様々な答えやアプローチが予想される問題を扱うとき、生徒一人ひとりに個人ワークで取り組ませるだけでは、発想も広がらず、多様な考え方を踏まえた上での答えに辿り着くのは容易ではありません。
生徒同士が互いの気づきを交換して、視野と発想を拡充する場として、協働や討論などの活動を授業に組み込むことが不可欠です。
当然ながら、グループでの話し合いが盛り上がり、何となく答えらしきものが見えてきても、そこで学びを止めてしまっては、学びは深く確かなものになりません。
別稿でも申し上げた通り、学びは答えを仕上げる中で深まるものですから、ひと通りの学びを終えたら改めてしっかりと課題に向き合い、自分の答えを作り上げることを生徒一人ひとりに求めていきましょう。
これを踏まえて本稿でご提案させていただくのは、生徒が個々に仕上げた答えをクラスでシェアすることで、より良い答えを作るための気づきや発想を生徒が互いに学ぶ場を整える、というものです。
2020/10/09 公開の記事をアップデートしました。
❏ 話し合いの前には、個人でしっかり調べて考える
生徒に答えを考えさせる問いを提示したら、ペアやグループでの話し合いに入る前に、まずは生徒一人ひとりにしっかり考えさせ、自分なりの答えやアイデアを持たせるようにすることが大切です。
準備もそこそこに、自分の考えを持たないまま話し合いに参加させてもフリーライダーを作り出すばかりです。それなりの答えをチームのメンバーから提示されたら、「なるほどそんなものか」と納得して終わってしまうかもしれません。
考えるのに必要なパーツ(知識や情報)が足りないなら、教科書や参考書を調べてみる必要がありますが、話し合いが始まってしまったら、読んだり調べたりといった準備はそっちのけになってしまいがちです。
なお、話し合いに参加する前に自分で作った答えや、その元になるメモは消さずにとっておくようにさせましょう。ワークシートに仮の答えを書く欄と仕上げた答えを書く欄の2つを設けるというのも好適です。
最初の答えと学び終えたときの答えの差分こそが、その日の学びの成果であり、初期の状態を記録に残しておけば、学び終えたときに「成果のたな卸し」をより的確にできるのではないでしょうか。
さて、こうした準備を経て「対話」に参加し、知識を増やし、理解を深め、気づきを重ねたら、再び個人ワークに戻って答えの仕上げに取り組むことになりますが、本題はここからです。
❏ 他の生徒の特に優れた答案を目にすることから
学び終えてから作り直した答えは、多くの場合、生徒のノートなどに残るだけ。提出して先生が採点、評価しても、返却された後はファイルに綴じられてしまい、他の生徒がそれを目にすることはありません。
自分の答案しか見ていないと、思考の及ばないところには気づかないものです。そもそも気づけていたら答案に仕上げる前に考えたはず。
先生が提示した模範解答と見比べれば、足りないところに気づくかもしれませんが、「先生が作ったものと(生徒である)自分が作ったものに差があるのは当然、自分の答えだってそれなりにちゃんとしている」と考えてしまうことも少なくないのではないでしょうか。
答えが一つに決まらない問題では、好き勝手に書いたものでも、それなりに形になってしまいますので、その傾向が強いはずです。先生が採点して「B+」という評価がされたことに「どこが拙いの?なんで減点されちゃうわけ?」と不満を持つこともあり得ます。
観点別の段階的な評価規準を「採点基準」として提示しても、基準を適用する練習が不十分なうちは、それを正しく自分の答案に当てはめることすら生徒には容易なことではありません。
しかしながら、自分と同じように学んだ他の生徒が作り上げた答案から先生が選び出した「特に優れたもの」を目にしたらどうでしょう。彼我の違いに気づき、そこから「もう一歩先の学び」が始まりそうです。
❏ 答案を介した間接的な相互啓発(互いからの学び)
満点答案と自分の答案を見比べてみれば、「それなりにちゃんとしてるのに、なんで減点されたの?」と思っていた生徒も、減点された理由を理解し、採点結果に納得するかもしれません。より良い答案に作り直すために何が必要か、新たな発想を得ることも少なくないはずです。
生徒の学びには、教科書などの教材からのもの(=自力で読んで理解する)、先生からのもの(=説明を聞いたり、問い掛けられて考えたり)に加えて、生徒同士の間で生まれるものがあります。
他の生徒からの学びというと「教え合い・学び合い」や「話し合いを通した気づきの交換」が真っ先にイメージされると思いますが、生徒一人ひとりが真剣に課題に向き合っった結果である、答案やレポートを介して行う「間接的な対話」もあるはずです。
後者の利点/強みは、時間と空間を共有していなくても、間接的に相互啓発を働かせることができることです。別のクラスの生徒や先輩たちが残した答案だって教材として利用できます。
先生方がやるべきことは、さほど複雑なことではありません。先ずは、いつも通りに生徒の提出物に目を通し、点数や評価をつけたらそこから満点のものやA+以上の評価を与えたものをピックアップしましょう。
実際にシェアするには、答案をプリントにするのがこれまでのやり方ですが、ICTの活用が進む中、提出も共有もペーパーレスで出来るようになるはず。手間はさらに減ると思われます。
❏ 次回までの宿題にするか、定期考査までに完成させるか
その日の授業の中で仕上げて提出させるよりも、次の授業までの宿題にして家に持ち帰らせた方が、じっくり課題に向き合い仕上げに取り組むことになる分、学びが深く確かなものになることが期待できます。
さらに別の手としては、仕上げた答案の提出は求めないことにする代わりに、考査で出題するのも良いのではないでしょうか。先生方の採点の手間を半分にすることも小さからぬメリットです。
定期考査で出題されるとなれば、ちゃんと答えを仕上げる必要を生徒は否応なしに感じ取ります。
ちなみに、配点があまりに小さいと「その問題は捨てる」という戦略を取る生徒もいるでしょうし、点数から理解や思考の度合いを推し量るときの「分解能」も不足します。一定以上の配点を充てましょう。
答案返却に際しては、模範解答を配って解説する従来からのやり方に代えて、生徒の答案から「解答例」を幾つかピックアップして減点/加点の箇所を示して、満点答案の充足要件を学ばせることもできます。
蛇足ながら、採点結果には説明責任が求められ、評定に組み込むとなれば尚更です。合理的な採点基準をきちんと用意しておきましょう。
事前に考査問題がわかっていたら、誰かに作ってもらった答えを覚えてくる輩がいると心配する声もありますが、自由度の高い論述タイプの問題なら、そうそう他人の答案のコピペというわけにはいきません。
それでもコピペが疑われる答案が混ざるようなら、返却時/後に「どうしてこう考えた?こう言い切る根拠は?何を調べてみた?」という具合に、思考過程を尋ねてみてはいかがでしょうか。
自力で答えを仕上げた生徒以外はぼろを出して、「コピペはバレる」と学んでくれるはず。仮に他人の答えを借りて来たとしても、この問答に堪えられるようなら、しっかり理解できているということであり、学習目標は達成できていると考えて良いかもしれません。
続編「答案のシェアや発表で相互啓発を正しく働かせる」に続く。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一