強調の正しい方法(その2)

ポイントを強調するのは、該当箇所を生徒にしっかり認識させた上で、強い印象を記憶に刻み付けようとするからですが、教える側がどれだけ汗をかいても、生徒がただ聞いているだけでは強い認識や確かな記憶の形成はあまり進まないようです。
内容をしっかり認識させて記憶に刻み込ませるには、生徒自身にも対象に主体的に関わらせる(=学習活動に取り組ませる)ことで、重要度に応じたエネルギーを使わせる必要があります。
学習内容ごとに重要度(前稿をご参照ください)を判断し、何段階かに分類しておき、それぞれに応じた負荷量の学習活動を割り当てるという考え方がシンプルかつ効果的かと考えますが、いかがでしょうか。

2014/10/16 公開の記事を再更新しました。

❏ 学習者が投じるエネルギー∽記憶に残る度合い

生徒の側で使うエネルギーに着目して、授業中に取らせる行動を分類してラベルを貼っておくと、強調の必要性に応じてその場で採るべき方法の選択がぶれなく行いやすくなるはずです。

学習者が投じるエネルギーの大小(A~E)

E:極めて小さい

  • 先生が説明するのをただ聞いていた
  • いわれるがままに該当箇所をマーカーで塗った

D:比較的小さい

  • 板書されたものをノートに写した
  • 先生の後に続けて発音してみた

C:やや大きい

  • 問い掛けられて、答えを探そうと考えた
  • 聞き取ったことを自分でレイアウトを考えてノートに書いた

B:大きい

  • 類題を自力で解いた、習ったことを別の文脈に当てはめた
  • グループ討論などでその知識に言及する機会を得た

A:かなり大きい

  • 記述解答を仕上げた/論述をまとめた
  • まとめた成果を発表した/他人に教えた

これ以外にも様々な活動がありますが、学習者が活動に投じるエネルギーの大きさが学習内容の定着度と比例することは、拙稿「アクティビティと学習効果」でご紹介した Learning Pyramid も示唆しています。

 

❏ 大切な箇所をピックアップさせる場面での工夫

強調したいもの、すなわちしっかりと生徒の認識に残したいものほど、教える側ではなく、学ぶ側での投資エネルギーが大きくなるように仕掛けましょう。先生だけが汗をかいているのではNGです。
例えば、教科書やプリントで大事な箇所をマークアップさせる場面で、先生が色を塗る箇所をひとつひとつ指定して、生徒がそれに応じて手を動かすだけでは、生徒の頭はたいして動いていません。
色塗りで使う手先の神経は鍛えられるかもしれませんが、肝心な思考には、ほとんどエネルギーを投じていません。そもそも生徒が教材を一読もしないうちに、先生に「大事なところはここだ!」と示されてしまっては、大事な箇所を見つけ出す練習もできません。
マークアップさせたい箇所を直接指示するのではなく、問い掛けを通してマークアップすべき箇所を生徒自身に探させるようにするだけでも、生徒の頭は動き出します。具体的な流れは以下の通りです。

  1. 教科書やプリントの該当箇所を読ませておく
  2. ポイントとなるところが答えになるような発問をする
  3. 生徒自身が答えとなる箇所を探してマークアップする

最初の 1. においては、黙読させるより、音読させた方が使うエネルギーは大きいでしょうし、何よりも一字一句に意識が向く点で好適です。
一斉読みではサボる生徒はサボりますし、一人の生徒を指名して音読させても指名された本人以外の食いつきは様々です。
ペアで向かい合って互いに聞こえるように声を出させたほうが、まじめに取り組むかもしれませんし、先生方もその様子を窺えます。
次の 2. が最大のポイントです。問われて考え、教科書の紙面から必要な情報をピックアップすべく、頭の中が動きます。
実際にマーカーを手にする 3.でも、項目のタイプによってマークアップの方法を変えるよう事前に指導をしておけば、考える要素が増えます。
あとで先生が該当箇所を示してくれないことを習慣にしておけば、サボって困るのは自分だということも学習してくれるはずです。
こうした取り組み方への習慣づけは、緊張感が残る入学直後から行っておくのが最適です。慣れ合いが生じたり一度だれてしまったりしてから始めようとしても、生徒がなかなか乗ってきてくれないものです。

❏ 生徒にエネルギーを多く使わせる様々な工夫

上記は一例に過ぎませんが、そのほかの場面でもちょっと気を付けるだけで、生徒の活動量を高めて、結果的に認識と印象を強められます。

・わざと小声で話す

話を聞かせるとき、敢えて声を抑えて聞き耳をたてさせた方が、生徒が使うエネルギーはかえって大きくなるかもしれません。教室のコントロールができていないと、声を抑えたことで聞き漏らしの危険が増えますので要注意です。(cf. 生徒に考えさせる授業規律

・自分で調べさせる

ある物質群の特徴を学ぶ授業を終えたら、別のリストに並べた物質について、構造式を自分で選ばせたり、どのグループに属するかを考えさせたりする課題を与えたとします。せっかく課題を与えたのに、先生が先回りして答えを示しては、生徒が使うエネルギーは増えません。
復習課題にしておき、「次回、小テストをするからそれまでに自分で答えを作っておきなさい」 と突き放した方が、よほど多くのエネルギーを使わせます。(cf. 教え込むより、調べさせて気づかせる

・答えを仕上げさせる

現代文や英語などの言語系教科では、本文の読み解きは授業内でのやり取り(発問を軸にした対話)で十分に行ったとしたら、問いに対する解答は生徒自身に作り上げさせるようにしましょう。授業内で習ったこと/気づいたことを総動員して、自分なりの答えを作るなかで使ったエネルギーが定着に繋がっていきます。
問への答えまで先生が示したら、生徒はそれを覚えるだけです。正解を示した瞬間に生徒の意識は「考えること」 から「覚えること」 に切り替わり、エネルギーの使い方が変わってしまいます。(cf. 答えを仕上げる中で学びは深まる

❏ エネルギー投資を最大化するにはテンポも大事

同じ学習活動を設定しても、制限時間の設け方(=どのようなスピードを要求するか)によって、投資エネルギーは大きく変わります。
話を聞かせる場面でも、生徒が咀嚼しないまま話をポンポン進めては、内容についていくことをあきらめる生徒も出てきます。猛スピードで走り抜けていくランナーを追走もせずに、歩道から見送っているだけのようなものです。マラソンをテレビで観てもダイエットになりません。
後で答えだけ確認して覚えればいいやと開き直られたら、その場でのエネルギー消費はゼロですし、理解を伴わない(=生きて働くことができない)知識を散在させるだけの結果になります。
一方、過剰に長い時間を与えても投資エネルギーはうまく増えません。すでに情報を捉えきった生徒は、それ以上やることもなく待っているだけ。むしろ、退屈してほかに意識が向いてしまうことで、次に場面が変わったときの切り替えも遅れがちになり、後で弊害も出ます。
生徒がめいっぱい頑張ればついてこれるスピードを想定し、アクセルをこまめにON/OFFしながら、ぎりぎりの負荷をしっかりかけましょう。
その3に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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