今日の授業でどんな気づきがあったか

授業終了のチャイムが間もなくというタイミングで、生徒に「今日の授業でどんな気づきがありましたか」と尋ねている先生がおられました。
いつものことなのか、生徒は戸惑いも見せず、ササっとノートに鉛筆を走らせ、書き終えるとすぐに隣同士で見せ合います。授業のルーチンの一部として「学びの振り返り」が習慣化しているようでした。
日々の授業で「本時に得た気づき」を言語化することを習慣づけておけば、授業中に得る瞬間ごとの気づきにも意識が向きやすくなります。

❏ 振り返りの習慣化と、シェアによる相互啓発

どんな気づきを得たのか/書いているのか興味が湧き、休み時間になると同時に、幾人かの生徒に声をかけてノートを見せてもらいました。
そこには、「面白かった」とか「頑張った」といった「感想にも満たないもの」や、学んだことの項目名を並べただけのような、「気づき」が何であるかを理解していないものは、ほとんど見当たりません。
多くの生徒が、その日に学んだ内容と、そこで自分が考えたことを文字にしており、振り返りを習慣化したことの成果が強く窺えました。
こうした指導を始めたばかりの頃は、「気づきの言語化」をまともにできている生徒は多くなかったはずです。実際、ノートをめくって数カ月前のページを見ると、「感想未満」の記述も書き残されています。
訊いてみたところ、粘り強く指導を重ねつつ、見せ合いの場面で机間指導をしながら生徒のノートを覗き込み、そこで見つけた「優れた記述」を取り上げて、クラス全体でシェアしてきたとのこと。
生徒たちは、一緒に学ぶ周囲の仲間が起こした好適な記述に触れる中で振り返りのやり方や、その結果の表現の仕方を学んできたようです。

❏ 問われ続けてきたことで、意識が正しい方向に向く

冒頭の質問「今日の授業でどんな気づきがありましたか」を日々重ねてきたことで、生徒は、自分の学びを振り返り、そこでの成果をたな卸しする習慣を獲得し、その方法を学んできたのだと思います。
初めて問われたときは、面食らうばかりだったとしても、授業を終えるときには、それらをリストアップして、文字に起こし、ノートに記録していかなければならないとなれば、それに向けた工夫も重ねます。
授業を受けながら「ハッとしたこと」「面白いと感じたこと」「掘り下げてみたいと思ったこと」を記憶に止めようとしたり、想起できなくなるのを防ぐためにメモとして残したりするようになります。
自ずと、学んでいることの一つひとつにしっかりと意識を向けるようになり、言語化というプロセスを経て、考えた/気づいたことはより具体的になっていくはず。学びに向かう姿勢も大きく変わります。

❏ 気づきに理由や根拠を備えさせ、学びを深化

授業を終えて、生徒が狙い通りの「気づき」を口にしてくれたら、授業が上手くいったと手応えを感じるものですが、それがきちんとした理由や根拠となる思考を備えているかどうかも確かめておきましょう。
体験的な学びを経て得た気づきは、時として「思い付き」だったりします。それを以て「わかった」と思いこむのを習慣とするのも危険です。
見聞きしたことを鵜呑みにして、他の考え方があったり、見落としている大事なことがあったりすることに気づかずにいては、正しい選択を重ねる(=より良く生きる)のが難しくなることもあります。
先生方にできることは、もう一歩踏み込んで考えさせるべく、「どうしてそう思ったのか」「ほかの見方はないか」と問うことだと思います。
問い掛けは、気づきを得ていた生徒本人に限らず、クラス全体に行いましょう。教室を見渡して何か言いたげな表情を浮かべる生徒がいれば発言させても良いですが、文字に起こして提出させるのも好適です。じっくり考え、改めて言語化することで学びはより深まります。

❏ 気づきを与え得る授業デザイン(問いで作る山場)

今日の授業での気づきが何であったかを尋ねても、授業に「山場」となるところがなかったり、先生の説明をただ聞いているだけの授業だったりしたら、生徒は答えに窮してしまうかもしれません。
これに対して、先生方が頻繁に問いを発し、生徒が調べたり、考えたりする瞬間を多く与えていれば、生徒が得る気づきも大きく膨らみます。
山場となるところ(=本時の主眼を強く反映させた箇所)が設けられていなければ、生徒の気づきはあちらこちらに分散し、ねらい通りに気づきを蓄積していくことも難しくなるばかりです。
生徒に気づきを言語化させることの効果を十分に得るには、狙った箇所で生徒の気づきを大きくする効果的な仕掛けを講じる必要があります。
先ずは、本時の授業で生徒にどんな気づきを得てほしいかを明確にした上で、そこに焦点を当てられる授業をデザインしていきましょう。
先生方が狙った箇所以外にも、授業内での生徒の発言や質問から様々な気づきが教室に生まれることも少なくありませんが、少なくとも、指導計画上の主眼にはきちんと「気づき」を作るべきです。

❏ 相互参観などを機に、授業者と参観者の見立てを照合

先生方が行う「授業の相互参観」や、管理職による「授業観察」に際しては、生徒が得たであろう気づきの所在について、授業者と参観者で見立てを突き合わせてみるようにしたいところ。
参観した先生方(同僚、管理職)に、「今日の授業で生徒が得た気づきにはどんなものがあったと思うか」を言葉にしてもらい、授業者が狙っていたところと一致するなら、授業は適切にデザインされていたはず。
ズレ(一致しないところ)が大きいようなら、どうすれば狙った通りの気づきを得させることができるのか、授業者と参観者で知恵を出し合って、一緒に考えていきましょう。思わぬ妙案が出るかもしれません。
説明をする前に問いを発するべきだった、話して聞かせるより資料を読ませた方が発想が広がった、といったちょっとしたことで改善が大きく図れることもありますが、一人で悶々と考えていては思考は手詰まりになりがち。「対話的な学び」は生徒だけでなく、先生方にも有用です。



授業を参観させていただいた後、「生徒の気づきはどのあたりにあったと思いますか」と授業者の先生に尋ねてみると、質問の意味を図りかねるのか、言葉に詰まる様子が見られることも少なくありません。
稀に、本時に扱った項目を並べ始める先生もいらっしゃいますが、それは「生徒の気づき」ではなくて、「先生が伝えたこと」に過ぎません。
本時の主眼や到達目標が明確な授業をデザインするには、この質問に対し、すぐに明確な答えを出せる状態を作っておく必要があるはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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