質問力を評価する(ルーブリックの試案)

別稿「プレゼンテーション力より質問力」では、生徒の質問力を高めることの重要性をお伝えしました。質問には「相手の思考を広げる働き」があり、そのスキル獲得は、対話の成果を大きく左右します。
探究活動におけるポスターセッションなどの成果発表の場に限らず、各教科の学びの中でも、調べ学習の発表と質疑、生徒が協働で課題に解決を図る(納得解を作る)活動など、生徒が考え尽くしたことを互いに提示して議論を行う場は豊富にあり、質問力を高める機会になり得ます。
そうした場面に「質問力を評価する基準(ルーブリック)」を用意して提供できれば、先生方からの評価とフィードバックや、生徒による自己評価・相互評価の効果もより大きなものになるはずです。
本稿では、質問を「思考を広げ、学びを前に進める行為」と位置づけ、その質をどのように見取り、評価するかを整理します。少なくとも「たくさん発言したらそれでよし」という単純なことではないはずです。

❏ 質問力ルーブリックの構成と配点

生徒の状況や指導の段階(初期~中期~仕上げ期)によって、どんな力を重点的に育みたいか(どのような質問ができるようにさせたいか)は違ってくるでしょうが、コアをなすのは以下の4つかと思います。

  • 観点1:内容理解に基づく質問か(前提)
  • 観点2:視野を広げたり、検討を進める問いか(問いの質)
  • 観点3:問うて/尋ねていることは明確に伝わるか(表現)
  • 観点4:対話にどれだけ貢献したか(議論への寄与)

質問の焦点以外の部分(前提)を正しく理解していることは、質疑を成立させる必須要件ですので、観点1は外せそうもありません。
冒頭に書いたように「思考を広げる」ことを質問の旨とし、そうした質問ができるようになることを目指すなら、観点2も設けたいところ。
観点3は、主に「表現力」に焦点を当てた評価です。「質問の意図がわからない」「疑問が整理できていない」というのでは困るはずです。
観点4を設けるのは、対話に臨む姿勢を学ばせていく上でも重要です。規準を明示することで、「目指すべき到達状態」を認識させることにも繋がります。cf. 協働場面における個々の生徒の評価をどう行うか
評価することが「目的」でないのは言うまでもありません。質問を通じてコミュニティ全体の思考を広げられるスキルと、その姿勢を持たせるための指導の「道具」として、評価を行うということです。
各観点に4段階の規準を設けるとすれば、等価配点の場合{4点満点×4観点}で{満点=16}の総合評価とするのが基本。重点項目を置くなら、傾斜配点とすることで、指導の意図を反映できます。

❏ 視野を広げたり、検討を進める問いか(観点1)

この観点で評価を行うなら、相手(発表者)の発言を要約するタスクを課すと、観察の機会を確保しやすくなります。必ずしも、質問の前に要約を付す(「あなたの主張は〜という理解でよいですか」など)必要はなく、どの理解を前提にした発言かを追えれば十分でしょう。
理解を踏まえ、要点を押さえて問いを立てている(8点): 相手の発言の主旨や論点を的確に捉え、主張だけでなく前提や条件も含めた議論全体の要点を踏まえた上で質問している。前提の取り違えや認識のズレがなく、議論がそのまま次に進む状態をつくっている。
概ね理解した上で質問している(6点): 相手の発言の大枠は捉えており、主旨から大きく外れない質問になっている。細部の理解にやや曖昧さが見られるが、前提の誤解はなく、対話は成立している。
理解が不十分なまま質問している(4点): 相手の発言の一部の内容や表現に基づいて質問しており、前提や文脈の取り違えが見られる。質問の意図はあるが、議論が前提が噛み合わない(部分が大きい)。
理解に基づかず質問している(2点): 相手の発言の主旨や内容を捉えられておらず、前提を外した質問や的外れな問いになっている。(逸脱が著しく、議論が中断・停滞する状態を招くようなら0点。)

❏ 視野を広げたり、検討を進める問いか(観点2)

発表に対して生徒がする質問は、大別すると「発表に答えを示されているのに、聴いて理解できなかったこと」「答えは持っているが表現されていないこと」「発表者の思考がまだ及んでいないこと」の3つです。
それぞれで、視野を広げ、思考を深める(=探究を進める)効果とその及ぶ範囲は違います。あら捜しになってはコミュニティにひずみが生じかねません。事前指導で「より良い探究になるよう、発表者と聞き手が協力する」というスタンスに立たせておくことも大切です。
新たな視点や前提の見直しを促す問いを立てている(8点): 発表内容を踏まえつつ、発表者自身がまだ言語化していない観点や前提に働きかける問いになっている。既存の説明や枠組みを相対化し、探究の方向を更新させる契機となっている。
理由や根拠、別の見方を問うことで再検討を促している(6点): 発表内容に基づき、理由・根拠・解釈の妥当性などに焦点を当てた問いになっており、発表者に再考を促し、思考の整理や見直しが生じている。
理解の確認や補足を求める問いにとどまっている(4点): 発表内容を自分が理解するための問いに止まる。説明の不足や不明点を補完する役割は果たしているが、視野の拡張や思考の進展は限定的である。
事実確認や表面的な確認にとどまっている(2点): 発表内容の一部についての事実確認や形式的な問いに終始し、思考の広がりや検討の深化にはほとんどつながっていない。(質問する「義務」の履行だけ)

