているかどうかは測れません。
新課程の下で試すべきは、何を勉強してきた(どこまで覚えた)ではなく、学んだものを使って何ができるようになっているか。学力観は、パフォーマンスモデルからコンピテンシーモデルに転換が進んでいます。
要約は、日々の授業の中でも、あるいは宿題でも課題とすることができますが、考査でも出題されるとなれば、それに向けた準備にも力が入ろうというもの。
生徒は考査問題に合わせて学習のスタイルを作りますので、いくら授業中に要約の練習を積ませても、考査で出題されない/出題されても配点が小さいのでは、学びの方向付けが弱くなることが懸念されます。
日々の授業で要約を課しつつ、観点別の段階的評価規準に照らした評価をきちんと行い、望ましい要約とは何かをきちんと学ばせておけば、考査での点数で、そこまでの頑張りの手応えが確かめられるはずです。
宿題でも同様の評価はできますが、無制限に時間を掛けることも、自分以外の助けを得ることもできる以上、「決められた時間内で、新たな課題に対して出来ること」を測るには、テストの方が好適かも。
3ヵ年/6ヵ年を見通した指導計画の中に、定期考査で、要約問題や意見論述問題をどのくらい課すか、きちんと計画しておきましょう。

後編に続く。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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