散布図と残差から個々の生徒の課題を探る

別稿「入学試験での成績と定期考査のパフォーマンス」で触れた、入試結果と定期考査成績との相関を調べる方法、学び方の転換などに問題を抱える生徒を抽出する「残差」を導出する方法をご紹介します。

❏ 計算式を設定しておけば、データを取り込むだけ

下図は、ある学校で実際に作成したものですが、12行目以降にクラス、出席番号、生徒氏名を、D列以降に得点が入力されています。
入試成績と考査成績のデータシートから、VLOOKUP関数を使って取り込むようにすれば、入力ミスのリスクも作業量の増大もありません。

画像


散布図は、DE列のデータ(国語の場合)を選択して、「挿入」タブから「散布図」を選択すれば作成できます。
平均や標準偏差、四分位数などの記述統計量は、関数を設定しておけば自動で計算しくれます。実際のデータシート(エクセルファイル:ウイルス検査済み)はこちらからダウンロードしてご覧ください。

セル出力項目関数
D2サンプルサイズ=COUNT(D$16:D$175)
D3平均=AVERAGE(D$16:D$175)
D4標準偏差=STDEV.P(D$16:D$175)
D5最大値=QUARTILE(D$16:D$175,4)
D6第3四分位数=QUARTILE(D$16:D$175,3)
D7中央値=QUARTILE(D$16:D$175,2)
D8第1四分位数=QUARTILE(D$16:D$175,1)
D9最小値=QUARTILE(D$16:D$175,0)
D10相関係数=CORREL(D$16:D$175,E$16:E$175)
 

❏ 回帰式の係数と切片を求めて、残差を出力

ここまではお馴染みかと思いますが、「残差」(近似線からの距離)を算出するには、回帰直線(=近似線)の傾斜と切片を算出しておく必要があります。
エクセルに実装されている データ分析ツール の「回帰分析」を使う方法や、LINEST関数 を用いる方法もありますが、以下の数式をシートに予め設定しておく方が、繰り返して用いるときの操作を減らせます。

セル出力項目関数
D11回帰直線の傾斜=SLOPE(E$16:E$175,D$16:D$175)
D12回帰直線の切片=INTERCEPT(E$16:E$175,D$16:D$175)
F16残差=E16-(D16*D$11+D$12)


F17~F175の各セルには、F16セルと同じ数式をコピーしてあります。

❏ 条件式書式やフィルターを利用して要注意者を抽出

上記の例では、残差のデータ列に「条件付き書式」でセルに網掛をしています。フィルターを設定すれば、セルの色でフィルターをかけるなどの作業も容易になり、「要注意」の生徒を抽出するのも簡単です。

画像

❏ データを用いた個別指導と、行動評価の観点作り

ここまでくれば、後はデータを実際の指導に活用するだけです。

  • 伸びていない生徒には学習方法や生活リズムに問題がないか面談指導を通じて確かめる
  • 伸びている生徒群の行動を観察した結果を持ち寄り、好ましい学習者像(=生徒に求めるべき行動)の描出に使う

前者は、個々の生徒の問題を解決するのに役立ちますし、後者は生徒自身が学習者としてのセルフチェックを行うときの規準に転用できます。
先生方にとっても、指導スキルの一つである「生徒観察」における観点の定立に利用でき、学年や教科で指導を進めるときの目線合わせにも役立つのではないでしょうか。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

この記事へのトラックバック

入学試験での成績と定期考査のパフォーマンスExcerpt: 5月も下旬となり中間試験を迎えますが、この機に新入生の入学選抜での成績と中間考査での得点を比較してみてはいかがでしょうか。双方の得点から散布図を描き、相関を確かめてみることで、入試問題が、入学後の学びが求める力や適性を正しく測ったか定期考査は、入学と卒業を結んだ線上に正しく位置しているか生徒一人ひとりが、入学後に正しい学び方を身につけてきたかなどを把握・検討してみるためのデータが得られます。
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2018-05-22 05:38:42
考査問題で何をどう測るかExcerpt: 1 考査問題の改善が授業も変える1.0 考査問題の改善が授業も変える(序) 1.1 考査問題の改善が授業も変える(前編) 1.2 考査問題の改善が授業も変える(後編) 2 考査問題の妥当性評価2.0 考査問題の妥当性を評価し、最適化を図る 2.1 考査問題の妥当性評価(その1) 2.2 考査問題の妥当性評価(その2) 2.3 設問ごとに出題の妥当性を確かめる 3 高大接続改革と定期考査問題3.1 高大接続改革に備えて考査問題も新しいスタイルに  ├ 入学試験での成績と定期考...
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2018-06-13 04:56:15
高大接続改革に備えて考査問題も新しいスタイルにExcerpt: 来年の春に高校に迎える生徒は、2020年入試に初めて挑む学年です。1年生のうちから新しい学力観に沿った教え方/学ばせ方に切り替えないと、3年後の進路実現に際して後手を踏むリスクが高そうです。
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2018-06-13 05:00:48
高大接続改革と定期考査問題Excerpt: 2020年に迫る高大接続改革に最初に挑む学年が高校生となり、既に最初の定期考査も終わりました。昨年度から積み上げてきた準備を土台に、 "新しい学力観にそった、教え方の転換" が図られているものと拝察しますが、同時に、学力形成の中間検証手段である定期考査もそれに見合ったものに更新されていかなければなりません。
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2018-06-21 04:24:29