年末を迎え、総合型選抜で受験した生徒の合格の知らせが既に届き始めていることかと思います。学校推薦型選抜の結果もいよいよです。
生徒が進路希望を叶えて進路を決めたのは喜ばしいことですが、生徒一人ひとりが「なぜ大学に進んで学ぶのか」という問いに自分の答えを持っているか、この局面でこそ確かめてみるべきではないかと思います。
大学・学部を選ぶときは「大学で何を学ぶか」が焦点ですが、進学先が決まった生徒には「何を学ぶか」に加えて「なぜ学ぶか」がとても重要な意味を持ちます。学ぶ理由を改めて確かめておけば、想定と違う状況に直面したときも、ぶれない自分を持てるのではないでしょうか。
2017/03/14 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 独学では得られないものを手に入れるために
合格するために頑張ってきた志望校だけに、生徒にはそこでの4年間をより有意義なものにしてもらいたいと思います。
4年間という時間と、決して安くない学費を投じてこそ得られるものは学位や資格、知識や技能だけではありません。
学びのコミュニティを形成する一員になり、その中で受ける刺激や支えといったものが、4年後には大きな財産になると思います。
ある特定分野での知識を得るだけなら、書籍や論文を手に入れれば当座の用は足りるでしょうし、独学で資格を得たり、研究を続ける人もいる以上、(資格取得に特定の学歴が要件とされる場合は除き)知識を得るためだけに高い学費と長い時間を投じる必要はなさそうです。
同じ学問や専門領域を学び、夢を実現しようとする者が互いを刺激し合い、支え合う「学びのコミュニティ」でしかできないことにこそ、大学に進んで学ぶという選択の意味があるのではないでしょうか。
❏ 学ぶための環境と、ともに学ぶ仲間
大学で学べることと、書籍や論文を読んだりすることでカバーできることを、ベン図を書いて整理してみてはどうでしょうか。
さまざまなイシューについて、議論を戦わせることは、発想を広げ、知識の新しい結びつきを見つける上で欠かせないはずです。
また、実験や調査を行うにはそれなりの設備や協力者、時には(個人では賄えない規模の)予算も必要になります。
自分一人でカバーできる知識の範囲にも限界がありますので、同じ学部の違う学科・専攻の仲間がいることは、研究を進めるうえで大いに役立つでしょう。
仲間との対話の中で得られる「知の交換」は、書籍から一方通行で得られる知識とは違った働きをしますし、そこで培われた関係は、大学卒業後の研究や事業でも大切な糧になるはずです。
❏ 興味を深堀するだけでは、広がりがない
独学で学ぶことは、興味を深掘りすることには向いていても、発想や視野を押し広げにくいという弱点もあります。
書籍や論文から得られる情報は、自分がそこに興味・関心を抱いたものにしか手が伸びにくいもの。
ネットの検索と同じで、PULL型の情報取得なので、関心のないところに触れる機会は乏しくなりがちです。
様々な専門を持つ方と触れ合うことでの気づきもあれば、単位を揃えるためにやむなく履修した授業で偶然みつけた「自分の専門・興味と、他の領域の関係性」などもあるはずです。
大学が用意したカリキュラムに乗っかって、様々な科目を履修する中で色々なメンバーと一緒に学ぶことの良さはここにあるのだと思います。
ネット上のサークルや任意参加のコミュニティもありますが、対面で、同じ課題を共有した仲間と作るものはまた別の価値を持つはずです。
❏ 学びのコミュニティに自分はどんな貢献ができるか
このように考えてみると、大学で学ぶことと独学との最大の違いは、仲間の存在であろうと思われます。
学問や研究への意欲を強く持つ仲間が周囲にいることは、自分の地平を飛び越えるための推進薬や飛び続けるための翼のようなものかもしれません。(cf. 多様な生徒で構成する学びのコミュニティ)
コミュニティの一員になる以上、受益者でいるだけではすみません。自分もそのコミュニティに何かの貢献をすることが求められます。
ハーバード大学の学生募集ページ には、こんな記述があります。機会があれば、生徒にも紹介して、和訳させてみたいところです。一語一句の意味を熟慮して自分の言葉にすることで記憶にも刻まれるはずです。
In our admissions process, we give careful, individual attention to each applicant. We seek to identify students who will be the best educators of one another and their professors — individuals who will inspire those around them during their College years and beyond.
❏ 進路が決まった生徒に課す、最後の宿題
大学に入ることが目的ではなく、学位を取得できればOKということでもありません。 大学での学びにどんな姿勢で臨むのか、高校を卒業して大学に進もうとしている今こそ、生徒にしっかり考えさせましょう。
合格の知らせを持ってきた生徒には、
「大学に進んで何を学ぶのか」
「大学に進んで学ぶのはなぜか」
を改めて問い、終業式までにまとめさせてみるのは如何でしょうか。
卒業後に歩んでいく道に、明確な目的と意味を見出させて送り出すことは、「目標を持った状態で巣立たせる」という、ここまで目指してきたことの実現のために、生徒にしてあげられる最後の指導だと思います。
歩み出そうとするこの場面で、自分の未来をしっかり見据えさせることは、何年後かの同窓会で再会するであろう卒業生の「生き生きと学び、大きく成長した姿」に繋がっていくはずです。
また、進路が決定したとき以外にも、進路希望を具体化させていく途中で「大学に進んで学ぶことの意味」を考えさせてみることは、進路選択に向けた生徒の意識に何らかの好ましい変化をもたらすと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一