不用意な“待て”をかけない(その1)

生徒の側ではとっくに準備が整っているのに、先生がいつまでも指示や説明を繰り返している場面は思いの外たくさん見かけます。
先生が話を終えるのを待っている間に活動に当てる時間がどんどん減っていきますし、生徒のやる気や集中力も削がれていきます。くれぐれも余計な「待て」は掛けないようにしたいものです。

2015/06/29 に公開した記事を再アップデートしました。

❏ 例えば、実習や実験の手順を理解させるとき

ある学校をお訪ねして理科の授業を拝見していたときの様子です。
実験の手順や注意事項をまとめたプリントが配られ、生徒はすぐにプリントに目を通し始めています。実験が楽しみなのか、無駄なおしゃべりも少なく、生徒はよく集中しています。
しかしながら、薬品や火を使う実験で危険を伴うこともあってか、先生はプリントに書かれたことを1行ずつ丁寧に説明していきます。
話を聞いている間に、当初の集中力はみるみる下がり、プリントから目は離れ、先生の声は届きにくくなっていきました。
生徒にしてみれば、自力で手順を理解して先に進められるのに、先生の話が終わるのを待たなければならない状態に退屈やストレスを感じているように見受けられます。
同じような場面は、どの教科・科目でも、何らかの作業や活動に生徒を取り組ませようとするときに起き得るものです。

❏ 自力で進められるのに「待て」をかけられている状態

先生の話を聞いているだけの場面では、生徒の側では自分から積極的に取り組むべきタスクがありません。
このため、ごく短時間のうちに退屈しはじめ、集中を欠いていきます。これは、講義座学系の授業でも、実技実習系の授業でも変わりません。
先生はしっかり理解させようと丁寧に説明していますが、退屈から説明に集中できなくなっては、結果は意図と反対に向かっていきます。
この場面での本来の目的は、指示や説明を聞かせることではなく、手順を正しく理解して実験に進むことであるのは言うまでもありません。
効率よく進められれば、その後の話し合いや振り返り、課題の仕上げにも十分な時間がかけられ、学びはより深く確かなものになります。
説明を丁寧に行っているつもりが不要に話を長引かせただけにならないよう、最も短時間で目的に到達することを常に意識しましょう。

❏ プリントを用意してあるなら、読ませた方が早い

もともと生徒にもわかるように書いた手順説明のプリントです。まずは生徒自身に読ませる時間を取った方がよさそうです。
音声化した言葉を聞いて理解するよりも、文字を目で追った方が早いのは通例ですし、書かれたものなら返り読みやマークアップも自在です。
読んでも分からないところは、ペアやグループで話し合わせ、生徒同士の協働で解消を図らせるようにしたいもの。
どうしてもわからなければ、先生に質問すれば良いだけの話です。
グループの中で、各自の役割を決めながら説明を読み手順を確認させれば、仲間の足を引っ張らないように「自分がやること」をちゃんと理解しようと頑張るものです。
次の工程に進む時刻や残り時間を明示しておくようにするだけで、生徒にだらだらさせない効果が生まれます。
実験や作業にかける時間が減るのは生徒だっていやでしょうから、生徒は互いに協力し合ってテキパキと進めようとします。

❏ 大切なところは問い掛けを通して認識を確かめる

もちろん、大事なところを見落とされては一大事ですから、生徒同士の読み合わせが終ったら、ポイントになる箇所は先生からの発問で注意を向けさせましょう。
説明を静かに聞いていたのと、ちゃんと理解していることがイコールでないのは言うまでもありません。尋ねてみないと、理解の内容や深さは把握できないはずです。
先生からの発問に答えようとすれば、理解したことを言語化する中で、理解はより確かなものになり、そこに向ける意識も高まります。
その都度、該当箇所にマークアップさせたり、加筆させたりすることで耳と目と手で確認をさせるとともに、特に重要なところは言語化させるようにしたいところです。

❏ 大切なところは問い掛けを通して認識を確かめる

上の例は、理科の実験の場ですが、生徒は単に手順を理解しているだけではないはずです。手順説明や注意点をしっかり読めるようになるという、より大きな目標に向かう機会でもあるはずです。
先生の説明がなければ、説明書ひとつ読めないままで卒業させてはいけませんよね。PISA大学入学共通テストでも、従来よりも広い意味での読解力を要求している部分が随所に見られます。
また、実験などの協働で作業に当たる場面では、話し合いの中で分担を決めて、各自が自分の役割をしっかり理解し引き受けようとする中で、生徒はリーダーシップを発揮したり、フォロワーシップを獲得したりする機会を得ているはずです。
実験をうまく進めるというその場の目的を達するための努力や工夫の中で、生徒は汎用性のある様々な資質やスキルも同時に獲得します。
すべての教科の学習において、こうした総合的な指導効果をイメージして教室に臨むことはとても重要なことだと考えます。
その2に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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