次に進んだときの学習をイメージ

各単元の学習目標は、当該学習内容を理解させることに加えて、学びのステージが次に進んだときに備えて、基礎的な理解や学びの方策などを身につけさせておくことにもあります。
学習内容が高度化していく中で、学習方策の獲得が遅れて「生徒が個人の学習活動でできること」が相対的に減っていくようでは、教室でしかできない学びを充実させることもできなくなってしまいます。
また、学びが進んでいくと、不明や躓きが起きる箇所も生徒ごとに違ったものになってきます。生徒が自力で解説を読んで理解したり、必要な情報を集めて知に編んだりできるようになっていてくれないと、フォローにも手が回らなくなるはず。「学びの個別化」に対応するにも個々の生徒ができるようになっていることを増やしておくことが大切です。
如上の問題が顕在化してから対応を取ったのでは、後手を踏むのは明らか。対処にモタついている間に、学習内容の理解に穴が開き始め、次の単元を学ぶのに必要な準備も整わなくなる「悪循環」に陥ります。

2016-08-30 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 獲得させるのは教科固有の知識・技能だけではない

どの教科でも、既習内容の理解という土台の上に新出内容の学習が成り立ちますので、今教えている単元の内容をきちんと理解させ、しっかり定着させる必要があるのは言うまでもありません。
下図は、幾つかの学校で行った授業評価アンケートのデータをマージして作成したものです。難易度はプラスの値が大きくなるほど「難化」を意味し、学習方策は「マイナス」に振れるほど、自分の学び方に自信がなくなっていることを示します。


数学を見ると、学習内容を難しいと感じるようになるのと同時に、生徒が自分の学び方への自信を失っていく様子が見て取れます。それまでの学び方では通用しない場面を多々経験する中での変化でしょう。
一方、難易度にあまり変化のない地歴公民でも、中高の接続を機に「学習方策」での自己評価がガタンと下がっており、数学と別の理由を想定しないとデータに説明がつきません。中高で「学ばせ方」に連続性がないことも原因の一つになっていると思われます。
どの時期を迎えると、教材や学習内容を難しく感じたり、学習方法に迷いが生じたりしがちなのかは、経年的に蓄積した観察やアンケート結果に照らして、ある程度までは予想がつくはずですので、後手を踏まないよう、先回りして予防策を講じておくべきではないでしょうか。

❏ 学力向上感が急降下するところに改善課題あり

授業評価アンケートの「授業を受けて学力や技能の向上、自分の進歩を実感できるか」という問いへの回答を得点化して、各学年の集団を追跡してみることでも、躓きが起こりがちな時期には当たりがつきます。
それまで順調だったのに突然、あたかもエアポケットにはまったかのように「学びの成果を実感できない状況」が生じることもあります。


折れ線の傾斜が大きく右下がりになっている箇所は、学習内容の高度化や、先生の交代や科目学習の主眼の置き所が変わったことによる学び方の変化に生徒が対応できなかった可能性があります。
前年度までの学習内容の定着不足も原因の一つとして考えられますが、前述のように、前年度の指導において次のステージでの学習をイメージした指導がなされていなかった可能性も疑ってみなければなりません。
別の言い方をするならば、学びのステージが進むごとに変化する「学ばせ方」に連続性や段階性(=展望を持った計画性)を欠いていたということになろうかと思います。
上述の「私は、この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う」という質問の回答分布の変化とも照らし合わせながら、予防策を打つべき時期を特定し、後手を踏まない対処を心掛けましょう。
こうした定点観測の結果に照らして、グラフが大きくジグザグを描いていないかチェックしつつ、指導計画に修正を加えていくことで、3年間/6年間を見通した教科学習指導が実現するのではないでしょうか。

❏ 実際に落ち込みが発生したときに採るべき対処

上のグラフでは、中学から高校に接続するタイミングで、過去3学年とも段差が大きくなっています。中学段階において、高校に進んでからの学習をより明確にイメージした指導設計が必要だったと思われます。
グラフをよくよく観察してみると、高校進学直後の落ち込みからうまくリカバーできた学年もあれば、苦戦が長く続いた学年もあります。
前者の学年が、巻き返しを図るのにどこに力を入れ、何をしたのか特定すれば、そこには学校全体で共有・継承すべき指導知見が見つかるはずです。次年度以降に同じ轍を踏むリスクも低減できそうです。
当然ながら、落ち込みからのリカバーに時間がかかるほど、その先でのケアに大きなエネルギーが必要になりますし、そのしわ寄せは他教科にも及んでいくはずです。
学習効果の集計値が長らく目標ライン未満で推移してきた場合は、当該期間で学んだ内容の定着と習熟の不足に加え、「やるべきことを仕上げ切らないことを習慣化している生徒」が一定数いることを想定した上で巻き返しの指導の在り方を考える必要があります。
仕上げ切らないことを習慣化している生徒には、補習や講習で不足する知識・理解を補わせるだけでは、おそらく同じ失敗を繰り返します。
生徒自身にそれまでの学びを振り返らせて、今やるべきことは何かを考えさせ、これからの自分の学習を設計させる方が、絆創膏を貼るだけの対症療法よりも、次のステージに学びを進めるのに好適な準備を整えさせることになります。
定期考査や模擬試験を機に、そこまでの学びを振り返らせて、学習行動を改めさせていくことに主眼を置くことが、中長期的に好ましい結果をもたらします。(cf. 模試の結果を正しく振り返る(学習行動の改善)
■関連記事:

  1. 次のステージ(進級後の学び)に向かう準備は整っているか
  2. 学び方そのものを学ばせる
  3. 学習方策は課題解決を通して身につく
  4. できない? やらない? やらせてない?
  5. 振り返りを経てこそ次への課題形成


学習内容が高度化するのに備える指導では「上手に転ばせて、自力で立ち上がる方法を覚えさせる」ことも大切だと思います。その積み重ねは卒業させた後の生徒の学びに大きな「力」となるはず。
卒業までは、先生が手を引いてあげられますが、卒業させた後は、転んだときに手を差し伸べてあげることも、転ばないように気を配ってあげることもできません。生徒が自分でリスクを予見できること、もしコケてもすぐに立ち上がれることを目指した指導を重ねていきましょう。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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