前年度の指導に起因する学習指導上の課題

あるクラスを担当していて、学習指導がうまく行かない場合、その遠因が前年度までに生徒たちが受けていた授業に存在する場合があります。既習事項の習熟が不十分では学び直しに時間がかかり本時の学びが十分に深められないこともありますが、ことはそれだけではありません。
生徒は授業を担当する先生の教え方にあわせて学びのスタイルを作りますが、新年度からご担当される先生が変わって学ばせ方が違ったものになれば、当然ながらミスマッチも起こりますし、科目への自己効力感を下げていたら、学びの姿勢も消極的なものになります。
新年度を迎えて新しい生徒を受け持つときは、これからの学びに必要でありながら欠けているものをどう補っていくか見極めた指導が必要ですが、その場での対症療法に終始するのではなく、前年度までの学ばせ方まで踏み込み、3年間/6年間を通した指導の最適化を図りましょう。

2017/10/10 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 結果学力に加え、学習方策や学びへの自己効力感

次の学年に進んだ時に不足するのは、既に学んだはずの教科固有の知識や技能だけではありません。
必要な学習方策を身につけていなければ、いつまでも「先生による手引き頼み」の状態に止まり、生徒自身による学びは加速しません。
学び方における守破離を念頭に、学習者としての自立に向かう成長を、しっかりと導き、促していくことが大切です。
また、学びに対する自己効力感が薄ければ、生徒は積極的な学びの姿勢を示してくれないのではないでしょうか。
時間を巻き戻すことはできませんから、如上の問題にはこれからの授業で対処する必要がありますが、根源にある原因の解消(=前年度までの指導の改善)を図らないと、次年度にも同じ問題を繰り返します。
新年度を迎えて問題が顕在化したときこそ、前年度までの指導/学ばせ方の改善に向けた課題形成の絶好機と考えるべきだと思います。
既習内容の理解と習熟、学年に応じた学習方策、学びに向かう姿勢や自己効力感といった「観点」を定め、次学年の指導にスムーズな引き渡しができているか、常に意識して確かめていきましょう。
学びのステージが一つ先に進んだときに必要になるものをイメージし、各単元の学習内容を学ばせる中でそれらの獲得を図るべく、適切な学習活動を授業内外に配列していくことが求められます。

❏ 理解の軸、核となる知識に重点を当てる

既習内容の理解が不足する場合は、「既習内容の確認は、問い掛けで」で書いた通り、問い掛けて教科書やノートの該当ページを開かせるのが最善手ですが、この方法でカバーできる範囲には限界があります。
記憶があいまいになっていたり忘れかけていたりするだけなら、如上の方法で十分な効果が得られますが、既習単元の学びの中で「核」となる理解が形成されていなかったらアウトです。
既習単元を学ばせるときに知識の獲得と拡充に偏っては、その先の単元を学ぶときの土台となる「理解の核」が固まりません。逆にコアとなる理解をしっかり作っておけば、周辺知識はいつでも補完できます。
ある学年/学期での指導を計画するとき、次の学年/学期での学びにどう繋がっていくかをはっきりイメージした上で、学習内容の選択、重点の置き方を選択する必要があります。
また、せっかく学んだことも、学びのスパイラルの中で次に登場するのがずっと先では、それまで記憶をきちんと保持できるか不安です。
教科書で進める「メインの流れに沿った学び」と、問題集の演習などで再記銘を図る場とをタイミングをずらして設定するようにしたところ、既習内容の定着に大きな効果があったという事例もあります。

❏ 参照型教材をしっかり使い込ませて学習方策の獲得

周辺知識の拡充が不十分なだけなら、参照型教材を併用することで、次に進んだ学びをサポートができますが、普段から参照型教材(辞書、用語集、参考書)をきっちり使い込ませて、自分のものにさせておかなければ、この手段も使えなくなってしまいます。
新たなことを学ばせるときも、いつまでも先生の説明を聞いて理解するというやり方だけでは、自ら知の地平を広げていくこともできず、学びの個別化にも対応が難しくなります。教科書をきちんと読ませ、理解できるようにさせていくことも大切です。

丁寧に教えて理解させ、知識への参照はすべて先生が肩代わりというのでは、生徒は学び方を学ぶ機会を奪われていることになります。
テクストを介した先人との対話の中で、「巨人の肩に上る」方法を身につけさせていくこともまた、日々の授業での重要目標です。
教科固有の知識・技能を学ぶ中で、生徒は何を身につけていくべきなのか/何を獲得するべきなのか、しっかり考え、目標として教員間で共有しておくことが大切です。
当然ながら、これらは「目標」なので達成検証を行う必要があります。
行動評価の規準を文字に起こし、定期的に点検・評価を行うことになりますが、一部の先生だけの取り組みでは効果は限定的。先生方の間で共有する「こだわり」として強く意識したいところです。

❏ 学びへの自己効力感と学びの方略のメタ認知

いわゆる結果学力と学習方策に加えて、科目の学びに対する自己効力感を高く維持して次のステージに進ませることも大切です。
伸びている実感を欠けば、学び続ける意欲を維持できず、履修科目の選択に際して「その科目を使わずに実現できる進路」に流れていきます。
苦手意識を膨らませていないか、学び方が身についてきたと感じているかは、アンケートなどを通じて生徒自身に訊いてみないと把握できませんが、これらを定量的なデータとして手元に整え、後手を踏まない指導を心掛けたいものです。
また、苦手意識を生徒が抱え込んでから、対症療法的に難易度などの負荷を下げても意識改善の効果が期待できません。次の学年に引き渡すまでに如何に学びへの自己効力感を高めておくかは重要な課題です。
ある課題に挑んで「解けなかった」という失敗を経験しても、「どうやればよかったか」を考え、次の機会の再チャレンジで成功を体験できれば、そうそう苦手意識は膨らむものではありません。その科目を嫌いになることも少ないのではないでしょうか。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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