探究活動が目的とするのは、自分を取り巻く世界に、いまだ解明されていないことや解決策が未確立の問題を見つけて、解明や解決に取り組むことを通し、新たな知を創造する方法と姿勢を身につけることに加え、それらの課題に自分はどう向き合うのか/どんな接点で社会に関わっていくのかを考えることにあるのだと思います。
高大接続改革で募集定員が増えた「総合型選抜入試」において志望理由書が重要な合否判定材料になるのは言うまでもありませんが、探究活動を通して自分の将来にどう向き合うかしっかり考え、現時点での答えを得た生徒なら、記録を整理し思いを言葉にするだけで事足ります。
研究テーマの設定を生徒に任せているだけでは、興味本位で「道楽の延長」のようなものになったり、調べ学習はできても仮説の検証では手詰まりになるものになったりします。これを「仕方ないこと」と受け入れてしまっては、如上の目的を達する見込みは立たなくなるばかりです。
2017/05/02 公開の記事をアップデートしました。
❏ 探究活動を通して、生徒は自らの未来を拓く
各教科の学習内容を学ぶことを手段に生徒が獲得してきた能力(基礎力[言語・数量・情報の各スキル]や思考力[問題発見・解決力など]]を総動員して、自分が選んだテーマを探究していく中で、それらの能力はさらに向上し、統合的に活用できるようになっていきます。
ここで行っているのは、教室で学ばなかったことも必要に応じて新たに学び、解決法が確立していない問題に出会ったときにも、対処法を自力/協働で考え出していけるようになるためのトレーニングです。
未来を生きる生徒がどこかで初めて遭遇し、解決を迫られる問題はすべて「教室で学ばなかったこと」に含まれます。探究活動に取り組む中で積み上げられる如上のトレーニングが十分に機能してこそ、生徒は「自らの未来を拓く力」を獲得できるのではないでしょうか。
探究活動を通して芽生える「もっと深く・広く知りたいという思い」は上級学校を志す十分な理由になりますし、解決に取り組んでみたい問題を(たとえ片りんでも)見つければ、その先には、自分が社会とどんな接点を持ち得るか/自分が引き受ける役割も見えてくるはずです。
自分がどんな未来を拓き得るのかを生徒一人ひとりが見つける(=21世紀型能力の「実践力」の構成要素のひとつである「社会参画力、持続可能な未来への責任」を育む)上でも、探究活動は他に代えがたい重要な教育の機会であるということです。
これは、総合型選抜を利用するか、大学に進学するかを問わず、すべての高校生に当てはまることだと思いますが、如何でしょうか。
しっかりとした目標を持って、且つそのための力を備えて学校を巣立つ生徒の割合は、学校の教育力を伝える新たなモノサシ(=先生方の指導の成果そのものを表す指標)である以上、探究活動、とりわけ「テーマ選びのフェイズ」を軽んじるわけにはいきません。
❏ テーマ選びには一定の期間と相応の手順を
いかんせん、探究活動のテーマ選びは、生徒にとって初めて経験することです。小学校のときの「自由研究」のように「好きなことをやって、研究らしきものを経験してみる」というのとは違います。
最終的には自分の未来と向き合うことを目指していることや、仮説を立てて実験や観察で検証しなければならないことは、事前にしっかり理解させておくべきですが、そうした予告や注意だけで「さあ、頑張れ」と突き放してしまっては、生徒は戸惑い、躓くばかりです。
研究テーマの設定には、一定の期間に亘る、意図的な指導が必要です。身の回りのことや社会にしっかり目を向けさせ、自分事として向き合える問題を見つけさせていきましょう。
ここでの指導には色々な方法があり得ますが、わりと良く用いられており、効果も十分に期待できそうなのは以下のようなところでしょうか。
1.新聞を読ませ、気になる記事をピックアップ+所見を文字に起こす
※次セクションをご参照ください。
2.日々の授業で、探究に繋ぐプラスαの問いを与える
cf. 探究から進路へのきっかけを作るプラスαの一問
3.SDGsの入門書で学んだフレームに周囲の問題を探させる
