授業で学んだことを使って答えを導くべき問いは、学習目標を理解させるために導入フェイズで示すターゲット設問としても、授業を終えるときの学びの仕上げの題材としても大きな役割を果たします。
しかしながら、「個々の授業で学んだこと」を使う機会は、その日の授業(あるいは単元)に閉じた如上の問い/課題以外にも、その後に学ぶ別の単元の中にも設けることができますし、設けるべきです。
ある単元で既に学んだ重要なことがらに、新たな文脈/条件下で参照すれば、再記銘や理解の深化、技能の向上が期待できます。不用意に教え直してしまうのではなく、教科書やノートの該当ページを開かせれば、周辺知識の拡充と整理の機会にもなるはずです。
単元固有の知識は「カリキュラムのスパイラル」の中にしか再参照の機会がなさそうですが、科目に特有のものの捉え方や考え方なら、異なる単元でも繰り返し用いられるはずです。
また、テクスト(読解材料としての本文に加え、解説や資料など)やデータ(グラフや表に加工されたもの/加工される前のもの)の読み方にしても、至る所でそれらを駆使する(=鍛える)場面があるはずです。
本稿では、「習ったこと/授業で学んだこと」を広く捉え直し、それらを改めて使ってみる機会をカリキュラムの中にどう設けるか考えます。
2019/11/06 公開の記事をアップデートしました。
❏ 内容理解/課題解決に用いた手段も「習ったこと」
所与の情報を整理するにしても、問題を発見/解決するにしても、各教科の授業の中で生徒が学んでいる「知的作業の方法」には、以下のような場面で用いるものを含み、実に多岐多彩なものがあるはずです。
- グルーピング、階層化などの手法で物事を分類・整理する
- 問題文に与えられた情報を図に起こしたりモデル化したりする
- 検証したいことから逆算して、確かめる方法を考え出す
- 複雑に見える問題をパラメータに分解して理解する
こうした「理解のための様々な手法」に生徒が触れるのは、単元の内容を理解したり課題を解決したりするための手段としてでしょうが、当座の目的(内容理解/課題解決)を満たして終わりではありません。
各単元の内容を学ぶのを機に、そこで用いる様々なツール/手法も同時に学ばせているのだとの認識が薄れてしまうと、それらを別の機会に使わせて鍛えるという発想が授業や指導のデザインからこぼれます。
❏ いくどか使って見せたら、生徒にも使わせていく
これらの手法は先生だけが駆使していても生徒はその使い方に習熟できませんし、下手をすると学んでいる認識すら持たない生徒もいます。
新しい単元を学ばせている中で、以前に幾度か使った手法を駆使すべき場面が訪れたら、使いかけてみたタイミングで「これと同じ/似たやり方はどこかで使っていないか」と尋ねてみるのも好適です。
尋ねられれば、その時の状況とともに、使った手法そのものも思い出します。忘れていたら、その時のノートを開かせてみれば良いだけです。
どんな方法で内容を分解し、整理(構造化)したか、正解までもっていったか思い出させながら、新たな場面でそれらを使わせてみれば、方法への理解や習熟も進み、使い方の拡張も図れるはずです。
ある日の授業で学んだことに時と場面を変えて出会い、それらが知的活動の強力なツールになり得ることを知れば、科目を学ぶことの意義も、個々の知識の獲得に止まらない、より大きなものと認識されます。
❏ 手法の獲得に向けた段階性(知る→わかる→使える)
如上の手法の体系的な指導は、幾度かは先生が使って見せ、生徒の側でその手法への馴染みがある程度できたタイミングで行うのが好適です。
一つひとつの単元を学びながら身につけていくこととは言え、初めて学ぶ単元の内容と、これまた初めて触れる理解/解決のためのツールや手法を同時並行で学ばせるのでは、負担の大きさで、両方とも中途半端なところで終わってしまうリスクも膨らみます。
手法の理解から習熟まで一気に持っていこうとするより、
- まずは、生徒にそれと特段の意識をさせずに先生が使って見せて、
- 次の機会に、想起させつつ様々な場面で使えることを知らしめ、
- また別の機会に、やらせてみながら手法のメカニズムを理解させ、
- 実際に使わせながら、方法への理解と習熟を徐々に高めていく。
という段階性を踏むことも大切です。複数の機会を跨ぎながら徐々に学んで行けるよう中長期的に指導の計画を立てましょう。単元に固有の内容を学ばせるのに、間隔を置いた重ね塗りが有効なのと同じです。
当然ながら、その先には生徒が工夫を重ねて自分で生み出す「新しい手法」の確立というステージも待っているのではないでしょうか。知的作業の方法そのものも、世代を経て進化してもらわないと困ります。
❏ 段階を着実に上らせるために、きちんと観察&評価
段階的指導を行うには、生徒が現時点でどの位置まで進んでいるかを教える側が常に意識し、行動(問い掛けへの反応など)を観察しながら把握しておく必要があるのは言うまでもありません。
既にやり方に触れさせたことがある知的作業の方法を再度適用できる場面が来たら、不用意に先回りせず、生徒がどうするか観察しましょう。
どんなことを、どの単元でやってみせたか、やらせてみたかを教える側が忘れてしまっていては、観察の機を逃しますので、ある程度は記録にも残しておきたいところです。
そうした記録は、年度が替わり、次の科目を担当する先生に指導を引き継ぐときの資料にもなり得ます。生徒がどんなことを、どこまでできるのか、改めて素から観察して捉えるよりも、指導の記録に照らした方が見落としも減りますし、次の指導を考えるときの発想も膨らみます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一