行事にじっくり向き合える、忙しすぎない学校生活

各地の学校で教育活動の拡充が進んでいます。新課程で導入された「総合的な探究の時間」のプログラムに加え、「21世紀型能力の実践力」の涵養を目指す進路/キャリアに関する多様な学びが整ってきました。
そんな中、生徒が3年間/6年間で経験する行事は、当然ながらその数を増やし、一つひとつの行事にじっくりと向き合うことが難しくなってきているようにも感じます。進路関連の行事や成果発表会なども、準備を整えてじっくり向き合い、きちんと振り返って成果を確かなものにしないことには、「ただこなしているだけ」になってしまいかねません。

2017/01/27 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 行事の乱発で、参加機会や向き合う余裕が失われる

進路行事などを見学しに各地の学校をお訪ねしてみると、同じ時間帯に複数の行事が並行して行われていることが時々あります。
進路希望の類型が異なる生徒に対して、それぞれのニーズに応じた行事や指導機会を用意し、合理的に参加者の振り分けができているのであれば何ら問題はありませんが、必ずしもそうとは限らないようです。
どちらか一方を選んで参加すると、自動的に他方には出られない状況になってしまうのでは、必要な学びを必要な生徒が経験できません。
行事の動画をアップロードして後でも見られるという対策を講じているケースも見られますが、ワークショップなどの参加型イベントでは動画を観たところで参加したのと同じ成果は期待できませんし、質問をして疑問を解消し、理解を深めるのもなかなか難しいはず。
日時をずらして参加機会を確保したとしても、連日のように行事が続くのでは、レディネスを調えるための事前学習もできなければ、振り返って気づきを再構成して、次に向けた自分の課題を明確にしていくことも難しいはずです。
生徒一人一人が、じっくりと行事に向き合い、そこでの学びを深く確かなものにできるよう、行事の配列には細心の注意を払うべきです。

❏ 各組織がグランドデザインのもとでしっかり連携

課外学習にしても進路関連行事にしても、計画づくりと実行は分掌、学年、教科、PT(プロジェクトチーム)などの教員組織がそれぞれ進めていることが多いかと思います。
各組織が知恵を出し、より良い教育を目指すこと自体は悪いことではありませんが、連携が不十分なまま個々に企画を進めた結果が「時間と場所と生徒の取り合い」になっては、如上の問題が拡大するばかりです。
学校には年間行事予定表がありますが、必ずしもすべての行事や指導機会などが書き込まれているとは限りませんし、行事を挟んだ前後の学びにどのくらいの時間と労力を投じることを想定しているかなどを予定表から読み取るのは困難です。
また、どのような属性(進路希望、成績層、課外活動の参加履歴など)の生徒をターゲットにした指導機会なのかもあいまいにされがちです。
少なくとも、カレンダーはすべての組織で共用したいもの。グループウエアなどを活用すれば、他の組織が計画している行事についても最新の情報を常に共有できるはずです。
カレンダーには行事の名称だけ書いても仕方ありません。行事の概略、参加者に期待する到達状態(指導目標)やターゲットとする生徒像、準備や振り返りに要する時間などへの言及も欲しいところです。

❏ どの行事を優先するかはグランドデザインに照らして

同じターゲットに対して企画しているものが、実施日時や準備期間が重なるようなら、組織間で協議して落としどころを見つけなければなりませんが、学校全体のグランドデザインに照らして必要性の高い方が折れてしまっては何にもなりません。
指導の全体像、育てるべき生徒像に照らして、どちらを優先すべきかしっかり見極める必要があります。
譲ることになった行事の取り扱いも、ただ単に「中止」にするだけでは済まないこともあるはずです。日程をずらすだけでは、別の行事とまたぶつかるかもしれません。必要度に応じた代替案を考えましょう。
動画を録っておき生徒の空き時間に視聴させるだけで済むなら、それも選択肢の一つです。計画していた指導から重要な要素だけ切り出して、コンパクトにまとめ直して別行事に組み込むという手もあります。

❏ ターゲットと目的を明確に、校内にもしっかり広報

日程がぶつかっていても、その行事を必要とする生徒が合理的に分けることができるなら、問題ありません。
生徒を分ける基準の一つは進路希望でしょうが、それだけではないはずです。過去の課題学習への参加歴やそこで見いだした関心や課題などもどの行事に参加すべきかを分ける材料の一つだと思います。
行事を企画する段階で、どのような生徒に参加させ、どんな気づきを携えて日常に戻ってもらうことを期待しているのか、担当組織内で十分に議論しておく必要があります。
そこでの議論の結果は、校内全体にしっかり伝え、個々の行事に対する理解と共感を形成しておくことも重要でしょう。自分の組織だけで指導を完結できるから、他の先生には「生徒への開催通知」を配ってもらうだけで良いというのは考え違いだと思います。
各組織が用意した学びの場を、生徒一人一人に最大限に活用させることに、すべての先生が立場を超えて協力すべきですし、その前提となるのは正しい情報と理解を持ってもらうことです。

❏ 参加意欲を高める生徒への働きかけは十分か

行事が成果を結ぶための絶対要件は、そこに生徒が参加することです。
どんな意欲的な行事を作ってみたところで、生徒は、行事の名称を目にしただけで、他の用事をやりくりして参加の時間を確保しようとは思ってくれないもの。参加しないことには、得るものはありません。
メニューを並べ、生徒に好きに選ばせるスタイルでは学びのバランスが崩れます。自主性に任せるというのは聞こえこそ良いものの、「必要な学びを必要な生徒に体験させる」という主旨から離れるばかりです。
部活の先輩や顧問から「行事より練習優先」を求められたり、自分にとってあまり重要でない行事なのに友達に誘われ、断って空気が悪くなるのを恐れて流されてしまったり、というのもよくある話でしょう。
参加すべき生徒を抽出する条件を明らかにするとともに、部活動や生徒会活動も含めたすべての課外活動の中で参加の優先順位をはっきりさせたうえで、すべての先生がそれを了解しておくことが大切です。
また、参加する生徒の側でも「参加への動機」を高めてもらう必要もあります。お説教を聞かせたり、必要性を訴えたりすることよりも、別稿で申し上げたように、「事前指導を通して認知の網を張らせ、問題意識を刺激しておく」方が、歪みも作らず、効果的だと思います。



きちんと設計された教育機会に、できるだけ多くの生徒を参加させ、行事に臨むまでの準備をしっかり行わせることは、似たような指導を繰り返す無駄を減じ、ひいては教育活動全体の費用対効果を高めます。
忙しすぎない学校、学ぶ機会の一つひとつに生徒がじっくりと向き合える状態を作ることも、学校経営の大切な課題だと思います。これまでの行事配列をどこかで一度冷静に見直してみる必要もあるはずです。ゼロ学期を迎えた今、その機を逃さないようにしたいものです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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