理解度の確認~場面と方法(その4)~提出課題の点検で

本シリーズでは、理解度の確認について、目的とするところ発問による理解度の確認小テストによる確認と順に考えてきました。本稿では続いて「提出された課題を通して行う理解度の確認」を考えます。
ここでいう「課題」とは、論述答案、レポート、調べたことをまとめたプレゼンシートなどを指します。発問や小テストが個々の項目の理解を測定するのに対し、より広い理解と深い思考を試すもの、単元やテーマの全体像をどれだけ捉えたかを問うもの、という役割を担うものです。
それぞれのタイプの課題について、効果的な取り組ませ方、評価における観点の置き方なども一度は整理しておく必要があろうかと思います。

2014/05/27 公開の記事をアップデートしました。

❏ 論述答案で確かめるのは、理解の拡充と深化が図れたか

小テストは短時間で完結する都合上、じっくりと構成から考えて理解や思考を言語化できているかを試すのに向いていません。試験時間が限られる定期考査や実力テストも、本質的には同じ弱みを持ちます。
問いの求めに応じて、授業で学んだことや自分で調べた/掘り下げた中から必要なことをピックアップし、的確に構成・表現するのが論述答案です。教室を離れて、じっくり時間をかけて取り組ませましょう。
自分の答えを仕上げようとする中で、生徒は自ずと「ここまでに得た知識・理解に不足や抜けがないか」を確かめることになるはず。課題を与えるのは、生徒に自身で「理解の確認」をさせるためでもあります。
答えを仕上げるのに必要な知識や理解などの不足に気づけば、自ずとそれを補う必要性を感じるはず。そこから、考える、調べる、質問するといった行動を重ねる中で、学びは深く確かなものになっていきます。

論述問題で試されるのは、各単元で学習する内容の一つひとつを理解しているかにとどまりません。それらがどう関連し合っているかを理解しているか、問いの意図を正しく捉えているかも、採点結果に表れます。
生徒に「自由自在」に書かせてみた結果、単元や科目全体の学習を通じて学ばせたことが、どこまで生徒のうちに根付いたかを測定(確認)できないようでは、的確な評価にも、指導の改善にも繋がりません。
測定したい「理解」にきちんとモノサシを当てられるように、採点基準を調えておくと同時に、設問文には字数制限だけでなく、論述の焦点、必要に応じて使用語句なども明記し、方向付けを的確に行いましょう。

論述答案を課すときには、取り組めるだけのレディネスを生徒が備えられるだけの「準備指導」も重要です。力を試そうと課したタスクが、生徒の自信や自己効力感を奪う結果になっては何にもなりません。
生徒と行う問いの読み合わせの中で、どんな情報を組み込み、どんな構成にするかを考えさせ、グループなどで軽く話し合わせてみるのも効果的です。また、参照すべき資料等のアクセスにも習熟させましょう。
また、課題を提出させたら、評価と添削をして返却するだけでは、生徒の伸びは大きくなりません。生徒の答案をシェアして、彼我の違いから自分の答案に足りないものを学ばせるなどの「事後指導」も重要です。

❏ 課題の仕上げは生徒自身で(添削で肩代わりしない)

提出された課題にはしっかり目を通す必要があるのは当然ですが、点数をつけることや、朱入れしてあげることで完結させてはいけません。
生徒がどんなところに理解の不足を抱えているか、構成や表現にどんな発想が欠けているかなどを把握し、「今後の指導における重点課題」を見つけることに主眼を置いて点検に当たりましょう。当然ながら、これまでに力を入れて指導してきたことの「進捗」にも注視すべきです。
しかしながら、目を通した課題に添削を入れるべきかは、また別の話。先生が丁寧に添削するだけでは、生徒が自らの答案をブラッシュアップする練習になりません。不用意に肩代わりしないことが大切です。

提出されたものを精査しながら、生徒の学び(調べる、考える、話し合う)に足りていなかったと思われるところに「この論拠は?」「〇〇は調べた?」などと問いを書き込んで、生徒自身によるブラッシュアップを促しましょう。できるようにさせたいことはやらせることです。
本シリーズで繰り返してきた通り、理解の確認は「生徒が学びを先に進められる状態にあるか」を確かめるために行うもの。一つの課題を完成させる中で、同様のタスクへの取り組み方(学び方)を改善させていくことにこそ、課題を課した目的があるということです。

❏ 拡張型調べ学習などのレポート、プレゼンシート

論述答案タイプの課題以外にも、所謂「レポート」を課すことも多いかと思います。授業内で学ばせたことを起点に、調べ学習などに取り組ませた結果を見て、テーマについて正しい理解が進んだか、取り組み方そのものに対する理解は十分だったかなどを確かめることができます。
調べ、考え、話し合い、まとめ上げるという一連の知的活動に取り組ませた結果が、レポートという形に現れるのですから、レポートそのものの出来栄えに加え、活動の各フェイズにおいて「その目的や方法に関する十分な理解を備えていたか」を探るための材料と捉えましょう。
レポートの評価基準として、以下のような観点を設けておくことで、本来の目的に沿った評価やフィードバックができるはずです。

  • 信頼できるソースから必要な情報を集め、知に編めたか。
  • 知った事実などに、適切な問いを見つけられたか。
  • 他者との対話等を通して、視野と発想を広げようとしたか。
  • 調べたこと、考えたことを構造化し、論理的に表現できたか。

学んだことを構造化する課題には、レポートという形を取らずに、プレゼンシートやポスターに仕上げることを求めるケースもあります。
これらの評価に際し、テーマについて十分に理解が掘り下げられ、知識の拡充が図れているかという観点は大切ですが、それだけでは不十分。その後の学びまで視野を広げて「確認」の範囲を広げましょう。
生徒は学校を卒業後も、社会生活・職業生活の中で同じようなタスクに取り組むはず。プレゼンの構成についての知識も蓄えなければなりませんし、効果的な伝達に必要なのは何かを理解する必要もあります。
こうした、プレゼンシートを作成する工程(フェイズ)の一つひとつで求められている知識や技能に焦点を当てた「理解度の確認」をしてあげることが、生徒の成長をより確かなものにすると考えます。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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理解確認/学びの振り返りExcerpt: 1 理解度の確認~場面と方法 2 活動させて「観察の窓」を開く 3 知識を活用する中で行う理解の確認 4 仕上げの場面での理解確認/振り返り 5 学習者としての成長を促す活動評価 6 理解確認/学びの振り返りに関するその他の記事 7 実技実習系の授業でも
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