理解度の確認~場面と方法(その1)~目的とするところ

理解度の確認は「次に進む準備が整っているかどうか」を確かめるために行うもの。もちろん、学んだことを覚えているか(=知識として保持されているか)も大事ですが、断片化した知識が記憶に残っているだけでは、理解したことにならず、次の学びの土台にはなり得ません。
獲得した知識が生きて働いているかは、思考(課題解決など)の中で活用させてみて確かめる必要があります。「新しい単元を学ぶとき」「新たな概念を導入してそれを使ってみようというとき」「学び終えて仕上げに向かうとき」のすべてで、そうした確認ができているでしょうか。
また、生徒が理解したかは「伝えたつもりのことがきちんと伝わっているか」と同義。伝達スキルに不備がないかを確かめ、より効率的で確実に理解の形成を図る技術を高めるための課題形成の場でもあります。

2014/05/22 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 次のフェイズに進むためのレディネスを確かめ整える

冒頭にも書きましたが、理解の確認(生徒が既習内容をどこまで理解しているか、生きて働く知識にできているか)を確かめるのは、これから行う学びの準備が整っているかを確かめ、土台を確保するためです。
学びが次のフェイズに入るといっても、次の3つではやり方も押さえるべきところも違ってきます。場面に応じた方法を使い分けましょう。

  • 新しい単元や学習内容に入るとき(既習単元の理解は十分か)
  • 新しい概念を学び、それを課題解決に使ってみようとするとき
  • 学びを終えて、仕上げに入るとき(不明は残っていないか)

これから新しい単元や概念を学ぼうという場面では、その土台となる既習内容が備わっているかどうかを確かめる必要があるのは当然のこと。
万が一にも「教えたんだから覚えているはず」という思い込みで、指導を進めてしまうようなことがないように気を付けましょう。

カリキュラム上のスパイラルがきちんと設計されていても、学んでから時間が経っていれば、記憶が保持されている保証はなく、言われれば思い出せても、自在に想起できる状態ではないかもしれません。
また、以前に学んだときにどこまで理解が進んだかも、生徒それぞれ。入学前に学んだことなら、何をどう学んだかも違っているはずです。
こうした凸凹を、最小限のところで揃えて、クラス全体で学びを進められる状態にすることが「導入フェイズでの確認」の目的です。
詳しくは次稿に譲りますが、大事なのは、確認の範囲を広げ過ぎず、余計な時間を掛けないこと。本時の学びを圧迫しないようにすることと、既に十分な理解を得ている生徒を「待たせない」ことです。

また、既得知識の有無を確かめるだけでなく、これから学ぶことを「自分のこと」として受け止められるだけの問題意識が十分に働いているかも、確かめておきましょう。別稿「問題意識を刺激する(学びのウォーミングアップ)」もご参照ください。

新しい概念を導入したら、今度はそれらに「生きて働く場」を与えて、思考の道具に昇格させるフェイズに入ります。獲得した知識・理解を、課題解決に活用させる展開の場面ですが、ここでも確認が必要です。
同じように教えて/学ばせても、生徒の頭の中に構成された「理解」はまちまち。同じものを読んでも、拾うものには違いも出ます。
この「違い」を想定せずに、「説明したんだからわかっているはず」と考えるのは迂闊でしょう。生徒の側にしても、「習ったのに使えない、問題が解けない」では、学びに対する自己効力感を下げるばかりです。
別稿で書いた通り、課題解決の場を整えたら、挑ませる前に理解の確認を行っているかで、学びの実りは大きく違ったものになり得ます。

ひと通りのところを学び終えて、仕上げに向かわせる場面でも、理解の確認は不可欠です。「教えた/学ばせたのだから、あとはちゃんと覚えてくれればよい」というのは、都合の良い思い込みでしょう。
ちゃんと理解できていない生徒は、不明を残したまま。誤解を抱えている生徒だっているかも。課題の解決に知識・理解を活用させ、より深い学びの実現を図ったら、不足がないかを確かめ、きちんと補わせ「確かな学び」にしていく必要があります。
本時の学びを俯瞰し得る問いに向き合い、その答えを作り上げていく工程や、学んだことを紙面上などに構造化し、体系化してみる活動などに取り組ませれば、足りてない理解や知識の所在に気づけます。

そこで気づいたものを、調べたり、考えたり、あるいは周囲に尋ねてみたりしてこそ、学びは完結するはず。その起点になるのが、先生方が用意する「仕上げ」に向かうための確認機会と、それに即したタスクということです。cf. 確認した結果に基づいてきちんと学びを仕上げさせる

❏ 確認と教え直しは最小限に、学び直しで互恵関係を

レディネスを整えずに次に進めば、当然ながらそこでの主眼は達成できず、後になって「やり直し」を強いられます。ひと手間を惜しんで後に大きな負担を残さないようにしましょう。
次に進むための準備は、時間をかけて「教え直し」たりせずとも、確かめるだけで整うことがあります。問われて想起すれば次にすすめる状態になりますし、思い出せないことも、教科書やノートのページを捲ってみれば書いてあるはず。想起とともに再記銘の機会にもなります。
ちゃんと理解しているか不安が残るようなら、「なんて書いてある?」と尋ねて、読み取ったことを言語化させてみるのも好適。そこで躓くようならペアなどで確認&教え合いをさせてみれば十分かもしれません。

❏ 理解確認は、先生方の伝達スキルを磨くための起点

理解度の確認を行うことの、もう一つのとても大切な目的は、「伝えたつもりなのに伝わっていないこと」の所在を把握することにあります。
理解確認を怠ると、こうした伝達の不備に気付くのが遅れ、その結果、伝達スキルの改善課題を解消しないまま抱えていくことになります。
実際、授業評価アンケートのデータを見ると、「先生は生徒の理解を確かめながら授業を進めている」との評価を得ている授業では、「わかりやすさ」に関する評価も高いのが通例。仮に低い評価でも、次のアンケートまでに大きく改善しているケースが大半です。
発問や小テストを通じて、意図したことが伝わっていないことに気づけば、そこに改善課題を見出して伝え方の工夫に意欲も向きます。

❏ 場面と観点に応じた確認方法の適切な使い分けへ

理解度の確認について考えるときは、本稿で整理したように「場面」での切り分けに加え、「方法」の使い分けにも整理した視座が必要です。
よくあるものは、以下の3つ。{場面×方法}でマトリクスを作れば、少なくとも9つのセルができることになります。それぞれのセルで何にフォーカスして理解を確かめるのか、常に考え続けたいところです。

  • 発問 (答え方は、発言や話し合い、ワークシートへの記入など)
  • 小テスト、クリッカー/挙手回答
  • 課題、レポート、プレゼンテーション

知識の獲得が学びの主たるところだった時代には、覚えているかどうかを確かめるだけで済んだかもしれませんが、現代の学力観の下では、それらが活きて働いているかがより重要。次稿(その2)からは、その観点に立って「理解確認」の方法を掘り下げてみたいと思います。
その2に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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