授業評価アンケートの導入に際して

本年度もまた、様々な学校で新たに「授業評価&生徒意識アンケート」を導入いただくことになりました。改めて、御礼を申し上げます。
各校の授業改善がこれまで以上に大きく進むよう、当オフィスも出来る限りを尽くして参る所存です。
授業評価アンケートが目的とするところ、実施の方法やお届けする帳票の内容、加えて集計結果を授業改善にどうお役立ていただけるかなど、実施前にお伝えしておきたいことを以下の7項目にまとめてみました。

  1. 授業改善に向けた課題形成と改善行動の効果測定
  2. 優れた実践の所在を探し出すためのツールの一つとして
  3. 授業評価アンケートの目的変数は「学力向上感」(質問設計)
  4. アンケートの実施方法(実施セットの内容、実施の流れ)
  5. 出力される帳票(先生別集計の様式と内容)
  6. 集計結果分析の方針、分析に用いる手法など
  7. 集計結果を活用した授業改善の進め方(個人で、教科ごとに)

❏ 授業改善に向けた課題形成と改善行動の効果測定

生徒による授業評価は、一義的に言えば「より良い授業の実現に向けた課題形成を行うためのツール」です。
ご自身の担当される授業について、アンケートの集計結果を指標に、

「学びの成果を生徒一人ひとりが実感できているか」

「目的意識を持って、自立的に学びに臨めているか」

「難易度などの負荷は適正か」

などを把握した上で、もし不足などがあれば改善を図る必要がありますが、テストの成績などに現れる結果学力とは違って、これらは「生徒に訊いてみる」しか把握のすべがありません。
自分が担当するクラスの集計結果だけでは、算出された値を相対化できず、良いのか悪いのかの判断もつきにくいはずです。
また、より良い授業を目指して様々な工夫を凝らしても、その成果を確かめないことには、着実に進歩を重ねられるとは限りません。
採り入れた工夫が効果を得ていれば、集計結果に成果が現れるでしょうし、数値に動きがないようならさらなる工夫が必要ということです。
授業改善に向けた先生方の行動がどんな効果を得ているのか、様々なツール(授業評価アンケートもその一つです)を使ってきちんと測定することは、生活習慣の改善を図りながら定期健診をきちんと受けることにも、どこか似ているところがあるように思います。

❏ 優れた実践の所在を探し出すためのツールの一つとして

生徒による授業評価アンケートを導入することのもう一つの目的は、校内に存在している「優れた実践」を探し出すことにあります。
テストの成績(結果学力)や、ルーブリックを用いた行動評価の結果などに加え、アンケートで探った「学びへの生徒の意識」が良好な数値を示しているところにも、倣うべき優れた実践が存在しているはずです。
外から持ち込んだ新たな手法が自校の生徒が備える学習者特性にマッチする保証はありませんが、校内に存在する優良実践ならば、ミスマッチを起こすリスクは低いはず。その所在を特定するのに、様々なデータを活用すべきであり、その一つが授業評価アンケートの集計結果です。

集計結果を用いて、重要項目の評価分布を調べれば、下のようなデータが得られ、共有すべき実践を選び出す基準(「箱の上端以上」など)を明確に定めることができます。


❏ 授業評価アンケートの目的変数は「学力向上感」

当オフィスが監修する授業評価アンケートでは「授業を受けて学力や技能の向上を実感できるか」という質問を「目的変数」とし、それに対する有意な寄与が確認されている項目を配して質問群を設計しています。
如上の質問にYESで答えた生徒は、高い確率でその科目への興味・関心を深めます。自己効力感を持てるところにしか、学ぶ意欲は維持できないということです。

興味や意欲を失い学びを止めたところには「認知の網」に穴が残りますし、学び続ければ得られたはずの「能力・資質」も未獲得のままです。

なお、授業評価アンケートと同時に、学びのコミュニティが好適に形成されているか、生徒自身が自分の成長をどのように感じているかなどを尋ねる「生徒意識調査」も同時に行うことができます。

❏ アンケートの実施方法(実施セットの内容など)

アンケートはホームルームで行います。配布や回収、説明の時間を含めた所要時間は、通例40分~50分です。
個々の授業で行うのに比べて、配布・回収が一度に済んで時間の節約になることに加え、すべての授業を見渡して(=相対化して)回答することで、評価の基準がブレるのを抑える効果も期待できます。
登録いただいたデータをもとに、クラスごとの実施セットをお届けしますので、そのまま教室に持ち込んで配布と回収をお願いします。


❏ 出力される帳票(先生別集計の様式と内容)

アンケートの実施後、10日前後で集計結果をお届けします。先生ごとの個票には、授業改善を妨げているボトルネックの所在を推定する解析の結果や、担当クラスごとの回答分布などが項目別に表示されています。
同じように教えていても、生徒の反応は、それぞれが備える学習者特性によって異なります。生徒の特性に合わせた教え方・学ばせ方のアジャストがどれだけ的確にできるかも、腕の見せ所かと存じます。
なお、個票(授業評価集計)の読み方は、別稿「授業評価アンケートの結果の見方、活かし方」をご参照ください。


❏ 集計結果分析の方針、分析に用いる手法など

オプションとしてご注文いただく「集計結果分析」では、全体概況をお伝えするところに止まらず、各質問項目が目的変数に与える影響などを解析し、どこに注力した改善が効率的かを探ります。

改善に際して踏まえて置くべき「考え方」や、実際の教室で採り入れられる「工夫」などもできる限りお伝えさせていただいております。
また、各教科に特徴的にみられる傾向や、前後の学年との評価分布の違いなどにも触れて、校内の優良実践を効率よく抽出していただくときの視点の特定にも挑みます。
これまでの分析を通じて蓄積してきた知見は、当ブログの記事に起こしております。その一部は「集計結果を解析してわかってきたこと」にもまとめてありますので、お時間の許すときにご高覧ください。

例1)散布図中の位置で探る改善課題


例2)学習方策や目的意識に応じた負荷をしっかり掛ける


❏ 集計結果を活用した授業改善の進め方(個人/教科)

集計結果が届いたら、さらなる授業改善に向けた再スタートですが、これまでも最善と思う方法で授業を実践してきた以上、そこから先の改善を進めるには「新たな着想」を導入する必要があります。
そこで参考にすべきは、教科(あるいは学年教科)内に存在する、改善が先行している授業でのやり方であるのは言うまでもありません。
集計結果は基本的にはご自身のものしかわかりません。重要項目で高い評価を得ていたら、「おそらくこの工夫が理由であろう」と当たりをつけ、その実践を教科会などで積極的に発信しましょう。
良いものを積極的に発信・共有することで、教科/学校全体の教育改善が進むのは当然であり、その恩恵を受けるのは生徒にほかなりません。
授業評価アンケートでも、模試や外部検定でも、好ましい結果が得られたときには、ご自身の実践を発信する「責任」があるということです。
優良実践の共有~授業評価の結果を活かして(全3編)

#01 校内に存在する優れた実践を共有する
#02 高い評価を得た理由を考え、言語化して発信
#03 焦点を定めた参観、そこでの気づきのシェア

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一