学びの成果をたな卸し

傍から見ても、入念に練られた授業できちんと学びの成果が出ているのは明らかなのに、生徒がその成果を実感できていないことがあります。
伸びている実感を欠けば、頑張り続ける意欲も維持できません。「科目を切る」という選択で進路の可能性を狭めてしまう生徒も出てきます。
学習を通じて進歩を感じ取って頑張っていれば、その先には新たな興味も生まれ、学びへの自分の理由も持てるようになってくるはずです。
授業の改善を図るときに意識すべき指標のひとつは、「学習を通じて、学力の向上や自分の進歩を実感できるか」という問いにどれだけの生徒が「YES」と答えてくれるか、どれだけ増えてきているかです。

❏ 学力向上感を持ったところに興味関心が生まれる

授業を通じて学力の向上や自分の進歩を実感することにより、その科目への興味を深める様子は下のグラフが示す通りです。

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教室の学びで生まれた興味・関心を深めつつ、課題研究や探究活動を行ったり、学部学科や学問の研究を進めたりすれば、本気で取り組みたいこと、大学等に進んで学んでみたいことが見つかります。
その先には、「学んだことを通して自分は社会とどのような接点をもつのか」という生き方への意識(進路意識)も生まれるはずです。
伸びている実感を持ち、興味を新たにしていけば、その科目を学び続ける意欲も維持できます。見方を逆にすれば、自己肯定感を持てるところにしか頑張る対象は見つけられない、ということではないでしょうか。
科目を選ばずに広く学ぶということは、理解できる範囲を広げ、様々な情報を捉える「認知の網」を張ることであり、卒業後の人生においてより良い選択を重ねる(=より良く生きる)ための前提です。

できるようになったとの実感を持てず、学び続けていく意欲を失っては学びの範囲を狭めていくばかりです。
受験に必要かどうかに拘わらず学び続けさせるためにも、如上の質問での肯定率を高く維持する必要があります。様々な事情もあり100%は難しいかもしれませんが、90%は実現したい必達水準です。

❏ 学びの成果を「たな卸し」する機会

しかしながら、冒頭に書いた通り、どう見ても学びの成果が生徒のうちに蓄積されているのは明らかなのに、生徒はその実感を持てずにいることがあります。
模試の成績が上がっていても、本人の自覚を確かめてみると「伸びていない」と感じている生徒がいるほどです。
成績(定期考査や模擬試験の結果)は、生徒の学力向上感を左右することも否定できませんが、学びに対する自己効力感(伸びている実感)に影響を与えているのは成績だけではないようです。

日々の学びの成果を、生徒自身がきちんと「たな卸」できる仕組みを整えるだけでも、ずいぶん違った結果になります。
例えば、学び終えたときに解決すべき課題/答えるべき問いを授業の導入フェイズで示し、その段階で生徒が導ける「仮の答え」を作らせ、学び終えて仕上げ直した答えと比較できるようにしておくのも有効です。
授業の中で、説明を聞いたり、自分で調べたり、周囲と話しあったりすることで得た知識、蓄えた気づきなどは、仮の答えと仕上げ直した答えの「差分」に如実に表れるはずです。

❏ 明確で合理的な評価/採点基準で的確な「たな卸し」

仮の答えからの進歩を客観的に捉えるには、明確な採点基準を用意する必要があるのは言うまでもありません。
採点基準が感覚的/恣意的なものでは、自らの答えに不足しているところに気づかず、できている気になってしまう生徒も出てきます。
また、減点された箇所にばかり目が向いてしまい、学びを通じて新たにできるようになったこと(学びの成果)への認識は曖昧なままにもなりがちです。
いずれのケースも、正確で合理的な「たな卸し」はできておらず、より良いパフォーマンスを得るために必要なこと(何をどう学んでいくべきか)を見つけることは難しそうです。
記述論述タイプの問題で、採点基準を正しく適用できない生徒が少なからずいることは、共通テストの試行に際して露見した問題です。きちんと「自己採点」のトレーニングも積ませましょう。
このほかにも、予め提示して認識させておいた評価基準(=到達目標)に照らした自己評価を、学びの始期、中間、最終で段階的に行わせることも、生徒が自分の進歩を可視化する機会になります。

観点別に段階的な規準を配したルーブリックをきちんと用意して、「学びの成果のたな卸し」ができる環境を整えてあげましょう。(cf. 副作用を抑え、効能を最大化するルーブリック評価の運用



採点基準にしてもルーブリックにしても、評価(=進歩の確認)を行ったところで学びを終えては、「できていないことを突き付けた」だけになり、学びに対する自己効力感は高まりません。
確認した結果に基づき、納得のいくところまで「仕上げ」に取り組ませることで、学びの成果を確かなものにする必要があるのは言うまでもありません。(cf. 確認した結果に基づいてきちんと学びを仕上げさせる
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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