論点(イシュー)を使った単元導入

学習目標を生徒に把握させるのに最も手早く確実で、且つ広範に使える方法は、別稿でお伝えした通り、「学び終えて解を導くべき課題を導入フェイズで与えること」ですが、単元の内容やその日の授業の目的によっては、賛否の分かれる問題(=論点、イシュー)から入る「ディスカッション型の導入」も効果的です。

2018/08/07 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 賛否を違える意見に触れることで

やり方には幾つかバリエーションがあり、目的や内容によってアレンジも必要ですが、以下の流れが一般的なところかと思います。

  • 本時の主眼となる事柄を取り上げ、
  • 相対立する二つの意見を示したのちに、
  • どちらに賛成か、自分の立場を表明させてから、
  • その理由を挙げさせていく

賛否を表明し、それをサポートする根拠を挙げようとすれば、知っていることを思いだそうとしたり、使える資料やソースに当たって知らないことを調べてみようとします。
既習内容の再記銘は、新しいことを学ぶ準備であり、背景や周辺にある知識を増やしておくことは、深い学びへの入り口になります。
賛否に基づき、その根拠を言語化する中では、断片的だった知識に整理もついてくるのではないでしょうか。
また、自分と賛否の異なる意見に触れることで、それまで見落としていたことや知らなかったことの存在に気づきます。
それまでの自分がどうやら偏った捉え方をしていたらしいと気づけば、より広く、多角的に学ばなければならないという気持ちも生まれます。

❏ 予習段階で賛否とその根拠を用意させておくのも好適

イシュー(論点)から入る導入は、もちろん授業の冒頭で初めてお題を示す形でも良いのですが、前の授業の終わりに「予告編」を行い、授業準備として賛否と論拠を準備させてくるというやり方もあります。
前の授業での学習を終えたタイミングで、次の授業で扱うテーマに関する資料を配布して、「資料を読んで、賛否を決めてその論拠を述べよ」という宿題を出すというやり方です。
おのずと反転学習の要素も採り入れられ、次の授業での学びはより深く広いものになるはずです。
増える手間はお題に関連する材料探しですが、報道で頻繁に取り上げられたテーマであれば、異なる新聞社の記事を検索することで、賛否がはっきり分かれる論説なども比較的容易に見つかると思います。
先生方の協働で、導入に使える好適な資料を蓄積・共有するようにすれば、授業準備の労力もシェアして軽減が図れるのではないでしょうか。

❏ 判断力を養うためにも欠かせないタスク

教科書に書かれたことをきちんと理解させることは大前提ですが、問題意識をもって「当たり前に見えることにも疑ってみる」ことなしには、与えられた情報を鵜呑みにするだけです。
書かれたことを記憶するだけならコンピューターに任せておけば良く、人がものを学ぶときに大事なことは、学んだことを用いて課題を解決したり、正しく判断したりする力を身につけることだと思います。
拙稿「学力の三要素とは~もう一度考えてみました」でも書いた通り、

判断力というのは、多様な価値と交わり、自己を相対化することでその軸を持てるものです。対立する意見が土台にしていることを知り、何に価値を置くべきかを考えることで正しい判断ができます。これと対極にあるのが独善や思い込みです。

と考えるならば、如上の導入を介して学ばせたことは、投じた時間にも十分に見合った大きな意味を持つことになると思います。

❏ 教室で学んだことを土台に、学びの拡張と深化を図る

論点(イシュー)を起点にした学びを通して、学びのポイント(単元理解の核となる部分や土台とする考え方など)を理解させたら、その後で周辺知識を補うことは生徒自身にもできるはずです。
知識を補うだけなら、サブノート式のプリントを用意し、教科書や副教材を読んで空欄を埋めるタスクを課すだけでも十分かもしれません。
先生方が心を配るべきは、個々のニーズに合わせた学びの拡張と、仕上げを通した「深く確かな学び」の実現に生徒を的確に導くことです。
単元で学んだことの先を大学でさらに学びたいと考える生徒、受験科目として勉強する必要がある生徒、受験に使わない生徒では、それぞれ拡張すべき学びの範囲は異なります。
生徒が「総合的な探究の時間」でテーマ選びに取り組む時期には、探究から進路へのきっかけを作るプラス α の一問も積極的に与えましょう。

進路希望などに関わりなく、クラス全員に取り組ませたいことは、最初に作った自分なりの「賛否と論拠」を、その日の授業で学んだことをしっかり織り込んで、もう一度構成し直す(=作り直す)ことです。

導入フェイズで取った賛否やそこで挙げた理由と違うものが、作り直した答えの中に現れたら、それ自体が「思考の変容」(=生徒の成長)であり、先生方のご指導が一定の成果を得たということだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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