苦手意識が膨らんでしまったら(その3)

前学期までの学習で、学習を通じた成果を感じ取れなくなり、苦手意識が芽生えているということは“認知の網”がしっかりと張れていないことを意味します。 新しいことを理解するには、その情報を過去の経験や既得知識と結びつけることが欠かせません。結びつける先を持たない情報は、認識を通過してしまい記憶に残らないからです。 「認知の網」が張られていなかったり密度が足りなかったりする領域では、知識の獲得や理解の形成…

苦手意識が膨らんでしまったら(その2)

新しい単元に進むとき、もしそれまでに生徒の側で苦手意識を持ってしまっていたり、学力の向上を感じ取りにくくなっていたりしたら、次に進むレディネスが整っていないことを前提とした指導を設計しなければなりません。 これをやれば大丈夫という“万能薬”はありません。いくつかの対策を複合的に講じることが大切です。 もちろん、こうした対策にはそれなりの時間を投じる必要がありますので、順調に勉強を重ねてきた生徒の足…

苦手意識が膨らんでしまったら(その1)

苦手意識を抱えていたり、学力向上感が希薄だったりする場合、授業への消極的な取り組みを続けてきた結果、これまで学んできたことがらへの習熟が不十分であることは十分に想定されます。 そのまま単元を進めてしまっては、次の学習目標の一つ一つをクリアしていくことが加速度的に難しくなるのは、当然ながら予想されることです。 実際に、授業評価アンケートの結果を見ていると、前学期に苦手意識が膨らんでいると、次のターム…

負荷調整は、得意/苦手の分布を見極めて

“その科目が得意か苦手か”――生徒自身に意識によって、負荷(課題の難易度など)に耐えられる力が異なります。得意と考える生徒は、チャレンジングな課題を与えられた方がより強固な手応えを感じ取り、苦手な生徒はちょっと難しいと感じただけでも諦めてしまうと考えれば、無理からぬことと思えます。実際のデータを見ても、以下の通りです。 ● この科目が「得意」「やや得意」と答えた生徒の評価 ● この科目が「苦手」「…

活動性を高めて苦手意識を抑える

討論や練習、作業などの活動を通じて生徒が充足感を得ているクラスほど難しい課題にチャレンジさせても苦手意識を作らせにくいようです。課題や授業内容を難しくしていくと生徒の意識は「得意」から「苦手」にシフトしていくのが普通ですが、生徒自身が能動的に学びに関わる場面を作ることで、苦手意識の発生を遅らせることが出来そうです。 ❏ 活動性が高ければ、難易度を上げても苦手に振れない 上のグラフは、同じ質問を採用…

高意欲群に訴求し、低意欲群も支える授業(その2)

クラス内で学習意欲の差が大きくなると、どの層をターゲットにするか判断が難しくなるというのは日常的な感覚です。しかしながら、前記事でデータをご紹介した通り、高意欲群に生徒に対して十分な学習成果をもたらしつつ、学習に取り組む“自分の理由”があいまい(=自分なりの目標や課題をもって授業に取り組んでいない)生徒にも、しっかりと学びの成果を上げている授業があります。 その一方で、高意欲群に対する効果が同水準…

高意欲群に訴求し、低意欲群も支える授業

あなたは、自分なりの課題や目的意識をもってこの授業に取り組んでいますか――この質問にYESと答えた生徒には、きちんと学力向上感を与えてあげなくてはいけませんが、かといってNOと答えた生徒を放っておいて良いという話でもありません。 下図は、生徒本人の目的意識(≒学習意欲)の強弱により、学力や技能の向上を感じたかどうかを尋ねる項目での評価がどのように違うかを調べてみたものです。調査対象としたのは280…

学習効果が期待値を下回るとき(その2)

目的もしっかり示し、活用機会も十分、しかも「わかりやすさ」も十分に備わっているのに、学習効果だけが思ったように向上しない。そんなときに「当座の目標を達成した先をイメージできているかどうか」 を点検してみましょうというのが、前稿のお話でした。本日は、その続きから。 ❏ 当座の目標を達成した先にイメージできるもの 下図は、活用機会の得点から導き出した学習効果における期待値と実測値の乖離を…

学習効果が期待値を下回るとき(その1)

目標提示が十分になされ、且つ習ったことを活用して課題を解決する機会をしっかりと経験していれば、学力や技能の向上を生徒が実感することがデータからわかっています。公式のように表現するなら、こんな感じでしょうか。 学習効果∽目標理解☓活用機会 しかしながら、活用機会と学習効果の間に極めて高い相関が見られるとはいえ、近似線から遠く離れるケースも少なくありません。そんな場合に考えられるのは他の要…

書くことと振り返りが学力を伸ばす

――親の学歴や年収が同じくらいの子どもが通う学校の中で、全国学力調査の成績が良かった学校は、自分で調べたことを文章にさせる指導や授業の最後に学習を振り返る活動などを取り入れていた。――ご覧になられた方も多いかと存じますが、7月8日の朝日新聞朝刊に掲載されていた記事です。 記事のもとになった平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究…

