蛍光ペンでマークアップやサブノート式のプリントに頼る手法が抱える問題点とその悪影響を抑えるための工夫について考えた前稿、前々稿に引き続き、今回は「問い掛けで気づきを促しつつ、黒板上で情報を構造化していく」ことを軸にした、別のアプローチをご提案いたします。
2014/12/12 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 問い掛けと板書で、情報整理のプロセスを学ばせる
問い掛けで生徒の気づきを促し、確認したことを黒板に描きだしていくことは、「情報整理の過程を生徒の目の前で展開し、経験させることでその手法の獲得に向かわせる」ということでもあります。
教科書に記載されている事柄を、一つひとつ問いながら、重要な情報を拾い上げ、それを全体の流れに組み込んでいく(=整理/構造化する)プロセスを、生徒を巻き込んで一緒に進めていくことが大切です。
問い掛けと板書を重ね、「耳で聞いて」「目で追って」「手を動かして固定する」ことを繰り返す中で、生徒に情報整理のプロセスを共時的に体験させることが、手法獲得のための主軸となります。
❏ 対話をしながら、ポイントをピックアップ
まずは、教科書に書かれたことを一文ずつ読ませていきましょう。生徒自身に教科書をきちんと読ませることも大切です。
何の問いの提示もなく「さあ、教科書を読みなさい」では、どこにフォーカスして情報を集めるかも、生徒はピンときません。テクストに向かい情報をピックアップするきっかけを作るのは「問い」です。
前稿、前々稿と同じ教材なら、問いの流れはこんな感じでしょうか。
「配置から大別すると、・・・何と何があるって?」
「そう、骨格筋と内臓筋って書いてあるね」
「でも、これって『便宜的な分類』なんだって」
これらの問い掛けと、生徒自身の教科書などの参照、その結果に基づく発言などを積み重ねた結果、出来上がるのはこんな板書でしょうか。
❏ 分解と再構成のプロセスも対話を行う中で
理解の大枠を捉えたところで、先生からの発問はさらに続きます。
「じゃあ、どんな分類法があるって書いてある?」
「組織学的分類は、便宜的な分類とどこが違うの?」
「何と何に分類されるわけ?それぞれの定義は?」
こうしてワンステップずつ進めて完成したのが以下の板書です。
先生が、用意してきた板書案に基づき、黙々と板書を書き上げても、整理の背景で行われた思考を、外から見ていた生徒は把握できません。
対話(先生との問答)の形を取りながら情報を整理していくことで、先生の頭の中の動きを生徒がトレースしていけるようにしましょう。
整理した結果を知識として覚えることと、初見の情報を前に自ら整理/構造化する(=理解する)すべを身につけることは全くの別物です。
❏ フレームが完成したら、パーツは生徒に埋めさせる
表内の青字の部分は、敢えて板書しないで、生徒自身に教科書から語句を拾い上げさせて埋めるように指示しても良いはずです。
生徒にできることは教師が肩代わりしない、というのが鉄則です。
板書/ノートの完成に向かうフェイズでは、別稿でご紹介した以下のような方法もあります。ちょっとした工夫ですが想像以上に効果的です。
ポイントになるところをあえて文字に起こさず下線だけ引いておいたり、枠だけを描いておいたりして、該当箇所の学びを終えてから埋めるべき文字を書き込ませるという方法もあります。
項目名や単元名、表組の行/列タイトルも、最初は書かずにおき、後で埋めさせることで、そのパート全体の意味付けを行うのも、強い印象を残すために試してみたい方法のひとつです。
❏ 教科学習指導で図るべき、情報整理のスキル獲得
科学の発展や学問の進展の中で、現在の知識はやがて更新されます。社会の変化で解決しなければならない問題も次から次へと生まれ、その解決に必要な知識にも新しいものがどんどん要求されます。
上級学校に進学しても、職業生活を始めても、新たに学ばなければならないことは尽きることはありません。
そうした中で、情報の大波の中で主体的に生きるには、情報に弄ばれることなく、自らの力で情報をハンドリング/コントロールするすべを身につけておくことが大切であるのが申し上げるまでもありません。
教科学習指導は、知識を得る場であると同時に、情報を評価して整理する方法(汎用スキルの一部)を身につけさせる場でもあることを忘れずに、あらゆる指導(教科学習、進路、探究)に臨みたいところです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一