学ばせたことは、きちんと教科書に落とし込む

教室での学びを「きちんと教科書に落とし込む」ことには以下の効果が期待されますし、実際に教室で試してみるとその手応えも十分です。

  1. 個々の学習内容を全体像の中においた体系的な理解が形成できる
  2. 教科書を深く学べば受験にも対応できるとの安心感が得られる
  3. 教科書をきちんと読む[読めるようになる]ことに動機が生まれる

しかしながら、授業時間の不足もあってか、その重要性にあまり目が向いていないのか、教科書の落とし込みが徹底できている授業は(これまでに拝見してきた限り)それほど多くないようにも感じます。

2018/10/22 公開の記事を再アップデートしました。

❏ PBL型学習を推進するときこそ、教科書を大切に

学習目標を正しく理解させたり、学習活動を効率的に配列したり、あるいは学び方を獲得させるにも、問いを起点としたPBL的な学びが有利ですが、課題解決だけで終えては学びは中途半端なものになります。
特定の課題を軸に、単元のコアとなる内容/箇所について深く掘り下げることができても、それだけで学びを終えてしまうと、その周辺に授業で触れることができなかったことが残るからです。
ここで行うべきは、「教科書に立ち戻ってしっかり読むこと」です。
教科書は、ときに無味乾燥で面白味に欠けるかもしれませんが、簡素ながらも体系的に内容が記述されており、きちんと読みさえすれば、必要最小限の「認知の網」を張るには十分な知識がカバーできます。
問いを軸にした学びで単元理解のコアさえ作っておけば、教科書をじっくり読んで、周辺の知識をピックアップすることは生徒にだってできるはず。サブノート式のプリントを併用すれば、拾い上げるべき知識が漏れるリスクも減らせます。(cf. 知識の獲得は個人の活動を通じて

❏ サブノート式のプリントの空欄を埋めるだけでは…

単元理解のコア(核)がまだ作り上がらないうちからサブノート式のプリントを用いて、「空所を埋める作業」に取り組ませてしまうと、知識の断片化が進んでしまうリスクを抱えます。

限られた授業時間を効率的に使い、学習内容を網羅しようという意図は決して間違っていませんが、結果として得られるものが「生きて働く知識・理解」「深い学び」に繋がらないのでは本末転倒です。
穴埋め式プリントそのものが悪いわけではありません。前述のPBL型の学習との組み合わせでも、周辺まで知識を拡充しつつ「認知の網」を正しく張るには、プリントの穴埋めを併用するのは効果的です。
要は、学びの過程の中での学習活動の配列(順番)の問題です。空所を埋める作業は、「単元理解のコアを作った後」「教科書をしっかりと読みながら/読んだ後」に行うようにしましょう。

❏ 国語や英語以外でも、教科書の音読に取り組ませる

授業の導入で本時の学習範囲を音読することを習慣化して、効果を上げている先生がいらっしゃいました。

クラス全体で声を合わせて音読をさせてから、「一問一答式」の短い発問を重ねて行きます。問いの答えは音読した範囲に見つかるものに限定されていますから、生徒は容易にその答え(=押さえるべき知識)を教科書からピックアップしていきます。
生徒はそのたびに、(当然の反応として)該当箇所を自分なりの方法でマークアップしていきます。
前もって行った音読で全体の流れをざっと踏まえた後に、押さえるべき箇所をピックアップしていますので、如上の作業を終えた段階では既に本時の学習内容をある程度まで学んだことになります。
ここまで至っていれば、その後により詳しい話を聞かせても全体像を見失うことは少ないでしょうし、話し合いをさせるにも前提知識を欠いて議論に参加できないことも減ると思われます。個々の学習内容(項目)に教科書のいずこかにアンカーを持てることがもたらすメリットです。
そうしたメリットを肌身で知りさえすれば、生徒たちは音読という活動にも高いモチベーションで取り組んでくれるのではないでしょうか。

❏ 導入に加え、まとめのフェイズでも教科書の音読

教科書の音読を通した単元全体の把握という手法は、導入フェイズだけでなく、まとめの場面でも使えます。授業時間が残り数分になったら、教科書のページを開かせ、マーカーを手に持たせましょう。
声を出して教科書を読みながら、今日の授業で学んだ重要な箇所を各自で探してマークアップさせていけば、良い「おさらい」になりますし、授業で触れることができなかった箇所もここでカバーができます。
その上で、配っておいたプリントの穴埋めを次回までの宿題にすれば、教科書や副教材にもう一度目を通して、再記銘を図る機会も作れます。
空所に埋めるものを先生が授業ですべて指定し、生徒は覚えるだけという状態よりも、復習に大きな効果が期待できるのではないでしょうか。

❏ 教科書への落とし込みは受験期の不安を取り除く

受験期が近づいてくると、生徒は問題集を買い込んであれこれ手を広げようとしがちですが、そうした行動の根底には、「どこまで学べば良いのか/教科書だけでは足りないのではないか」という不安があります。
演習期に入って過去問に挑ませるときにも、教科書や資料集、用語集といった手元の教材の中に典拠を探させれば、正解を得るのに必要な事柄のほぼすべてがそこに見つかるはずです。
大学入試では「学習範囲の逸脱」は出題ミスの一つになり、批判を受けますので、大学の出題担当者は設問の一つひとつを事前に点検する中で高校教科書に典拠があるかを確認します。
思考力を試すため、教科書に書かれていることを拡張しないと解けない問題も課されますが、それでも教科書に書かれていることを深く理解した上で問題文/設問条件をきちんと読めば解ける問題しか出せません。
過去問演習を重ねる中でも、正解を得るのに必要な知識を教科書の中に求めることを徹底していけば、生徒は「教科書や副教材をしっかり学べば知識面では大丈夫」「あとは知識を使って考えられるかどうか」という安心感と課題意識をもって受験勉強に臨めるのではないでしょうか。
■関連記事:

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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