新年度に向けた準備工程の進捗確認と計画調整

2月も中旬を迎え、入試業務や受験生指導などでご多忙を極める日々と存じますが、新年度を迎えるための準備も佳境に差し掛かっています。
新しいことを始めるにしても、これまでのものに手を入れるにしても、残り8週ほどで計画を整えるためには、見落としがないかを確認し、このタイミングで「進捗の中間検証」を行うことが重要です。
どんな指導でも、計画が設計通りに機能するかどうかは、対象たる生徒の実情と、計画時に想定した生徒像が一致していることが大前提。想定していたものが実情とずれていないかの確認も確実に行いましょう。

2017/02/03 公開の記事を再アップデートしました。

旧タイトル:ちょっと早いですが、新学期を迎える準備

❏ 新年度に向けた「工程表」を前に現況の再確認

昨年のうちから新年度に向けた準備を進めてきているはずですが、予定通りに進んでいるでしょうか。遅延があれば取り返し方を考えるべきなのは当然として、遅れがなくても、「スタート時点での想定」と「実際の状況」にズレがある場合は、それに応じた調整が必要になります。

中間検証では、優先順位の高いものが工程から漏れることのないよう、所要日数の見込みと暦の上での残り日数も見比べなければなりません。
タスク量とリソース量を比較し、タスクが多すぎる場合は、当期に完了すべきものと次期に繰り越すものの優先順位を再検討しましょう。
新年度まで残すところ2ヵ月弱。計画的・効率的に進めないと時間切れで十分な準備ができないまま、4月を迎えてしまいます。
先生方は、たいていの場合、分掌、学年、教科という3つの立場で仕事を抱えています。ご自身が直接担当する業務だけでなく、組織としての仕事の進み具合にも目を配っていきたいところです。
気づいたところは改めて共有しましょう。学校評価アンケートのデータを見ていると、教育活動の充実度や合理性を尋ねた質問に、否定的に答える先生方の割合が年度を跨いでも一向に減らないことがあります。
先生方がそれぞれに見出した問題点をきちんと共有していない(互いに伝えていない)ことで、改善課題の整理と把握が不十分なものとなり、改善計画に落とし込めなかった部分が生じているのだと思います。

❏ 次に何をすべきかは生徒の現状によって変わる

指導は「現況と目標との差分を埋めるために行うもの」ですから、まずは現時点での生徒の状況を改めて正確に把握しておく必要があります。

状況把握には、観察で行うものと、データを見て行うものがあります。
前者は、基本的には学年末考査までの授業の中にしかその機会がありません。春休みに補習や講習を予定していたとしても、全員参加ではないはずです。年度内に観察しきれない部分は、新年度への「宿題」です。授業開きやオリエンテーションは観察をメインとする場にしましょう。
データを使って行う状況把握では、考査や模試の結果(答案も含む)やレポート、ポートフォリオなどが材料になるはずです。まずはそれらを揃えた上で、目を通す機会の確保が先決ですが、そこで把握した課題に対処するための工数とタイミングも考慮しておかなければなりません。
春休みの宿題に取り組ませることで対処を計画するなら、補う必要がある生徒とそうでない生徒を分けてタスクを決める必要があるでしょう。

次学年に進んでから関連領域を学ぶときに復習機会を作ることで対処できそうなら、来年度の指導計画の中にその分の余裕を確保しましょう。
こうした観察と評価を通じた「見極め」に不十分なところが残っているようなら、計画づくりの土台に遅れが生じているということです。間に合うように、残りの期間を効果的に使いたいところです。

❏ 学習方策は身についたか、苦手意識を抱えていないか

次に進んだときに必要なことという視点で考えるならば、当然ながら、所謂「知識・技能」に焦点を当てた評価だけでは十分とは言えません。
例えば、予習で課されるタスクを的確にこなせない生徒(=学習方策が十分に確立していない生徒)だっているはずです。学びへの自己効力感にしても、必ずしも知識や技能の習得状況と比例するとは限りません。

