これまでの取り組みやその成果を振り返って、より良いパフォーマンスを得る/より良い自分に近づくのに何をすべきかを見出せるようになることは、持続的な成長にも、学習者としての自立にも欠かせません。
21世紀型能力では、「思考力」を構成する要素のひとつに「自分の問題の解き方や学び方を振り返るメタ認知、そこから次に学ぶべきことを探す適応的学習力等」が挙げられていますが、生活、学習、進路の各領域での教育活動を通して、その獲得を図らせていきましょう。
❏ 到達目標や生徒への期待をしっかり伝えること
別稿でも触れましたが、「振り返りを経てこそ次への課題形成」です。
予め設定された到達目標/評価基準に照らした「自己評価」に加えて、取り組みの成果を発表する場(答案のシェアなどもこれに含まれます)を通して「彼我の違いを知る」ことが的確な振り返りへの起点です。
下図は、生徒による授業評価アンケートにおける以下の3項目の授業別集計値をもとに作成した散布図です。
【目標理解】 | 作業や練習の目的や到達目標を先生ははっきりと示してくれる。 |
【振り返り】 | 振り返りや先生からの助言を通じ、次に向けた課題が意識できる。 |
【発表の場】 | 自分の努力や取り組みの成果を示せる発表の機会が整っている。 |
上左図からも明らかな通り、到達目標を明確にしておかないと、振り返りを行ったとしても形だけのものになり、次に向けた課題を意識するには至らないことが多々あります。
データは実技実習系の授業(n=1,117)のものですが、講義座学系の授業でも到達目標をしっかり理解させておかなければ振り返りの「基準」が持てず、漠然とした感想程度のものしか期待できません。
学校生活や進路選択に向かう行動でも、学年や時期に応じた「生徒への期待」を先生方がしっかり伝えているかどうかで、取るべき行動を生徒が選択できるかどうかに大きな違いが生じるのは、別稿「生徒に期待する行動をはっきり示す」でお示しした通りです。
❏ 的確な振り返りのカギは「相対化」
一方、上右図でも【発表の場】と【振り返り】の間には有意な正の相関が示されています。生徒が個々に頑張るだけでは「目一杯頑張った」という認識しか持てませんが、他の生徒の発表に触れて彼我の違いを知る/自己を相対化することができれば、それまでの自分の取り組みに不足していたことの所在がよりはっきりしてくるからです。
しかしながら、上の2つのグラフを見比べてみるとわかる通り、発表の場が整っている度合いと的確な振り返りができるかどうかの相関は、目標理解との間ほど強くありません。
単に成果を発表するだけで、他者の発表を分析的に観察し、その良さと良さを生み出している要素を捉えていなければ、「どうすればより良いパフォーマンスを得られるか」を特定していくことはできません。
右上図で近似線から下方に大きく離れた授業では、的確な振り返りに必要な「相対化スキル」を獲得させる指導が不十分ではなかったか、発表することを自己目的化していなかったか、省みる必要がありそうです。
講義座学系の授業でも、生徒の答案をシェアすることが、相互啓発の起点となり、学びを深める効果を得ますが、単に答案やレポートを提出させる(=発表させるのと基本的には同じこと)だけでは、相対化も相互啓発も働きません。(cf. 提出物は丁寧に添削して返すのがベスト?)
生徒が提出したもの/発表したものを題材に、評価者としてのトレーニングを積ませていかないと、せっかく用意した発表の場も「そこに向けて頑張らせる」という機能しか持たなくなってしまいます。
上右図における回帰残差(近似線からの距離)は、生徒が評価者としてどこまで成長し、メタ認知や適応的学習力を備えてきたか推し量る指標の一つになるはずです。
❏ 課題を見つけても具体的な解決策を探せなければ
的確な振り返りが行えたかどうかは、「次の機会にはどう取り組めばよいか」に当たりをつけた上で、目的意識/課題意識をもってその機会に臨めるかどうかを見れば、ある程度まで判断がつくはずです。
下図は、以下の2項目と如上の【振り返り】の相関を示したものです。いずれも、少数の例外はありますが、振り返りをきちんと行っているかどうかが、学習方策の獲得や目的意識の喚起の「上限」を実質的に決めている様子も見て取れます。
【学習方策】 | 私は、この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う。 |
【目的意識】 | 私は、自分なりの課題や目的を持って日々の授業に臨んでいる。 |
振り返りを行って課題を見つけた(=これまでの自分に足りていなかったものを見つけた)としても、その解決に向けて具体的な方策を探り当てなければ、次の機会でのより良いパフォーマンス/より良い自分には近づけません。
不足を冷静に捉えても、具体的な策なしでは上手くいく保証はありません。「今度こそ」「いつかはきっと」といった覚悟は立派ですが、無策で挑んで返り討ちに合うのを繰り返しては、やがて覚悟も鈍ります。
上左図で、近似線を大きく下方に離れた授業では、そうした状態にある生徒が多いということになるのではないでしょうか。
また、次のチャンスにどう挑むか勝算をもってイメージできていれば、自分の可能性を試したいとの意欲も湧こうというものです。目的や課題意識をもって日々の授業に臨んでいるかは、こうしたイメージを持てているかどうかによっても左右されると思います。
上右図では、決定係数も小さめ(目的変数と説明変数の相関が弱い)に出ていますが、これは、振り返りをさせることに加えるべき「補完策や指導の工夫」が様々あるためです。
周囲の頑張りに刺激を受けたとしても、それを上手に消化するには、先生方や周りからのヒントや助言が必要なときも多々あります。
一人では解決策を見つけられなくても、先生や周囲の仲間と相談したりする中で、突破口を見出せれば、前向きな気持ちでチャレンジを続けられます。課題形成から改善策立案までの工程にも、「対話」をどれだけ組み込めるかが問われているということです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一