過日の記事「現小6に示すべき、新課程を見据えた学校の戦略」に書いた通り、新学習指導要領への切り替えは現小6が中3になるときです。
生徒募集を通じて入学前の生徒と交わした約束は、その生徒が卒業するまで有効な”契約”ですから、しっかり練り込んで実行可能性を担保した教育計画を作り上げておく必要があります。
高等学校でも、2022年を見据えて学校がどんな態勢を取り、新しい時代の教育に転換を図っていくか、学校の意思を明確に示していかないと、来春の生徒募集に攻勢をかける中高一貫校に後れを取りかねません。
高等学校における新課程準備(例)
年度 | 学年 | 課程 | 受け入れ準備の年度ミッション |
---|---|---|---|
2018年度 | 小学6年 | 現課程 | グランドデザインの描出(ラフ案) |
2019年度 | 中学1年 | 現課程 | 先行した取り組みの効果検証 |
2020年度 | 中学2年 | 現課程 | 指導・評価方法の研究と具体化 |
2021年度 | 中学3年 | 新課程 | 年間計画の確立/対外周知 |
2022年度 | 高校1年 | 新課程 | 新カリキュラムでの教育活動開始 |
❏ グランドデザインが必要な理由
昨今、”グランドデザイン”という言葉が広く使われるようになってきていますが、「何のために示すのか」があいまいなままに作成されているケースも少なくないようです。
グランドデザインを日本語に置き換えるなら、「全体構想」という単語が最適かと思います。
「いかに優れた部分最適も全体最適には勝てない」というドラッガーの名言がありますが、グランドデザインを描く目的のひとつは「部分最適化に走らないこと」ではないでしょうか。
学校に当てはめるなら、一人ひとりの先生や分掌・学年・教科といった教員組織がそれぞれ最適と考えることに取り組んでも、学校全体での教育活動が最適化されるとは限らないということです。
グランドデザインを描き出して置くことは、個々の教育活動が方向性を持つにも、限られた教育リソースの最適配分を図るにも不可欠です。
❏ 個々のメッセージを結び付けわかりやすくする
広報(Public Relations; PR)はアピール(訴求)とは違います。
校内外にいるステークホルダの理解と共感を得るための活動であり、学校が目指すところをわかりやすく伝えることは、その大前提です。
生徒募集/学校広報では、様々な情報やメッセージに通底する”柱”をしっかり定めることが、学校がやろうとしていることの「わかりやすさ」を飛躍的に向上させます。
喩えが悪いですが、なんでもメニューがあり、壁一面に品書きが貼られまくっている居酒屋さんでは、何が売りなのかわかりません。
これとは真逆に、しっかり根を張った太い柱から、選定された枝が伸びている樹木は凛とした存在感を示しますよね。
校内で個々の教育活動を計画するときにも、グランドデザインが明確になっていれば、そこに立ち戻って要否を判断したり、全体構想の実現に近づけるように修正したりすることも容易になり、外へのメッセージをよりわかりやすくします。
❏ 話を見聞きした人が第三者に伝えられるシンプルさ
学校が取り組んでいることを網羅的に且つ詳細に謳っても意図するところが伝わるとは限りません。
学校説明会に足を運んでくれた受験生には、直接話ができますが、足を運ばせてくれるのは、中学や塾の先生であったり、マスコミや口コミといった間接情報であったりすることが大半です。
学校からの発信を受け止めた人が、その解釈に従って再発信するメッセージを編む以上、学校が発信するメッセージはシンプルである必要があります。
学校が何を言わんとしているか掴めなければ伝える気も起きません。
シンプルさは情報の量とその構造の複雑さと反比例します。ノイズになりえる情報は取り外し、項目間の関連が明確になるように編むようにしましょう。
❏ 建学の精神、校訓に現代的な定義を与え直す好機
如上のシンプルさを実現するために、グランドデザインの中心に据えるべきは、建学の精神や校是・校訓、教育目標ではないでしょうか。
“建学の精神や教育目標をきちんと伝える“で書いた通り、目指すところを明確にして発信し続けることは、教育効果そのものも左右します。
これらは、校舎の壁に貼りだされていたり、学校案内やホームページに文字が躍っていても、現場の先生とお話をしてみると日頃の教育活動で顧みられていないことも少なくないと感じます。
同じ言葉を使っていても、その意味するところは個々の解釈が混ざり込み、教職員間で捉え方や重きの置き方が違ってきた結果、ほとんど何も共有されていないこともあります。
新学習指導要領への移行は、建学の精神や校是の意味するところを再定義してみる絶好の機会かと存じます。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一