辞書や参考書を上手に使えない、自力で教科書や資料を読んで理解できない/理解しようとしない生徒をそのままにして、次の学年での学習に進んでは、生徒本人は当然、指導を担当する先生も大変です。
可能であれば年度末までに、授業時間内で生徒が自力で学びに取り組む様子を観察する機会を持って、生徒がどのように勉強しているか(予習や復習に取り組めているか)を確かめておきたいところです。
新年度を迎えて行う授業開きや学習オリエンテーションで何を伝えるかを考える/選び出すにも、「現時点における生徒の状況」が前提です。
授業開きなどで伝えようと思っていたことの多くを、既に多くの生徒が満たしているようならわざわざその時間を取るのも無駄ですし、自分のスタイルを確立できている生徒にはマイナスにもなりかねません。
一方、「もう出来ているはずだから、敢えて言わずとも良し」と思っていたことを多くの生徒が満たせていないこともあります。「現実と想像のギャップ」を把握するにも、改めて観察機会を設けましょう。

❏ 新入生オリエンテーションでは、学習経験も尋ねておく

今いる生徒は、学ぶ姿を観察することで現況を把握することができますが、今度入学してくる生徒については別のアプローチが必要です。
入試の答案を見たり、内申書や出願書類に目を通せばわかる部分もありますが、それだけで十分とは思えません。

中学でどんな学習や体験をしてきたか確かめないことには、先生方が用意している高校での学びが「ただのやり直し」になってしまうかもしれません。生徒に既視感(デジャブ)を覚えさせるだけかも…。
学習方策の獲得状況などは、生徒本人に聞いてみたところで正確な答えは期待できません。新学期の教室での観察が勝負と考えましょう。
一方、「どんな学びを経験したか/どんな活動に取り組んできたか」の把握も必要ですが、これは、本人に聞いてみるしかありません。
入学準備のための事前登校日に、生徒へのアンケートを実施し、回答結果をもとに指導計画の最終調整を行うと効果的です。
日々の学び(各教科)だけでなく、総合的な学習の時間や体験学習などで経験してきたことや、その中で身につけたスキルについて、
「ちゃんとできる(と思う)/十分にこなせる」

「やったことはある/やり方は教わったことがある」

「経験したことがない/まったく想像できない」
がどう分布しているかを把握しておくと、オリエンテーションで伝えること、初期の指導で力を入れるべきことの選び出しが容易になります。
新入生の側でも、こうした事柄を問われることで自己認識を新たにし、高校での学びへの準備を意識するきっかけになるはずです。
繰り返しながら、指導計画作りには、出口で求められる学力(ゴール)を正しく捉える必要に加えて、入ってくるまでにどんな方向で頑張ってきたか、何を求められて勉強してきたかも大切。競合校も含めた中高入試問題なども、それらの一部を知る教材になり得ます。

❏ スタートを整える最後の手段~リメディアル補習

指導計画のあらましが既に決まっており、大きく変更するにはリソースも時間も決定的に不足という場合、指導開始までに何らかの手当てを行い、生徒側のレディネスを計画に合わせるという手しか残りません。
自学自習に任せるのでは効果は限定的でしょうから、補習を検討することになりそうですが、その枠を作ろうとすれば、自ずと他の活動に充てる時間を圧迫します。できることなら取らずに済ませたい選択肢です。
やらざるを得ないという最終判断に至った場合も、目的を明確に、その達成に必要な最小投資(対象者、日数・時間)での実施とすべきです。

学び直し等の場を作るのは、あくまでも「次のステップでの学びに必要不可欠な土台を整える」ための最終手段。不要な生徒を巻き込んだり、先に進んでリカバー可能なことにまで広げたりしないことが大切です。

新学期準備に関する記事を集めてみました。
新学期を迎える準備(まとめページ)

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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