複数の先生方が同じ教科書・副教材を使ってクラスを分担するケースは少なくありませんが、定期考査の共通化(評価の公平さを保つには不可欠です)に加えて、プリントやワークシートなども共有が図られているのに、教材の使い方などに担当者間で小さからぬ違いが生じていることが少なくありません。指導案の解釈にも差がありそうです。
例えば、ワークシートを埋めさせるところでも、説明を聞かせるだけの先生もいれば、問い掛けて生徒に調べさせる先生もいます。話し合いをさせる場でも、個人で「準備」をさせる度合いが違ったりしますし、音読練習などでもバリエーションや徹底の度合いが様々だったりします。
共通指導案を導入する目的は、学校/教科として保証する学力の実現であったはずですが、学習内容が同じでもアプローチによって学びの質は異なる以上、如上の違いは結果的に獲得する学力に違いを作りますし、学習目標の達成可能性も担当者ごとに違ったものになってしまいます。
考査や教材の共通化を図った直後であれば、ある程度の違いが生じるのはやむを得ない(むしろ当然の)ことですが、一定期間を経てもなお、違いが解消に向かっていないとしたら、授業改善に向けた先生方の協働のあり方に見直すべき点があるのではないでしょうか。
❏ 効果測定と実践共有で指導法の違いを解消
目指すべき学力像や到達目標をしっかりと共有したら、それぞれの先生が最善と考える方法を選択し、その実現を目指すことになります。
ちなみに、到達目標を検証可能な形で共有するには、定期考査の出題内容や活動評価の基準(観点とそれぞれの規準群)の擦り合わせによって行うのが最も効果的な方法の一つであるのは言うまでもありません。
実際の指導には、それぞれの先生方が経験の中で作り上げてきたノウハウが生かされますので、教材の使い方や学ばせ方に「個性」が出るのは当然のこと。初期段階での小さな違いは特に問題ありません。
しかしながら、定期考査や模擬試験などを幾度か経て、それぞれの指導の成果の違いを比較できるデータが揃ったら、効果測定で「より大きな成果を得ているクラス」を特定し、そこでの指導法(教材の扱い方や活動の配列など)を共有することで、その違いの解消に向かうべきです。
効果測定と実践共有がきちんと機能していれば、指導法はより良いものに収束し、担当者間での違いは自ずと縮小に向かうはずです。共有したものを土台に協働でさらなるブラッシュアップを図れば、教科全体での授業改善はさらに加速するのではないでしょうか。
より効果的な指導法の存在を知りながら、敢えてそれに倣おうとせず、従来の自分のやり方に拘るような方はいらっしゃらないと思いますが、優良実践の抽出を目的とする効果測定が行われていないと、倣うべき実践が校内/学年教科のどこに存在しているかアタリもつけられません。
❏ 獲得させたい学力ごとに測定方法をきちんと整備
それぞれの先生が、最善と信じる方法を選択して指導を行う以上、全ての先生が納得できる方法で効果測定が行われないと、その結果にも疑義や不満が残り、実践の共有やその先にある更なるブラッシュアップへの協働への機運は生まれません。納得と共感があってこその協働です。
大切なのは、実際の指導を始める前に、何を以て指導の成果を比較するか十分に議論して、評価の方法/モノサシを決定しておくことです。
生きて働く知識や理解の獲得がどこまで進んだかを測定するなら、定期考査の結果で成果を測ることになりますが、考査問題を新しい学力観に沿ったものに更新する議論は、しっかり進んでいるでしょうか。
意見のすり合わせを経て「テストで何を測るか」に互いに納得できる解が得られれば、その背後にある「学力観」も共有されているはずですので、自ずと「授業で何を教えるか」も一つの方向に収束します。
考査問題の出題が、習ったことを覚えるだけのものに偏っていては、新課程が求める学びの成果は測定できず、正しい評価もできません。
正解が一つに決まらない問題で思考力を試すなら、観点ごとの充足要件を明確にした採点ルーブリックも必要なはずです。調べ学習や意見論述などのタスクに現れる能力・資質を測る場面でも同様でしょう。
指導期間が始まる前に、次の定期考査の問題素案を作っておけば、どんなモノサシで指導の成果を測定するか、担当者間の共有が進みます。
考査問題の全面更新は負担も小さくありません。全出題のうち、測定したい学力を最もよく点数に反映するはずの設問群を抽出して、その部分の点数だけで「ターゲットとする学力の獲得」を測定すれば、手間も抑えられますし、他の部分の点数が「ノイズ」になることもありません。
ちなみに、日々の学習活動の中での行動観察に基づいて評価すべき学力要素(協働性や主体性なども含まれます)では、ルーブリックを用いた定量的な評価の結果に照らして、それぞれの先生が選択した指導法の利点と弱点を特定していく必要があるはずです。
❏ 実践報告→相互参観→気づきの交換で実践共有
データを用いて優良実践を抽出できたら、次は、その実践のどこに大きな効果をもたらす要素があるのか特定し、そのノウハウを共有します。
まずは、優れた成果(指導効果)を挙げたクラスを担当する先生に、ターゲットとした学力の形成に資したと思われる取り組みを、教科会などで報告してもらいましょう。
授業を公開し、参観の場を作るのはその後です。どんな取り組みがなされいてるか予め知っておけば、観察もより正確になり、漫然と参観する50分より、はるかに大きな気づきが得られるはずです。
授業公開に、すべての先生が時間をやりくりして集まるのは無理(帯で時間割を組んでいる場合は不可能)でしょうが、コロナ禍で授業を動画に残す仕組みも確立しているはず。実際に参観に来ることができた先生がカメラを回してくだされば、問題はクリアできます。
大切なのは、その後の研究協議で参観で得た気づきを先生方が互いに持ち寄って交換することです。授業に限りませんが、人は見たいものだけ見てしまう(自分の価値観に沿ったものに目が向く)傾向があり、それまで持ち合わせていた発想に含まれないものは見落としがちです。
授業を観て得た「気づき」を他の先生方とシェアするには、当然のことながら、その言語化というプロセスを経ますので、思考はより深く広いものになるはず。それを「プロ同士」で共有すれば、50分の参観からの学びは、とても大きなものになるのではないでしょうか。
❏ 共通教材、共通指導案をベースに重ねる工夫
学年教科で指導計画や指導案を共有し、プリントなども共通化すれば、個々の先生がそれぞれ作成するときより労力の総量も抑えられますし、作成の段階で、すべての先生が持てる知見を持ち寄ることで、より合理的で効果的な指導が計画できるのは言うまでもないところ。
しかしながら、実際に指導を進めていく中で、「こうした方が良いのではないか」と改善の余地が見つかることも少なくないはずです。最初に手順を決め込んでしまうと、想定外の問題が後から出てきます。
指導案の解釈の範囲で凝らせる工夫であれば、積極的にどんどん取り入るべきであり、やってみて上手くことが運んだら結果(考査や模試)を待たずに、積極的に情報を発信し、教科で共有を図りましょう。
時には、当初の指導案を外れないと採り入れられない工夫もあろうと思います。独断で勝手に進めては、教科の足並みを乱すことになりかねませんので、学年教科内で「こうしてみたいのだけど」と相談してからにしましょう。当然ながら、試してみた結果はきちんと報告すべきです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一