学びの広さと深さ

昨日の記事「進学前に改めて考えさせたい、大学で学ぶことの意味」でも書きましたが、自分が興味があることだけを掘り下げて学ぶのではなく、選り好みせずに広く学ぶことも重要だと思います。

様々な専門を持つ方と触れ合うことでの気づきもあれば、単位を揃えるためにやむなく履修した授業で偶然みつけた「自分の専門・興味と、他の領域の関係性」などもあるはずです。

❏ 広く学ぶことのイメージ

各教科・科目の内容を学び始めたころ、例えば小学校では、それぞれの科目は互いに関連をほとんど持ちませんが、学びを進めていくと各々がカバーする範囲が広がって、少しずつ重なりが出てきます。
絵にしてみるとこんなイメージでしょうか。


教科や科目という区分けは学校教育での運用を考慮した便宜上のもの。互いを分ける「境界」はもともと存在しないののだと思います。
ひと通りをきちんと学んだあとは、隙間はそれほど残らないようにできているはずです。
その科目が得意か苦手か/好きか嫌いかといったことで、教科・科目を選り好みしていては、上の絵の中で成長しない円がひとつふたつと出てきます。

❏ 認知の網に大穴を残すと分散知も利用できない

そこでできた「隙間」では、解決すべき課題にであっても、解き方の糸口さえ見いだせなくなってしまうのではないでしょうか。
専門家に訊けば良いと思うかもしれませんが、学んだことがないということはそこに認知の網が張れていないということ。
その問題に解を与えてくれる可能性のある「知」の存在にすら、想像が及ばないということです。

❏ 深く学んでいない知識は使いどころがない

一方で、一定以上の深さまで掘り下げて学ばず、断片的に集積しただけの知識では、課題解決に使いようがありません。
語呂合わせで「鳴くよウグイス平安京」と覚えていたとしても、この知識の出番はそうそう思い当たりません。
でも、なぜ他のどこかでなく平安京なのか、なぜそのタイミングなのかまで含めて論じられるところまで深めた理解は、ほかの場面で判断が必要になったときに「知恵」を供給してくれるかもしれません。

❏ 深く掘ろうとすれば、自ずと広がりも出る

穴を深く掘ろうと思ったら、ある程度の広さも自ずと必要になり、知識が広がりを持つことに繋がっていきます。
個々に独立しているように見える知識も、どこかで思いもよらぬ繋がりを持っているものであり、掘り下げていくうちに上の絵にある円が互いに繋がる瞬間があるはずです。

❏ 深さがなければ、すぐに埋まる/干上がる

深い池は簡単に干上がりませんが、浅い水たまりは晴れ上がれば間もなく乾いて跡形もなくなりますよね。
深い理解と結びつかない知識は、使う場面もないので掘り直す機会もありませんし、記憶を互いにつなぎとめる「関連」にも欠くので、記憶から簡単に消えてなくなります。
もう少し正確に言えば、記憶の保持ができなかったり、想起できない状態になったりしやすいということです。
せっかく広げた知識も、理解という深さを伴っていなければ、早晩、その広がりも失ってしまいます。

❏ 選り好みせずに学び、興味をもって深める

大学や専門学校に進んだ先は、専門を深めていくことに学びの重きが移ります。広がりを作るのに最適なのは、高校までの教科学習です。
カリキュラムが用意されており、どの科目も否応なく学ばなければならないことは、見方を変えるとほかに代えがたい貴重な機会ではないでしょうか。
高校に入学してきた生徒には、これから3年間が「認知の網をきっちり広げる最後のチャンス」であることを伝えましょう。
高2に上がり必修科目中心の学習が最後の一年を迎える生徒には、より切迫した必要があります。
進路希望に合わせた履修に切り替わった高3生にしても、受験科目以外も手を抜かず一生懸命に取り組むことには大きな価値があるはずです。
それぞれが迎えた局面で、今の学びの意義をしっかりとらえさせて、新しい一年間のスタートに臨ませたいものです。
■関連記事:学びを深める、問いの立て方とその使い方

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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