❏ 問うて/尋ねていることは明確に伝わるか(観点3)

発表を聴いて違和感を抱いたり、疑問が生じても、それを的確に(=相手の理解が得られるように)表現する力が備わっていないと、せっかくの質問もその機能を果たしません。質問を表現する力も評価し、伝わり方を改善するための方法を考えさせるきっかけを与えましょう。
何を問いたいのかが明確で、相手に簡潔に伝わる(4点): 問いの焦点がはっきりしており、何を答えればよいかが相手に明確に伝わる。余計な言い回しや論点のぶれもなく、質問として端的に成立している。
概ね明確に伝わる問いになっている(3点): 何を尋ねたいかはおおむね読み取れ、相手も回答に必要な方向を把握できる。やや表現の粗さや言葉足らずはあるが、質問の意図は伝わっている。
焦点がやや曖昧で、何を答えればよいかが伝わりにくい(2点): 問いたい方向は窺えるが、焦点が絞れておらず、相手がどこに答えればよいか迷いやすい。あるいは表現の不足や論点のずれなどが見られる。
論点が不明瞭で、質問として成立しにくい(1点): 何を尋ねているのかがはっきりせず、相手に質問の意図が伝わっていない。質問として機能するには、言葉の選び方や構成に工夫の余地が大きい。

❏ 対話にどれだけ貢献したか[議論への寄与](観点4)

発表を受けて行う質問の「総合的な評価」とも言える観点です。冒頭にも書いた通り、質問は「思考を広げ、学びを前に進める行為」であり、その機能がどれだけ発揮されたか、質疑応答後の動き、発表者と聞き手の双方に生まれた思考の拡張の度合いに着目しましょう。
仮に、ここまでの3つ観点に満たしていないところがあっても、「斜め上」の発想から生まれた問いが、思考にブレイクスルーをもたらすこともあるはずです。聞き手の側が持っていた体験や知識が、想定外のところで、発表者に最後のピースを与えることもあろうかと思います。
議論を深め、新たな検討や再構成につながっている(4点): 問いや発言が契機となり、発表者や他の生徒の思考が動き、議論が一段深まっている。新たな視点の導入や前提の見直しが生じ、対話全体の展開に明確な影響を与えている。
議論の継続や整理に一定の貢献をしている(3点): 対話の流れを保ちつつ、論点の整理や確認、次の検討への接続に寄与している。大きな転換には至らないが、議論の進行に一定の役割を果たしている。
発言としては成立するが、対話の進展への寄与は小さい(2点): 問いや発言は成立しているが、議論の流れや思考の進展への影響は小さい。個別の確認や補足にとどまり、対話全体への貢献は限定的である。
対話とほぼ接続せず、場に影響を与えていない(1点): 発言が議論の流れと結びついておらず、対話の進行や思考の広がりに寄与していない。場の文脈から外れたり、対話の機能を十分に果たしていない。

❏ 評価したら、改善に向けた課題形成に取り組ませる

観点別の評価を行ったところからが、「指導の本番」ともいえるフェイズです。評価は結果を示すだけで終わるものではなく、次の改善と実践につなげてこそ意味を持ちます。
評価結果を見て、足りないところを知ったら、それをどう解消していくか、より良いパフォーマンス[質問]にするために、何をどう改めていくかを生徒自身に考えさせて、次の機会に試させましょう。

頭の中で漠然と「改善イメージ」を浮かべても、実際にやってみないことには、それが妥当か検証できず、達成感も得られません。
こうした振り返りを的確に行えるようにさせるには、他の生徒がどんな質問をして、どう評価されているかを知る機会も必要でしょう。クラス全体の学びになり得る評価例を、先生方の観察の中で見つけ出し、「講評」などの場でシェアしていくのも好適です。
観点別の評価結果を足し上げて「総合点」とした上で、以下のような基準で解釈を与えれば、「もう一つ上の段階」に至るのに、どのくらいの距離があるか、見込みが立ちやすくなるかもしれません。
A:18〜24点 思考を動かし、対話を成立させる質問ができている

B:12〜17点 理解に基づく質問はできているが、深まりは限定的

C:6〜11点 表面的な質問にとどまり、思考や対話への寄与が弱い

D:0〜5点 質問としての成立や理解に課題がある
ちなみに、すべての観点での評価と指導を行うと負担が過大になりがちな、初期指導などの場面では、まずは観点1だけ、次に観点1+2といった具合に「評価観点を段階的に拡張していく」という手も好適です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一