参照型教材を徹底して使い倒す(その2)

不明を前にしたら手元の教材を参照する習慣を

前稿(その1)では、課題解決に使う場面を十分に経験させないまま、知識の拡充を図ったり、体系的な理解を形成しようとするアプローチのリスクと、コスパの低さについて考えるところをまとめました。
生徒にとっての自分事となり得る課題を用意し、それに立ち向かわせる中で、知識の獲得と理解の形成を図っていく、所謂PBL型(課題解決型学習)の授業/学ばせ方への転換を図る中でこそ副教材も活きます。
課題解決を経験しながら、知識や理解が生きて働くことを実感することのメリットは小さくありませんし、わからないことがあったときに取るべき学習者としての行動も学ばせていくことができるはずです。

2015/10/06 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 最初に道具を揃えさせるやり方が抱える「限界」

本格的な学びを始める前の、いわば導入期に基本的な道具立て(体系的知識)を整えてしまおうという指導は、別の場に置き換えてみれば、そのつらさと面白味のなさ(味気なさ?)が想像できると思います。
バスケットボールで、ゲームをまったくやったことがない子供に、ひたすらパスの繰り返し、そのあとはピボット…と、ちゃんとできるようになるまで基本動作の反復だけを求めていたらどうなるでしょうか。
競技の面白さも知らないうちに、練習のつらさと退屈さに、音をあげたり、サボる方法を覚えたりする生徒がいても責められません。
そもそもゲームをしてみないと、自分にどんなスキルが足りないのか、何を練習する必要があるのか、気づけないのではないでしょうか。
今やっている練習がどこに繋がっているのか、指導者には明白でも、練習を始めたばかりの生徒にはピンと来ないかも。目的も見出せません。

基本は、実践の場で使ってこそ活きるもの。どれほど簡単でシンプルなことでも、実際に使う場がないものは「基本」とは呼べません。

❏ 学ばされているとの意識から離れるメリット

別の例です。実際に将棋を指すことなく、コマの動き方だけ書いた紙を渡され、「明日までに全部覚えろ」と言われても困惑するばかりかと。
同じような一覧表が与えられても、それだけを端から順番に覚えていくのと、実際に将棋を指しながら、必要に応じてその紙を参照しながら、コマの動かし方を考えていくのでは、だいぶ違った体験になります。
前者に比べて、後者の方が多少なりとも面白いでしょうし、「練習している/覚えさせられている」という意識もかなり薄くなるはずです。
ゲームに集中して幾度も同じようなコマの動かし方を繰り返すうちに、ことさら「覚える」ことを意識せずとも、必要なことは覚えてしまうはず。「この局面ではこう動かせばよいのか」と戦術も覚えるかも。
桂馬は2つ先の両脇に動けることは一覧表をみればわかりますが、うっかり飛び出すと歩の餌食になることを学べるのはゲームの中でしょう。

❏ 参照型教材は、本来の目的通りに使うべき

前稿では、項目を一つひとつ取り出して順番に理解して/覚えていく方法では、書かれているもの(=目に見えるもの)を観察し、どの知識を用いて考える場面かを判別する方法は学べないと申し上げました。
これに加えて、以下の2点も抑えておきたいポイントです。

主教材を進めながら、その中に見出された問いの一つひとつに答えを考える中で、必要に応じて該当箇所を探してページを開くというのが、参照型副教材の効果的な(且つ本来の)使い方です。
問いを軸に授業をデザインし、必要な知識や理解を獲得するためのひとつの手段(先生の説明を聞く、周囲と話し合う、などと対等な関係)として、手元にある教材や資料をしっかり使い込ませていきましょう。
大工さんは、見習いとして家を建てる工程をひとつずつ目にして、経験しながら、一通りの道具を使いこなせるようになります。
トンカチでくぎを打ち、ノコギリで木材を切り、ノミやカンナを使う場を経験するようになって、大工としての技術を身に付けていきます。
トンカチの打ち方、ノコギリの引き方だけを取り出して練習するのは、現場で自分の技量の不足を痛感したときぐらいではないでしょうか。

❏ 繰り返し参照させることで、再記銘を図る

主教材で作った流れの中で、参照型副教材を用いて知識の拡充と理解の深化を図っても、そのまま記憶に止まり、自在に想起できるようになるわけではありません。
しっかり理解させたつもりでも、再記銘の機会がなければ記憶は保持されず、思い出せないものになっていきます。
ある事柄が、時間の経過や他の情報による上書きで、記憶から取り出せなくなったとしても、最初に学んだ時の参照先は、副教材という形で手元に残っています。
これに再び、三度と参照する機会が持てれば、そのたびに再記銘の機会を得て、記憶の定着が進み、想起もスムーズになってくるはずです。
日付を書き込んだり、マーカーで印をつけたり、次の機会に「あ、あの時に見たやつだ」と認識できるようにしておくことも大切です。
ある教室を覗いてみると、単語集に教科書での登場ページを書き込んでいる生徒が居ました。訊けばすっかり習慣になっているとのこと。
次に調べた(つまりは思い出せなくなっていた)ときに、その書き込みをみると、最初に学んだときの記憶もよみがえりそうです。
参考書や用語集、資料集は幾度も繰り返して参照するものであると、それまでの学習体験の中で学んでいたものと拝察します。先生方からの働き掛け(ページを開かせて読ませる)の賜物と感じました。

❏ わからないことがあったときに最初に頼るべき相手

参照型副教材のページを頻繁に開く習慣を身に付けた生徒は、勉強を進める中でわからないことがあっても、「これをみれば何とかなる」と考え、わからないからといってそのまま立ち止まることも減るはずです。

そうした習慣は、放っておいて生徒が勝手に身に付けていくものではないはずです。様々な場面で、ページを開かせるよう、先生方からの働き掛けがあってこそではないでしょうか。
新しい単元を学んでいる中で、既習内容の理解が不確かな生徒/クラスに「教え直し」という手段しか取らないでいれば、生徒は自力で調べようとはしないはず。(cf. 既習内容の確認は、問い掛けで
質問してきた生徒に対して丁寧に答えてあげることも、自分で調べる習慣や、読んで理解する力を獲得させることの妨げにならないとは限りません。(cf. 質問に答えて不明を解消してあげる前にやるべきこと
どんなことであれ、学ばせることがどこか(大抵は、教科書や副教材)に書いてあるなら、先回りした説明で、生徒が自ら情報を探し、参照する機会を奪わないようにすることが大切だと思います。
必要なことがらをプリントにまとめてあげるのも良いですが、方々に情報が分散するのに加え、目次や索引もないのが普通。参照先としての使い勝手はあまりよくなさそうです。
生徒に持たせている参照型副教材をメインに、情報の不足は「書き込み(付箋の貼り込み)」で対応させるのが好適かと思います。
その3に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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