授業の冒頭や新しい単元の学びに入るときに行う「導入」ですが、その目的をはっきり認識しておかないと、工夫して作り上げた方法が目的に適っているか/成果を挙げているか判断がつかなくなってしまいます。
導入フェイズを終えたときに「達成しておくべき」ことを思いつくままに挙げてみると、次のようなところではないでしょうか。
- 本時の学習を通じて達成すべき目標を生徒と共有する/認識させる
- 生徒一人ひとりに「学ぶことへの自分の理由」を持たせる
- 本時の学習が前提とする知識や理解(既習内容)を確保する
2017/09/27 公開の記事をアップデートしました。
❏ 解くべき課題を示して、学習目標を認識させる
1.の重要性は言うまでもないでしょう。目指すべきところ(到達目標や行動目標)を明確に認識すれば、頑張りに方向性が生まれ、学び終えたときの振り返りも、基準に照らした効果的なものになります。
また、学びの途中に「不明」が生じたときも、「今やろうとしていることは〇〇だから…」といった具合に、目標に照らした理解の補完が働いて(=生徒の理解力が底上げされて)、わかりやすい授業になります。
具体的な方法としては、別稿の通り、「生徒は解くべき課題を通じて学習目標を認識する」というメカニズムを利用するのが好適です。
実際のデータを見ても、活用機会(=学んだことを用いる課題解決の体験)と目標理解(学習目標や取り組み方の把握)の相関は強固です。後者を目的変数、前者を説明変数とする回帰式の決定係数は0.66です。
本時の学びを俯瞰し得る「問い」をターゲットとして用意し、導入の場面で提示すれば、本時の目標/ゴールへの認識が高まります。問われたことで問題意識が刺激され、答えを見つけたいとの欲求が生まれます。
ここでは、肩肘を張った「設問」の形を取らずとも、クイズで生徒の興味を刺激するだけでも効果的です。学習内容の俯瞰は、教科書を使って行えます。(cf. クイズで導入、教科書への落とし込みで仕上げ)
どんな問いをターゲットに設定すべきかも、学力観の変容に伴い以前とは違ってきました。出題研究を通して”問い方”を学ぶことが肝要です。
単元名だけ示したところで、これから学ぶ生徒にとっては、何を学ぶかも、何ができるようになれば目標を到達したことになるのかも、判別がつきません。具体的な問い/課題こそが手掛かりです。
❏ 目標状態に、成否判定可能な表現を与えておく
学習を通じて目指すべき到達状態を示すには、「答えを導くべき問い」を用いる以外にも、評価規準(ルーブリックなど)も活用できます。
また、別稿「知識活用の機会を生徒が認識できないとき」でも触れたような、完成像をイメージさせその構成要素をチェックリストとしてピックアップ/整理させてみるというやり方もあろうかと思います。
優れた作品やパフォーマンスを見せ、そこに非言語的に表現されているものを、成否の点検が可能な言語の形式に転換させるということです。
取り組み方や期待される行動を伝え/説明しながら、生徒にセルフチェック用のリストを書き上げさせていくというのも効果的です。
評価基準やチェックリストに照らして自己評価をさせることで、次に向けた課題形成をさせていくこともできるはずです。振り返りは、学びの仕上げや反省ではなく、次へのスタートと考えた方が建設的だと思います。「進捗と改善課題を捉えた学び」を実現しましょう。
❏ 不明の所在に気付き、それを解消したいと思うこと
2.も主体的な学びを実現するには欠かせないことがらです。「他人の理由」で学んでいるのでは意欲も維持できず、早晩学びから離れます。
いかに精緻にデザインされた指導計画でも、他人が作った計画に乗っかることに生徒は自分の理由を持てるとは限りません。
問いや課題を与えられて取り組めば、疑問が生じたり不明に気づいたりします。疑問や不明は誰しも解消したいと思うもの。こうした原初的な欲求こそが「学ぶことへの自分の理由」のひとつだと思います。
目の前にある事物を観察し、その中に何らかの「問い」を思い浮かべることこそが学びの起点です。→観察をタスクに「問題発見力」を育てる
生徒をこうした「起点」につかせる最も効果的な方法の一つは、先にも示した「問いを与えて考えさせること」ですが、問いを提示するだけでは生徒の意識をスルーしかねません。
その場で考えたことを言語化させる(「仮の答え」を作らせる)ことで、不明や疑問の所在を明確に認識させましょう。解消したいものが明確になれば、その分だけ学びに向かう理由も強化されるからです。
❏ 気づきの交換で、見渡せる範囲を広げていく
他の生徒の発言などに触れて、それまでの自分が気づかずにいたことを知ることは、知らなかった世界を始めて覗き込むことと一緒です。
知らなかったところには、新たな疑問が生まれるもの。身近な事柄でも、社会が抱える問題でも、生徒にそれぞれが考えることを表明させ、違う見方/物事の捉え方があることに気づかせましょう。
賛否が分かれるお題について「学びの前のプレ討論」を挟むことでも、問題意識の刺激、学びへの意欲の増進が図れます。
多様な意見があることを知り、それを受け入れる姿勢を持つことは多様性の獲得にほかなりませんし、それらを踏まえた上で自分なりの判断の軸をもつことは、主体性獲得への第一歩でもあります。
❏ 既習内容の定着を確かめ、土台を固める
3.は本時の学びをより確かで深いものにするための絶対要件です。何事を学ぶにせよ、前提となる知識や理解が欠落していては、考えを広げることも、新しい理解を積み上げていくこともできません。
既習内容の理解と習熟が十分かを、生徒一人ひとりについて導入フェイズで確かめるかどうかが、本時/単元の学びの行方を左右します。
一度は教えたことを「教え直す」という方法は、導入時の復習に馴染みません。時間をかけ過ぎては本時の学びを圧迫しますし、簡単におさらいをした程度では十分な理解を再形成する見込みも立たないはずです。
ここで採るべき効果的で、汎用性も高い方法のひとつは、「問い掛けを行い、生徒に教科書やノートの該当ページを開かせること」です。
先生の発問をキューに「あれ?どこで勉強したかな?」と記憶を辿り、教科書やノート、参照型副教材のページを巡って該当箇所を探せば、そこには周辺知識を含めた必要な事柄がまとめられているはずです。
仮にその単元内容が理解できていない/記憶からごっそり抜け落ちているようなことがあったとしても、開いたそのページを開いたままにしておけば、本時の学びを通して「前提知識」は目の前に確保できます。
せっかくの導入の工夫も、もたもたしては、その間に生徒は退屈してしまいます。いかに円滑に学びの本題に入るかも、常に意識すべき、より良い授業をデザインする上での課題です。「チャイムから生徒が活動を始めるまで何分かかる?」も欠かせない視点です。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一