指導目標の達成により大きく近づいた指導(=付加価値の大きな指導)を特定して共有を進めることで、組織的な授業改善が進みます。先生方一人ひとりが、より良い指導を目指して試行錯誤を繰り返すことは大切ですが、その段階に止まっていては、限りある教育リソースを浪費するばかりではないでしょうか。
❏ 結果学力を測るモノサシの精度を高める
結果学力については、昨日までの記事などにも書いた通り、テストの結果を用いて指導前後の差分から指導の効果を測定する必要があります。
テストという物差しが曲がっていては、正しく結果学力を測定できませんので、「考査問題の妥当性を評価し、最適化を図ること」の必要性も言うまでもありません。
結果学力以外で確かめておき、定量的に差分を測れる状態にしておくべきことは、「生徒の意識」の部分にもあります。
少なくとも、「授業を通して学力や技能の向上、自分の成長を実感しているか」と「この科目の学び方が身についてきていると思うか」の2つは、定期的に生徒に尋ねて、把握しておきたいところです。
❏ 学力の向上や自分の進歩を生徒はどう感じているか
以前の記事「学びの成果をたな卸し」でも書きましたが、はたから見ていても、入念に練られた授業できちんと学びの成果が出ているのは明らかなのに、生徒自身がその成果を実感できていないことがあります。
伸びている実感を欠けば、頑張り続ける意欲も維持できません。「科目を切る」という選択で進路の可能性を狭めてしまう生徒も出てきます。
ここでの生徒側の自己認識は、本人に聞いてみるしか把握するすべがありません。
授業評価アンケートの集計結果やリフレクションシートの記載を解析する必要がありますが、様々な科目に対する認識を比較しながら捉えられる前者の方が、生徒も答えやすい上、組織として定量的なデータが取りやすいのではないでしょうか。
学びに対する自己肯定感の弱さが気になるクラスでは、リフレクションシートや小テストの余白などを使ってよりこまめに尋ねてみるというやり方が好適です。
❏ 寄与度の高い項目で調査を行い課題形成に繋げる
学力向上感を左右する大きな要素は、以前の記事でデータを示した通り、目標理解、活用機会、授業内活動の3点です。
学習目標の提示は、教える側がしっかりやったつもりでも生徒によって捉え方はまちまち。学習者としてのステージの進み具合、それまで受けてきた授業のあり方で、生徒側の認識がまったく違うこともあります。
生徒に「授業では学習目標や取り組み方がしっかり伝えられているか」を尋ねてみないと、「クラスごとの集団としての特性」に合致した方法を探り当てることができません。
活用機会についても同じです。先日の記事「知識活用の機会を生徒が認識できないとき」でお伝えした通り、様々な原因を想定した上で、適切な対応を取らなければなりませんが、その前提になるのが、生徒の認識を尋ねて確かめることではないでしょうか。
学習指導の成否を左右する条件を知った上で、生徒の意識を尋ねておけば、「学力や技能の向上、自分の成長・進歩を実感できる授業」に近づく方法を見つけるのは容易になるはずです。
❏ 得意/苦手の意識や学習方策の獲得についても
また、難易度からの得意/苦手の意識が受ける影響でも書きましたが、成績が伸びていても、苦手意識を抱えている生徒もいます。
得意寄りの意識が優位のクラスでしっかり負荷をかけなければ伸ばしてあげることができませんし、成績だけ見ていて苦手意識が膨らんでいることに気付かなければ、生徒はやがて消極的な学びの姿勢を示し始めることもあります。
得意/苦手の意識も、本人に聞いてみないとわかりませんよね。
その科目が得意か苦手かを左右することがらのひとつに、「学び方を身につけているか」「わからないことがあったときにどうすれば良いかをわかっているか」があります。
生徒の学習行動を観察する中で、学習方策の獲得状況を把握する機会を定期的に設けることが必要です。
特に、年度の切り替わりで新しい生徒を担当するときや、長期休業期間を経て生徒が大きく成長している可能性があるとき、あるいは単元の切り替わりで学び方が変わるタイミングなどでは、「次のステージに向かう準備は整っているか」をきちんと確かめるようにしたいものです。
❏ YESの割合とその変化を確かめるべき質問
このように考えてくると、アンケートなどを用いてどのくらいの生徒が「YES」と答えてくれるかを確かめておくべき必須の質問がいくつかありそうです。たとえば、
- 授業で理解したことを、新たな課題の解決に使ってみる機会がある
- 先生は、その日の学習目標や取り組み方をはっきり示してくれる
- この科目の学び方が身についてきたか/この科目は得意か苦手か
- 授業を通して学力や技能の向上や自分の進歩・成長を実感できる
などのほか、主体的で対話的な深い学びへの転換を図るなら、
- 討論など、授業内の対話を通じて学びが深まるのを感じる
- この科目には自分なりの課題や興味をもって取り組んでいる
などを訊いてみても面白いかもしれません。
目標を決めたら次に考えるべきは方法ではなく、評価のありかたです。
ここで言えば、「どんな質問にYESと答えてもらいたいか」をきちんと決めておかないと、共有すべき優良実践の所在を特定する方法も得られないということではないでしょうか。
❏ 回答の分布を正しく予測できていたかも点検
生徒の回答分布を正しく予測できていたかどうかも、点検してみましょう。思いのほか、予想と違った結果が出てくることもあります。
正答率の予測ができれば授業設計も最適化に向かうのと同様に、アンケートの回答分布をクラスごとに正しく予測できれば、学習指導の改善に機を逸することも減るはずです。
様々な調査を行うなかで自分の見立てと生徒側の認識との間に存在しているズレに気付くことは、自分の観察眼をブラッシュアップするために代えがたい機会のひとつだと思います。
その4、活動評価、進路意識&選択の力、定期考査、その他に続く。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一