「高校 探究 SDGs」でググってみると実に様々な先行実践が…
4.過年度生の成果物(論文など)に目を通し、そこに問いを立てる
cf. 先輩たちの研究成果に対して立てる「問い」
どれか一つを選択する「一点張り」より、幾つかを選んで組み合わせるのが好適です。仮に一つが機能しなくても他でカバーできるため、より多くの生徒が「探究活動の目的に合致したテーマ」を見つけられます。
❏ 新聞に目を通し、気になる記事に所見を起こす
生徒は日頃、周囲の友達の会話やお気に入りのSNSに、触れる情報の大半を依存しています。価値観がそれほど違わない人との会話や、元々の興味を起点とする情報への接触だけでは、社会を広く見渡すところまでは中々行きつかないはずです。
研究テーマの設定期限を予告したら、そこから2~3か月に亘って新聞を手に取らせ、すべてのページをめくらせるようにさせましょう。
毎日のタスクとして、気になった記事を一つ以上ピックアップさせ、その内容を100字前後で要約させるとともに、所見や自分の意見も書き添えさせるのがここでの肝です。
要約に加えて、記事を読んで自ら考えたところを文字にすることで、問題への関わりをより強く/具体的に意識させることができます。
記事をコピペしても、表現力は高まりませんし、思考を深める機会にもなりません。面倒でも「要約+所見」を自分の言葉で行わせるべきだと考えます。慣れれば、新聞を開いてから15分程度かと。余計なことに費やしている時間をカットすれば、十分にねん出できるはずです。
ちなみに要約100字+所見というのは、大振りの付箋1枚にちょうど収まる文字数です。新聞から毎日1つ(+週末は少し多めに)の記事を拾うだけでも、3か月後には100枚を超える付箋が集まる計算です。
どの記事をピックアップするかは「潜在的な自分の関心事」の影響を強く受けますので、特に意識せずとも、付箋には自分事として向き合える問題が残っているはずです。KJ法などで整理してみれば、テーマをどこに絞っていけば良いか、当たりは十分につくのではないでしょうか。
当たりがついたら、どんな先行研究(過年度生の論文集なども対象になります)や社会での取り組みがあるかを調べさせ、自分はどんな問いに答えるべきかを考えさせていきましょう。
この機に論文検索エンジンや図書館のレファレンス・サービスの使い方を学ばせるのも好適だと思います。別稿「学部・学科調べに、学問探究という入り口も」でご紹介したような指導にも展開できます。
興味を起点に学問の世界を覗いてみるだけでも刺激的です。どの大学のどの学科で、どんな研究者が何をやっているのか知ることは、もしかしたら「自分が学びたいこと」を見つける機会にもなるかもしれません。進路選択に限らず、生徒が課題研究や探究活動のテーマを探すときにも大きなヒントを与えてくれそうです。
❏ 生徒は自分の「趣味」に走りがち
あちこちの「探究活動成果発表会」を訪ねてみると、生徒がそれぞれに工夫を凝らし研究や発表に取り組んでいる姿に頼もしさを感じる一方、選んだテーマが自分の未来と繋がりにくいものも多いように感じます。
自分の「趣味」を起点にした、プロスポーツチームの強さとは何か、ミニ四駆を早く走らせる方法といったものもありました。テーマの是非はともかく、探究を進める中で「自分たちが向き合う問題(=未来)」に関連付けていけなかったことには反省点があるように感じました。
プロスポーツチームの経営を材料に、企業のマネジメントや広報活動のあり方まで関心を拡張できれば、経営学やパブリックリレーションズの研究に興味を見出させることもできたかもしれませんし、ミニ四駆のスピードアップからは、エネルギーの効率的利用への研究に興味の所在をずらしていくこともできたのではないでしょうか。
生徒の興味を頭から否定しては、その先に繋がりませんが、先生方からのちょっとした助言があれば、自分事としての問題/未来に繋がる問いを立てるところに持って行くこともできたのではないかと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一