強調の正しい方法(その3)

強調は、印象と記憶を刻み込むために行う行為です。前稿で書いた通り、重要度に応じたエネルギーを学習者に使わせているかどうかが肝要。以下の関係になっているか、常に意識して点検しておきましょう。

学習項目ごとの重要度∽生徒に投じさせるエネルギー

同じことでも繰り返せば、その分だけ(なれるうちに省力化も進むため、比例関係ではありませんが)大きなエネルギーを使うことになります。本稿では「反復」を手段とする強調(記憶への刻み込み)の方法について、日々の授業の中で試せることを考えたいと思います。

2014/10/17 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 記憶への刻み付けは、インターバルを置いた重ね塗りで

冒頭の通り、生徒が学習活動に投じるエネルギーの総量を増やすのであれば、活動の回数を増やす(反復する)というアプローチもあります。
しかしながら、習ったその場で10回繰り返してみても、時間が経てば記憶は薄れ、丸一日もしたら思い出せないことも少なくありません。
一度の「厚塗り」でがっちり定着を狙うよりも、インターバルを置いて繰り返す「重ね塗り」の方が、たとえトータルで投じたエネルギー量が同じでも、結果で得られる定着量に勝ることが多いようです。

反復機会を確保させるのに、最もコントロールがしやすい方法の一つは小テスト/確認テストではないかと思います。
授業で学んだことを次の授業でのテストに備えて自宅で復習し、テストに答えながら思い出し、正解できなかったものを自分で調べて朱書きする、という一連の流れだけでも、インターバルをおきながら少なくとも4~5回の接触機会が持てます。

❏ テストは覚える方法/思い出す方法を学ぶ機会

反復を通した記銘機会である小テストが持つ、「覚える方法や思い出すコツを身につける練習、工夫の機会」という側面にも注目しましょう。

自らの根性を頼りに黙々と反復するというだけの状態を脱して、自分に合った覚え方/思い出し方が身についたと実感できれば、ややもすると無味乾燥になりがちな「覚える」という活動にも、達成感を抱いたり、工夫の楽しさを見出したりすることもあるのではないでしょうか。
覚える方法/思い出す方法を生徒がゼロから自力で開発するのは、少々ハードルの高い課題かもしれず、まずは先生方から、効果的な方法を幾つか提示してみても良いかと思います。
ここで避けたいのは、一つの方法だけを示して、それが唯一のものかのような誤解を与えることです。どの方法が合うかは生徒によって違うものですので、「選択肢を示して色々と試させる」のが好適です。
以前に参観させていただいた授業では、そこまで学んだことをその場で覚えて数分後の小テストに挑むという場がありましたが、覚えるという活動に生徒が競うように取り組む中、周りのやっていることを参考にあれこれと覚える/思い出す方法を試している様子が印象に残りました。

❏ 書き上げた板書を辿り直すのも反復の機会

単元の内容を理解させたり、解法を伝えたりするのに板書したことも、書き上げた後に辿り直してポイントを確認したり、留意点や観点などを加筆したりすることで、対象箇所を反復/反芻する機会になります。
板書を書き上げたら、後は生徒がノートに写して定期考査までに覚えてくれれば良いというのと「この補助線は何のために引いたのか」「なぜグラフのここに着目したのか」といった具合に見方を変えつつ、同じ箇所に立ち戻るのとではだいぶ大きな違いが生じそうです。
丁寧に教えてきちんと理解させたとしても、板書したものを辿り直すことがなければ、接触回数は1回だけですが、如上の問い掛けがあれば、問われて考え、答えるために思考の結果を頭の中で/実際に言語化するといった具合に幾度も反復がなされ、理解の度合いも深まります。

辿り直しの必要は、次の問題に進んだ時にも生じることがあります。そこで改めて説明し直すよりも、立ち戻って「こうだったよね」と確認する方が、覚えることをシンプルにできるメリットがあります。
普段の授業を振り返って、書き上げた箇所に立ち戻る機会がどのくらいあるか、ときどき自己点検してみてもよさそうです。

❏ 項目ごとの軽重判断で反復回数にもメリハリを

授業時間も言うまでもなく、生徒が家庭学習に投じることができる時間も限られていますので、大事なものをしっかりと印象づけて記憶に刻むには、項目ごとに扱いの軽重をはっきりとつける必要があります。
私大入試や国公立二次試験で受験科目とする生徒に知っておいて欲しいことまで対象を拡げ、クラス全員で均等に反復させようとすると、重要度の高いものほど定着率が良いという望ましい状態が作れません。

別稿で申し上げた通り、学びの拡張を図るのは、授業ごと/単元ごとの学びにおいてコアとなる理解をしっかり形成してからです。
クラス全員に着実な理解と定着を求めたい項目について十分な反復回数を確保した上で、それを実現した生徒から反復の対象を広げていくようにさせるべきではないでしょうか。

  • 今、確実に覚えておかなければならないもの
  • 今は、仕組みだけわかっていれば良いもの
  • 余裕がある生徒には感心を向けてもらいたいもの

といった具合に、扱い方に段階性を設けてあげれば、生徒は優先順位をつけて効率的に取り組むことができるはずです。

❏ 受験期に覚え直せば良いことに力を入れ過ぎない

入試で受験科目とする生徒にしても、初出単元として学んだ時に無理して全部を覚えても、その後の長い時間経過の中で触れること(=活用の機会)がなかったことはどんどん想起できなくなり、忘れて行きます。
それくらいなら受験期を迎えてから覚え直した方が効率的でしょう。
上記の別稿で触れている「任意課題」などで個のニーズに合わせた学習範囲の拡張を適切に図っておけば、受験期を迎えての覚え直しは2度目の接触になり、初見の時よりはるかに覚えやすくなるはずです。
今押さえないと過去問演習期まで学び直しのチャンスがないという項目なんて、そうそうないはずです。
カリキュラムのスパイラルの上で考えたときに、先の単元を学ぶなかで改めて触れれば十分なことには敢えて余計なエネルギーを投じない、という判断もまた、現時点できちんと強調すべきことに十分なスポットライトを当てるのに必要なものだと思います。
この考え方は、カリキュラム・マネジメントの実現にも欠かせません。

その4に続く(未更新)

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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話し方・伝え方、強調の方法Excerpt: 1 わかりにくさを生んでいる間接的な原因(ボールを投げるのはミットを構えさせてから、生徒に見えている景色を想像しながら教えているか) 2 わかりやすい話し方(目と口が生徒から見える状態で、短期記憶を飽和させない、ルーチンの確立/活動の切替) 3 強調の正しい方法(強調することが抱える副作用、強調は学習者が投じるエネルギーを増やすことで、反復による印象強化/記銘は「重ね塗り」で、断片化を防ぎ生きて働く知識・理解に) 4 伝え方・話し方に関するその他の記事
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