参照型教材を徹底して使い倒す(その3)

導入期から仕上げ期に向かう流れで考える「使い方」

前の記事では、参照型教材(いわゆる参考書だけでなく用語集や例文集も含まれます))を常に手元に置かせ、頻繁に使わせることで得られるメリットを考えました。
文章を読んだり問題を解いたりしながら、機会ある度にページを開いて使い倒してきた参照型教材は、いつしか生徒にとって「学習を進めるときの大きな拠り所」になっているはずです。
使いながら書き込まれたメモは、以前に学んだときの記憶も呼び戻してくれます。ノートにメモを取らせる指導と併せて、参照型教材は、書き込みをさせながら、徹底的に使い込ませていきましょう。

2015/10/07 公開の記事を再アップデートしました。

❏ これを使えば、自力で学べると思えるところまで

教科書を学び進める(本文を読む、記述を理解する)中で、知らないことに出会うのは当然のこと。語句や用語、概念などがわからないからと言ってそのままにしたり、諦めたりすれば、学びは先に進みません。
知らない/わからないことがあれば、参照型教材をさっと開き、該当箇所を探して、必要な情報を集め、その場で知に編む(=理解する)ことは、早いうちに習慣とさせたいところです。
読んでも分からなければ、周囲に訊いてみればよいし、どうしてもわからなければ教室には先生もいるはずです。
初見の内容でも、参照型副教材に当たりさえすれば、大体のことは理解できるし、勉強を進められると思えるようになってきたら、学習者としての自立にかなり近づいてきたと言えるのではないでしょうか。
教えてもらい、正解を与えられるのをただ待つしか術を持たないまま、卒業させて社会に送り出しては、困ることになるのは生徒です。

❏ やらせなければ、できることは増えていかない

適切な参照型副教材(あるいはテキスト)を手元におけば学びを進めることができる、との「自己効力感」は物事への積極性にも繋がるはず。
学校を卒業するまでに、興味や必要に応じて、自力で調べたり考えたりできるようになっていれば、世界は大きく広がりそうです。
各教科の学習指導においても、生徒が自力で予習/準備ができる範囲が広がれば、教室でしかできないこと(対話や協働など)に重きを置いた授業がデザインしやすく、日々の学びをより深いものにできます。

別稿で「次回の予習ができる状態を作って授業を終える」と書きましたが、参照型副教材を使いこなせる状態に導くことは、まさに「予習ができる状態」を作ることに他なりません。
生徒ができるようになるべきことは、どんどんやらせてその範囲を広げていきましょう。教えてしまった方が効率的な場面でも、ぐっと堪え、生徒にやらせるべきことを先生が肩代わりしないことが大切です。
一度できるようになったことも、やらせる機会がなければ、方法への習熟も進まず、あれこれやってみる中での工夫も生まれないと思います。

❏ 効率的に進めるには「出会ったものから順番に」

単語集にしろ、文法書にしろ、編集者は知恵を絞って記載事項を精選していますが、最初のページから順番に覚えていくのでは、必ずしも生徒にとって効率的とは言えません。
当面の間は必要とされる場面が想定しにくいものまで、一生懸命に覚えていくのでは、頑張った甲斐を実感できる機会も乏しいはず。手応えが薄ければ、やる気の維持も難しくなるかもしれません。
また、進路希望によっては「そこまで覚えなくても大丈夫」という項目も含まれているでしょうから、他に優先すべきこともありそうです。
繰り返しになりますが、主教材をベースに学びを進め、新たに出会うたびに参照型副教材のページを開き、そこに書かれていることを理解し、覚えていく方が、負担感も少なく、スムーズに学びが進められます。
調べた項目に印を残すようにしておけば、教科書で学んだこと、受験期を迎えての問題演習の中で出会ったものは一目瞭然。それまでに学んだときの記憶とすり合わせながら、効率的に復習が進められます。
また、入学から卒業までを通して使い込んできたなら、印がついていない(=初めましての)項目はずいぶんと減っているはずです。
受験に向けた最後の仕上げに取り組むときも、未習のものをピックアップして集中的に覚えていけば、暗記のペースも上がりそう。受験期も中盤を過ぎれば、生徒の「覚える力」も高まっているはずです。
導入期や拡充期にどれだけ苦労して詰め込んでみたところで、「学んでから経過した時間」と「記憶を想起できる割合」が反比例する以上、使う機会がないものから順番に記憶から脱落していきます。

❏ 拡充期には、類似項目の比較を通じた整理なども効果的

受験直前期に迎える「知識拡充期」においては、項目間の比較や、カテゴリーに分けた整理などに力を入れていくと、理解も深まりますし、記憶を繋ぎとめるアンカーも増え、保持や想起が容易になります。
英語なら、接頭辞や接尾辞の機能、語幹から推測できること、互いに関連しあう文法知識の比較(共通部分と差分への注目)などに取り組ませれば、未習語の語義を類推する力も高められるはずです。
他教科でも、関連事項を一緒にして、共通点と相違点を整理してみることは、理解の深化や記憶への刻み込みにも有利に働きます。
また、一つのことを調べたついでに、周辺の事柄も一緒に理解し、覚えていくようにすれば、互いが記憶を繋ぎ止めるアンカーになります。
すでに使い倒して自分のものになった参照型教材が手元にあれば、問い掛けられてページを開くことにも負担を感じることはないはずです。
そこに書かれている周辺知識にも意識を向けさせる問いを発し、一緒に押さえておく/覚えておくべきことを確認していけば、項目をいくつかをセットにした「まとめ覚え」で効率もぐんと上がるはずです。
その4に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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基礎力不足の生徒にどう学ばせるかExcerpt: 当たり前のことですが、どの教科の学習指導を行うときも、「基礎」が固まっていない生徒がその先に学びを進めるのは容易ではありません。新しい単元を学ばせようにも、関連する既習単元の内容を理解していない/知識として定着していないのでは、それらを土台とする新たな知を積み上げることはできず、勢い、復習や学び直しに終始しがちです。こうした状況を前に、基礎が身についていない生徒に教えるとき、「わかりやすさ」「ポイントの明確さ」を優先しがちですが、それだけでは基礎力の不足という問題を生じさせた根っこの問題がそのままです。
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racked: 2016-12-26 04:46:46