活動の一つひとつに目的を持たせる
主体的・対話的で深い学びの視点での授業改善が図られる中、各地での授業を拝見していても様々な活動が授業の中に組み込まれるようになりました。途切れることなく配列されたアクティビティにノンストップで生徒が取り組んでいる光景もすでに珍しいものではありません。
しかし、活動性が十分に高まっていても、それが主体的な学びになっているか、深い学びになっているかはまた別の話のようにも感じます。
生徒が自分事として目標を持ってこその「主体的な学び」、活動を終えて「できるようになったこと」が増えてこその「深い学び」です。活動を考案し、配列する(=授業をデザインする)ときには、目指しているもの(目的)を見失わないでいることが肝要です。
2015/06/23 公開の記事を再アップデートしました。
❏ ペアワークにも、目的を持たせ、準備をさせる
授業内活動のうち、対話に関わるところで最もよく用いられているものの一つに、ペアなどでの話し合いがあります。
先生の説明を聞いたり、何かを調べ/考えたりしたあとで、その内容を隣同士などで説明し合うことは、言語化を通して理解をより明確なものにしたり、言葉にできずに気づいた「不明として残っていたこと」を見つけてその解消に向けた行動の起点になったりします。
教え合いにより、不明が解消できたり、相手の発言をきっかけに気づきや発想が広がったりすることも多いはずです。
しかしながら、その話し合いに向かわせるときに、何の準備もなく「さあ、話し合ってみよう」と指示するだけでは、効果は限定的。戸惑いの中で、話し合うことが自己目的化してしまい、「聞いているだけの退屈から解放された」といった程度で終わってしまうかもしれません。
生徒同士の話し合いに、目的を持ち込むには、生徒が互いに協力して解決すべき課題(といったらちょっと大げさででしょうか。「話し合って答えを見つける問い」とお考え下さい)を与えておくことが肝要です。
また、問いを与えてすぐに話し合いに移行しては、すでにわかっている生徒がしゃべるだけで、そこで得られる思考の深まりや理解の広がりは大きなものになりません。
与えられた問いに答えようと、個々の生徒が自分の記憶や教科書やノートから答えを作るのに必要な情報を検索し、自力で精いっぱい考えられるだけの「間」を置いてから対話に移行するようにしましょう。
❏ 活動の目的をしっかり設け、自己目的化させない
先生からの「問い」に答えることを目的に一定の準備を経てからペアで話し合いに臨ませている場面では、それまで気づかずに見落としていたことをメモしている姿なども観察できます。
話し合いをしながら問題の解き方を思いついたのか、止まっていた答案を書く手が再び動き出したなら、そこでの活動は新たな気づきを生徒に与え、学びに深まりや広がりをもたらしたと言えそうです。
与えられた問いを以て、できるようになるべき(=問いに答えられる/説明を言葉にできる)ことを「到達点」として認識できていてこそ、目的を持った活動になりますし、「自力で答えを作れた」という結果が可視化されて、生徒に学びの手応えや活動への達成感をもたらします。
そうした手応えや達成感は次の活動に向けたモチベーションの原資となります。(逆に、手応えも達成感もなければ、「やらされ感」が募るだけで、積極的に取り組む姿勢などは期待できそうもありませんよね?)
授業を立案しようとするとき、「どんな活動をどう配列するか」を考えていると、盛り上がる生徒の姿を想像してワクワクしますが、同時に、
「何を目指しての活動なのか」
「活動に向かう準備をどう整えさせるか」
「生徒にどう達成を検証させるか」
などにもしっかりと意識を向けたいところです。
活動を通じてできるようにさせることを、まずはっきりさせて、それに必要な活動を選択・配列するという手順を徹底しましょう。「目標設定を先行させ、活動配列は後で考える」ということです。
新課程への移行を機に、何を学ばせるか(パフォーマンスモデル)ではなく、何ができるようになるか(コンピテンシーモデル)で考えることへのシフトが求められていますが、活動の配列においても、「どんな活動をさせるか」より「それによって何をできるようにさせるか」に重きを置いた授業デザインを心掛ける必要があります。
❏ 何ができるようになったか、アウトプットで検証
それぞれの活動を通して目標としたことが達成できたかどうかは、それに応じた課題を与えて実際に取り組ませてみれば、そのアウトプットをもって確認できます。
繰り返しになりますが、達成できたかどうかの可視化は、生徒に明確な手応えや、達成を通じたモチベーションを与える上でも欠かせません。
例えば、先生の説明を通じて得た理解を改めて自分の言葉でまとめ直してペアを組んだ相手に伝えるという活動は、「○○について説明できるようになる」という目的が達成されたかを端的に確認できる場です。
英語の授業で、ターゲットセンテンスに含まれている言語材料を用いた和文英訳や英文創作などは「学んだことが生きて働くものとして知識を獲得できたか」を確かめるのに好適な活動の一つでしょう。
学習した内容(教科書の記述、英語や国語なら本文の内容など)を正しく理解しているかを試すタイプの問題では、往々にして覚えたかどうかを試すだけの結果になりがちです。
選択肢を与えて本文内容に合致するものを選べという問いは、その授業を真面目に聴いていればたいていは正しい答えを選べるでしょうが、正誤から「学んだことを使ってどんなことを考えられるようになったか/どんな課題の解決に獲得した知識を活用できるか」は推定できません。
50分の授業(あるいは数コマで構成される単元の学習)にどんな活動を配列するかを考えるときには、活動を通して獲得したものをどのような形でアウトプットさせ、目標の達成を検証するか、十分に練ることができているか、常に顧みるようにしたいところです。
なお、アウトプットの結果、獲得が不十分と疑われるようなら、再トライさせるなど、仕上げにきちんと取り組ませることもお忘れなく。確認した結果に基づいてきちんと学びを仕上げさせることが肝要です。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一