受験期は、またとない成長の好機

生徒にとって受験期は、自分の希望を叶えるためとはいえ、大なり小なりの不安を抱えつつ、他のことを脇に置いて頑張る時期です。つらさやストレスを感じる日々ではあるのは確かですが、

  • 背伸びをして、自分を成長させる/自分の可能性を広げること
  • 頑張る中で、周囲との関係を感謝の気持ちで捉え直すこと

など、この期間を通してこそ得るもの(成長)は小さくないはずです。
生徒は渦中にいるだけに、他の誰かが伝えてあげなければ、せっかくの受験期を、その意義を知らぬままに終えてしまうかもしれません。それを伝えるのは、先生方をおいて他にいないのではないでしょうか。

2018/10/30 公開の記事をアップデートしました。

❏ この時期だからこそ生徒が知るべき、しんどさの意味

10月も終わりを迎えて、秋も深まる中、受験準備も本気モードに切り替わっていることと思います。
夏前からスパートをかけてきた生徒は、そろそろ疲れが出てくる頃かもしれません。成果が出ていればともかく、模試の成績も思ったように上がってこなければ疲労感も強まってきます。
だからこそ、この時期のしんどさが持っている意味を、ショートホームルームなどで伝えてあげることも必要なのではないでしょうか。
先生からの言葉を受けて、大きく息を吸い込み、足取りを再び確かなものにできれば、進路希望の実現も近づいてくるはずです。

❏ 身につけてきた力を発揮し、さらに高めるべき場面

受験で必要な科目を一生懸命に勉強する中で、生徒は科目に固有の知識を蓄えるのと同時に、様々な能力や資質を得ています。
情報を理解し整理する方法や不明を解消するときの行動などの学習スキルや、思考力・判断力・表現力もこの場面で高められていきます。
やるべきことが沢山あって時間が足りないときに優先順位を決めて効率よくこなしていくタスク管理のスキルも身につくでしょう。
しんどいときでもその気持ちに打ち克って自分の行動を律する姿勢や強さもここで得られるはずです。
自分が決めた目的に向かって邁進し、道を切り拓いていくときに必要なことの多くが、受験期の体験の中にあります。
頑張る力は高校生活の様々な場面で身につけてきたはずですが、仕上げに当たる受験期で、安易に逃げたり諦めたりしては、自分の中に養われてきた力にも自信を持てなくなってしまいます。

❏ 登ったところからしか先の風景は見渡せない

巨人の肩の上に乗る、という言葉がありますが、くるぶしあたりでうろうろしているときと、なんとか腰のあたりまで登ったときとでは見える光景が違います。
背伸びをして手を伸ばし、足を踏ん張って少しずつ自分を高いところに引き上げていくことは、見渡せる範囲を広げることにほかなりません。
その中に自分が進むべき道があるとしても、半端なところで「ここでいいや」と登ることを止めてしまったら、その道は見えないままです。
頑張ることは、見えている目標に近づくだけでなく、まだ見ぬ自分の可能性(如上の能力や資質を含めて)を押し広げることです。

しんどくなってきたら、小さな目標を近いところに置いて、そこまで頑張り、到達したらまた次の目標を設定することを繰り返すうちに、どこかでパッと視界が広がるものです。

❏ 周囲との関係を感謝の気持ちで捉え直す機会

しんどい思いをしている時こそ、周りの支えを有難く感じるものです。
受験体験記などを読んでいると、保護者や先生方の支えに感謝する言葉があちらこちらに見られます。
受験期の真っただ中にいると、つい自分のことに切羽詰まって周囲が見えなくなっていることもありますが、そんなケースでも受験を終えたら感謝の気持ちが湧き上がってくるようです。
こうした体験を通して、周囲との関係を感謝の気持ちで捉え直すこともまた、受験期の持つ大きな意味の一つだと思います。
友人関係にしても、自分が頑張る中で、それぞれの目標に向かって努力する相手の思いを尊重する気持ちも持ち始めます。
進路希望の実現という目標に向かって疾走しているとき、周囲が見えなくなることもありますが、生徒たちに、一日の終わりに「今日の感謝」や「他者への敬意」をひとつでもふたつでも思い起こしてみる1分間を持つよう求めておられた先生がいらっしゃいました。

❏ 学年通信などで保護者に「受験期の持つ意味」を伝える

こうした受験期が持つ意味は、生徒と一緒になって不安になりがちな保護者の方々にも知っておいてもらいたいことです。
ただでさえ不安になりがちな受験生に、周囲があたふたして見せてもプラスはありません。不安とストレスが伝染するだけです。
先生方が生徒に、最後まであきらめずに自分の可能性を押し広げさせようとしていることに、家庭からの理解を得ておかないと、せっかくの受験期も「またとない成長の好機」にならなくなってしまいかねません。
学校の進路指導の方針は、生徒募集の段階からしっかり伝えてきたはずですが、それでも現実に受験期を迎えたときに改めて伝え直す必要があろうかと思います。
学年通信や学校WEBサイトの保護者向けページ、SNSなど、あらゆるルートを通して、先生方の指導意図を保護者に届かせましょう。
ちょうど学校評価アンケートを行う時期ですので、その依頼文書の中に学年通信や進路だよりを同封しても良いのではないでしょうか。
追記: 推薦入試などで進路が決まった生徒の中には「残りの高校生活をのびのび過ごそう」と考えるものもいるでしょうが、来春から始まる新生活に向けて、自分の立ち位置を確認させておくことも大切です。
ゼロ学期に起こさせた「志望理由書」(cf. 志望理由を言葉にしてみる~ゼロ学期の始まりに)に立ち戻り、受験を経た自分の成長とまだ残っている課題み向き合わせてみるのも好適かと思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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