新課程への移行を機に、「新しい学力観に沿った学ばせ方への転換」が急ピッチで進んできました。これまでの取り組みとその成果を検証して次フェイズに向けた新たな課題形成を図る動きも、各地に見られます。
学校広報においても、これまで/これからの取り組みをただ並べて見せるだけの場合と、きちんと効果測定を行い、その中に見出された新たな課題に具体的な戦略を描いて取り組む姿勢をしっかりと伝えている場合とでは、学校に向けられる期待にも大きな違いが生じそうです。
2018/07/06 公開のまとめ記事をアップデートしました。
❏ 対話的な学びを通して実現する「深い学び」
新学習指導要領を読み解くキーワードの一つが「対話的な学び」ですが、日々の教室での教科学習指導においても、
といった事柄が、指導技術上の課題になるのではないでしょうか。適切な技術なしには、対話を目指しながら、実りの薄い(=学びの成果が小さい)単なる「おしゃべり」に終始してしまうこともあります。
また、対話というと、生徒同士の話し合いが真っ先にイメージされるようですが、それは「対話的な学び」のごく一部に過ぎません。
問答を通じた先生との対話や、教科書や資料を問いを立てて読む中でのテクストとの対話がきちんと行われてこそ、深い学びが実現します。
教わったことをそのまま覚えただけの「浅い学び」に止まらせることのないよう、教え込むより、調べさせて気づかせることに注力すべきですし、「教わって知ったことvs気づいてわかったこと」という対比の中で後者がどのくらいの割合を占めているか常に意識する必要もあります。
教室に様々な対話が実現し、生徒が気づきを重ねて多様性を学んだら、仕上げには単元ごとの学習内容の核に「正しい理解」を形成させていきましょう。(cf. 多様な意見と正しい理解(対話をどう収束させるか))
また、対話などの協働の場面での「評価」をどうするかも重要な課題。多様性などもその定義に立ち戻って考える必要がありそうです。
❏ 主体的に対話に参加する土台=学ぶ理由と学びの方策
せっかく教室に整えた、様々な対話がきちんと機能する(=深く確かな学びに寄与する)には、主体的に学ぶ姿勢を生徒一人ひとりに持たせる必要があります。
対話に臨む準備もおざなり、対話を経た学びの仕上げにもしっかり取り組まないのでは、対話はその場限りのものになってしまいます。
主体的な学びを実現するには、何はさておき、生徒一人ひとりが「学ぶことへの自分の理由」を持っていることが大前提でしょう。
勉強に興味が持てない、将来に夢を見いだせないという生徒もいます。教室の中で「興味が生まれる瞬間」を体験させることを目指して、日々の授業をデザインする必要があろうかと存じます。
また、学び方そのものを学ばせることなしには、教わるまで待つしかない(=学習者として自立していない)状態に生徒を止めてしまい、如上の「準備」や「仕上げ」も覚束ないはずです。
もし、教室を見渡したときに、“正解を言って欲しい”と言う生徒が少なくないとしたら、これまでの学ばせ方にその原因がありそうです。
拙稿「できない?やらない?やらせてない?」でも書きましたが、できるようになって欲しいことはどんどんやらせていきましょう。
❏ 工夫を重ねたら、その効果を検証して次を設計
主体的、対話的で深い学びを実現しようと様々な工夫を重ねてきたら、個々の先生も、教科や学年といったチームも、そして学校としても、きちんとその効果を測定する必要があります。
善意からの行動であっても、検証と修正のない「やりっぱなし」では、自分の思いに生徒を巻き込んだだけかもしれません。
効果的であることがわかれば校内で共有し、さらなる改善に向けた新しい土台にすべきですし、効果が疑わしければ、別の方法を考える必要があります。(cf. 優れた実践にも手札は様々、組み合わせて更なる進化)
以下の記事でも、検証の方法をいくつか提案させていただきました。
もっと良い方法もあるはずですが、まずは「効果検証の機会を設ける」ことを優先すべきです。実際にデータをとってみないことには、どんな観点と規準で効果を測定していくべきか、新たな知見も得られません。
❏ 対話の起点になる「好適な問い」を用意できるか
大学入試に限らず、中高の入試でも、正解がひとつに決まらない問題や学習型問題(問題文中で説明された初見の概念をその場で読んで理解して、それを土台に所与の問いに答えるタイプの問題)が増えました。
これらの問題が求めているのは、確かな基礎力(言語、数量、情報の各スキル)や実践の場で働く思考力や判断力であり、受験を離れた場、社会生活や職業生活を送る上でも欠かせない能力や資質です。
様々な相手(友達、先生、テクスト)との対話を通して得られた気づきを土台に、様々な角度から物事を捉え、ポイントを見つけて問いを立てる力を身に付けさせるには、日々の教室での練習が不可欠。
そうした練習の場をどれだけ用意し、しっかりと取り組ませることができるかが、生徒一人ひとりの卒業後の「生きる力」を左右します。
対話や協働といった学習活動を自己目的化させず、深く確かな学びに結びつけられるかどうかは、「適切な問い」が用意できるかしだいです。
思考を育める対話を実現すべく、問いをテーマに授業を考える機会を、先生方が個々にのみならず、教科などの組織でも整えていきましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一