授業評価アンケートの質問設計~まとめと追記

昨日まで、授業評価&生徒意識アンケートの質問設計について、それぞれの評価項目に込めた意図や改善のための着眼点などの整理を試みてきました。シリーズで取り上げたのは、標準的なケースを想定した推奨パターンによる質問群です。 座学・講義系の授業での評価項目 実習・実技系の授業での評価項目 生徒意識調査(学習環境/資質・姿勢の獲得) 学校が掲げる教育目標によって、項目ごとに別のものに入れ替える「調整」が必要…

2015年度 新入社員 春の意識調査

日本生産性本部のホームページで、「2015年度 新入社員 春の意識調査」の結果が公表されています。 http://activity.jpc-net.jp/detail/mdd/activity001440.html 今春実施した新入社員教育プログラム等への参加者を対象に行った結果をまとめたもので、1990年から数えて今回は26回目だそうです。 本来は、新入社員を迎え入れる側である企業が、世代として…

習熟度別クラスと考査共通問題 INDEX

先日行われた、代々木ゼミナール教育総研主催の教員研修セミナー「授業法研究ワンデイ特別セミナー」では概説講義を担当いたしました。年度末のご多用の中、多くの先生方にご参加をいただきましたこと改めて御礼を申し上げます。ありがとうございました。講義のテーマに取り上げたのは、「学力差を活かした指導授業~積極的な学習参加を促すために~」です。その中で、習熟度別クラスでの定期考査のあり方についても少しですが触れ…

習熟度別クラスと考査共通問題(その3)

定期考査を共通問題で行い、優良差分から指導知見を抽出し、それを共有していくことが学校全体での指導力を高めていくことになります。今回は、習熟度別クラス編成を採った場合の共通問題のあり方と、その結果をどのように利用すべきか、シリーズ冒頭で提起したままになっていた問題に対し、考えるところをまとめて締めくくりとします。 ❏ 考査問題を2部構成に 考査問題を作成するとき、「知識・技能」を主に測定するAパート…

習熟度別クラスと考査共通問題(その2)

習熟度別クラス編成では、進度差は設けず、単元ごとの学びの深め方で差をつけていくのが好適であるというのが、前回の主旨です。成績上位の生徒が集まるクラスでは、「思考」や「表現」の要素を多く取り入れ、既習内容の習熟に不安があるクラスでは、集団知で課題に挑ませるなど、状況に応じた学習を設計しましょう。今回は、定期考査を学年共通問題で行うことの必要性について、一緒に考えていただこうと思います。 ❏ 共通問題…

習熟度別クラスと考査共通問題(その1)

習熟度別にクラスを編成/展開する場合、考査問題を共通にするか、別にするかは悩みどころです。共通問題とした場合、上位で点差がつきにくくなったり、下位で低得点に集中したり何かと問題が生じます。別問題にすると、今度はクラス間の比較ができないだけでなく、指導上の改善課題も見えにくくなるなど、こちらもスムーズに行きません。こうした問題への解決策を探ってみる前に、まずは、前提となる「習熟度別クラス」の運用方法…

即興型英語ディベート大会

平成26年12月、東京都立西高等学校で開催された、首都圏公立高等学校即興型英語ディベート大会を見学する機会に恵まれました。西、日比谷、湘南、浦和の4校の生徒さんたちが集まり、会場は熱気に包まれていました。この大会は、文部科学省助成事業である「高等学校における多様な学習成果の評価手法に関する調査研究」のうち、「即興型英語ディベートを活用した統合型ルーブリック評価の研究」(研究代表者:大阪府立大学工学…

評価方法の再整備~高大接続答申から

昨年12月に公表された、いわゆる高大接続答申。ご覧になられたと思いますが、「選抜性の高低にかかわらず、学力については、アドミッション・ポリシーに基づき、学力の三要素を踏まえた総合的な評価を行うことが重要」と打ち出しています。 大学入学者選抜改革の全体像(イメージ)[資料 p.39] ❏ 学力の三要素 上記の答申では、入学選抜で評価すべき「学力の三要素」を、 「知識・技能」  「思考力・判断力・表現…

マトリクス点検で指導主眼を適正配置

マトリクス点検とは「生徒に求めている学習方法」「評価基準」「テスト問題を通して試そうとしている学力」などを、教科・科目を縦軸に、学年・学期を横軸に、ずらりと並べてみて、段階性や整合性を点検してみようという試みを指す造語です。入学から卒業までを左から右に、教科・科目を上下に、それぞれの時期×科目で「学習活動において生徒に求めるもの」を配列してみることで、指導主眼の適正配置を実現しようというのが狙うと…

即興型英語ディベート大会(その3)

この大会は「即興型英語ディベート」ですから、当然ながら「英語の使用」という点でも教える側に大切なメッセージを伝えてくれています。学んできたことが 「運用力」 に昇華するには、「使う場面」 が整えられる必要がある、ということです。 ❏ 適切な使用場面が、学んできたことを統合する ディベートの参加者たちは、さすがにトップ校の生徒ですが、それでも英語力には個人差もあります。しかしながら、誰もが、必死に且…