分業で行う出題研究のフィルタリング(その1)

出題研究は、授業デザインの土台作りです。教科書を使って教えている内容が、どのように問われ、どのように使う(=生きて働かせる)ことが求められるかを知ることは、教材の解釈に確固たる視点を持つ(学力観を更新する)上で欠かせませんし、「授業を通じて理解させたことを用いて解決する好適な問いや課題」を収集する場としても不可欠です。

❏ 今、教えていることがどう問われるのか

教科書に書かれたことを、丁寧に説明して納得させるだけなら、わざわざ時間と手間をかけて入試問題の研究を行う必要はありません。
しかしながら、教科書を使って与えた知識や理解も、切り口や見る角度によって意外な姿を見せますし、使い方(=知識や理解を生きて働かせる)は様々。入試問題から多くのバリエーションが学べます。
いろいろな問題を解くのに、獲得させた知識や理解を活用させ、「こういう場面でも使えるのか」「こんな組み合わせで用いるのか」と気づかせながら、個々の知識について意味の拡張を図らせましょう。
生徒の進路希望を実現しようとするなら、今、教えていることがどんな問われ方をするのか、どんな場面でどんな使い方をすることが求められるのか、まずは先生方がしっかりと知る必要があります。
大学入試問題も、時代とともに変化を続けますし、高大接続改革や新課程への移行を機に、以前にも増して変化の度合いとスピードが変わってきているのを実感します。「昔の感覚」に頼るのは危険でしょう。

❏ 好適な出題例は、本時の学習目標を示すのに使える

別稿でも書いてきたことですが、生徒は、解くべき課題を通じて学習目標を理解し、学ぶことの意味を知ります。

専門家どうしなら、単元名や項目の名前をみただけで、何を学ばせ、どう扱うか、容易に想像できますが、これからその単元や項目を学ぼうとしている生徒との間では、この方法は通用しません。
本時の学習を通じて得た知識や理解を用いて、解を導くべき問い(=ターゲットとなる設問)として示すことで初めて、生徒は何ができるようになれば良いかを知ることができます。
教科書には、例題や練習問題のような問いや、研究課題のようなものも用意されていますが、必ずしも、生徒にとって「自分ごと」との認識を持てるものが揃っているとは限りません。
生徒が目標とする大学群の出題例から、本時の学習内容にマッチしたものを選んで教室に持ち込めば、「どんな問われ方をするのか」「何を知り、何ができれば良いのか」を生徒はよりリアルに感じ取るはずです。

❏ 課題ありきで授業を設計すれば…

授業設計に当たり、ターゲットとなる設問を決めておけば、指導の主眼も明確になります。言うまでもありませんが、授業を通して目指すことは、教科書に書かれていることの「伝達」の周辺や先にあります。
各単元の内容を学ぶことを手段に、様々な能力や資質の獲得という目的を達成するには、課題解決や対話協働といった学習活動の適切な配列が不可欠です。(cf. カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する


題意を理解するときの着眼点や、テクストや図表・グラフなどで与えられた情報をどのように読み取り、整理するかなど、課題解決の工程をひとつずつ踏まえる中で、そこで求められる能力を育みましょう。
こうした授業デザインを日々のものにするための起点は、好適な(=学習内容を広くカバーし、深く掘り下げられる、生徒が自分ごとと認識できる)問いであり、出題研究がより良い授業を作ります。

❏ 目標大学の過去問を解けた経験が、自信とやる気に

受験期がはるか先の時期には、生徒が目標とする/あこがれる大学群の出題例を教室に持ち込むのは無理が大きいと感じるかもしれませんが、如上の手順に従い、当該の問いを起点に授業がデザインされていれば、授業を終えるときには、生徒なりの答えを導けているはずです。
仮に合格答案は書けなくとも、何をどう学んでいけば良いかイメージもできるでしょうし、いずれは何とかなりそうだとの展望は持てるかと。
こうした体験を積む中で、「先生の授業をしっかり聞き、きちんと参加していたら志望は実現できそうだ」という感覚を生徒が持つようになれば、授業への取組にも積極性や主体性が出てくるはずです。
成績的にはちょっと距離がある大学にも、「ちゃんと頑張れば」と思えれば、進路希望の実現への努力もあきらめる必要がなくなります。
同時に、先生方への信頼も高まり、指導に込めた思いも、より深いところに届くようになるのではないでしょうか。
教科書や副教材に掲載されている問題は、正解できるようにならなければいけないものと生徒も頭ではわかっているでしょうが、頑張ってそれらに取り組むことが自分の将来に何をもたらすかピンとこないかも。
試合に出場経験のないまま、体力トレーニングや基礎練習を重ねるだけの日々と、試合に出て鍛錬の成果を実感したり、反省したりする体験を経た後では、練習への身の入り方も違うのではないでしょうか。日々の学習と自らの進路実現の関連を知ることには同様の効果ありそうです。

❏ 好適な出題例の収集と蓄積は、教科内の協働で

教室に持ち込むのに好適な出題例を、様々な大学群の入試から集めるのは、時間も手間もかかりますが、周囲の先生方と協力し合い、見つけたものをシェアしていけば、収集と蓄積のスピードが上がります。
また、過年度からの蓄積も加えていけば、少なくとも主要な単元や学習項目をカバーし得る「出題例データベース」は着実に整っていきます。
生徒が志望する/目標とする大学群は、多岐にわたり、入試方式も様々です。すべてをカバーしようと思ったら「途方のなさ」に気持ちも萎えますが、仲間が増えれば一人ひとりの負担は下がります。
協働により進捗が早まれば、手応えのようなものも強まり、取り組みを続けていく意欲も維持し役すなるのではないでしょうか。
教科内での協働(出題研究の分業)が根付けば、出題からそれぞれが学んだこと(=新しい学力観の下での問い方、獲得すべき能力など)の共有も進み、学力観/指導観の擦り合わせも進んでいくはずです。
その2に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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