教室に限らず、何かを伝えようとしているとき、ポイントとなる部分に焦点を当てるための強調を、発信者/授業者は意図的にあるいは無意識のうちに行っているものです。
しかしながら、意図や方法を誤った強調が、却って生徒を退屈させ、わかりにくさの原因になっていることもあります。
何のために強調するのか、何に焦点を当てるべきか、どのような方法が最適なのか、いちど立ち止まって考えてみる必要がありそうです。
2014/10/15 公開の記事を再更新しました。
❏ 広く行われている”強調の方法”
教室で広く行われている「強調」と言えば、すぐに思い浮かぶのはこんなところでしょうか。
- 声を大きく張ってみる、大切な部分を繰り返す
- チョークの色を変える、下線や枠囲みで目立たせる
これらの「工夫」で狙っているのは、「目立たせることで、聞き漏らしや見落としを防ぐ」「記憶に定着させる」ということかと思いますが、本当に狙い通りの効果を上げているかと言えば、少々疑問も残ります。
うっかりすると、意図するところと違う結果を招いているかもしれません。それぞれに「副作用」というべき隠れた問題点もありますので、注意すべきところをきちんと押さえて「正しい強調」を実現しましょう。
・強い刺激を繰り返すうちに反応が鈍くなる
いつも声を張っていたら教える側がくたびれてしまうだけでなく、生徒の反応も次第に希薄なものになっていきます。
夜中に静かに寝ていて急に大きな音がしたらびっくりして目が覚めますが、飛行機の中ではエンジンの轟音が聞こえていても平然と眠ることができますよね。
声を張って強調し続けても、その刺激はいずれ常態となり、生徒はそれに慣れてしまい、強調が強調として機能しなくなるということです。
また、ポイントとなる箇所の前後に「ここは大事!」 と宣言する手法も方々の教室でよく見かけますが、これを無分別に繰り返しては、本当に大事なことが「大事の連発」 の中に埋没します。
・繰り返してみたところで、定着が図れるとは限らない
何度も繰り返すのは、記憶への書き込みを意図してのことでしょうが、きちんと理解していない場合には「丸暗記」に頼らざるを得ません。
最初の説明で理解できなかった場合、同じことを繰り返しても理解は進みませんし、何のために覚える必要があるかも生徒はピンときません。
その項目の重要性を認識していなければ、覚えることへの意欲も持てませんし、理解が不十分なまま覚えたところで思い出せなくなったときに記憶を復元するすべもなく、また最初から覚え直す羽目になります。
獲得させたい知識は、最初から反復に頼るのではなく、それが生きて働く(=課題解決にその知識を活用する)場を体験させて、その知識を獲得することが持つ意味を把握させ、内容を正しく理解させてからという段取りをしっかり踏まえることが肝要です。
・過度な強調は、知識や理解の断片化の遠因
大事なところを強調しようと色チョークをふんだんに使ったり、下線や枠囲いを多用したりしているうちに、重要度の軽重が読み取りにくい板書になってしまうことがあります。
強調しようとするあまり、ポイントになるところが埋もれてしまっては本末転倒。強調の手立ては抑制的に使う方が効果的です。
そもそも、強調箇所を先生が最初から示しては、どこが大事か生徒が想像をめぐらし、見つけ出していく練習にもなりません。時には、「何がポイントだと思う?」「どうしてそう思った?」と訊いてみましょう。
また、色や線の使い分けに明確なルールがなければ、強調された箇所の位置づけがわかりにくくなるという問題もあります。板書やプリントでの色分け/罫線の使い方には、しっかりルールを設けましょう。
❏ 他を抑えることで焦点がはっきりする
強調すべきところ(=生徒にしっかりと認識させるべきところ)を浮き上がらせるには、ほかの箇所との差をしっかりつけることです。
声を張るにも、繰り返すにも、色分けや枠囲みを使うにしても、強調すべきところはどこかを教える側で明確にしておかないと、どんな技術も意図した効果を上げてくれないということです。
メリハリという言葉がありますが、張るべきところと抑えるところの差をしっかりつけることで生まれるもの。物事を伝えるときの強調でも、この差の付け方が重要です。
強調の方法には、次稿以降でご紹介する様々なものがありますし、ネット上にアップされている様々な授業動画にも優れた手法が山ほど見つかりますが、強調の方法を考える前に、まずは、どこを強調すべきか、情報の重要度をきちんと判断できるようになることが大切だと思います。
❏ 強調の必要性を判断するときの基準
強調の必要性は、学習内容としての重要度にほかなりませんが、どのような基準で重要度をご判断なさっているでしょうか。
うっかりすると、先生方ご自身が生徒/学生であった頃の記憶に影響を受けている場合があります。当時のテストで頻出だったものが今もなお重要である保証はありません。判断基準のアップデートは、くれぐれも欠かさないようにしたいものです。
言うまでもありませんが、その先の単元を学ぶときに様々な場面で土台として必要になるものや、将来向き合わなければならない課題を生徒が解決するときに不可欠なものこそが「大切なもの」です。
教材研究や出題研究を通して、今学ばせていることが、今後の学びのどこで、どのように必要とされるかをしっかり押さえてこそ、正しい協調のための重要度判断を的確に下せるようになるということです。
拙稿「どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる」で書いた通り、出題研究を通して”問い方”を学ぶことは、授業デザインの改善を図るのに不可欠ですが、効果的な伝達を実現するための強調を正しく行うためにも重要な前提になるとお考え下さい。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一