課題発見や課題解決を行う枠組み(型)の一つに、「PPDACサイクル」というのがあります。 未だに認知度は高くないようですが、総務省統計局が開設している 「データ・スタート」というWEBサイトに紹介されています。ちなみに「なるほど統計学園」もお役立ちサイトです。
この枠組みでは、問題の解決に至るまでのプロセスを以下の5フェイズで構成されるものと考えています。
- Problem(問題): 問題の把握と明確化
- Plan(調査の計画): 研究計画づくり、不足する知見の補完
- Data(データ): データの収集・整備、統計表の作成
- Analysis(分析): グラフの作成、問題点の分析
- Conclusion(結論): 分析結果の解釈、レポートの作成
2016/11/07 公開の記事をアップデートしました。
❏ 調べ学習と探究活動とでは目的が違う
小中学校でも広く行われている調べ学習は「指定された/自分で選んだテーマについて、文献に当たったり、聞き取り調査をしたりして結果をまとめる」ことで興味の発現などを狙った体験的・横断的な学びです。
児童・生徒から「やってみて面白かった」との感想を引き出せれば、当座の目的はかなりのところまで達成したと言えるかもしれません。
しかしながら、これらをすでに経験してきた中学生、高校生に同じことを繰り返させても、得るものはさほど大きくはならないはず。その先にあるものを示して、挑ませていく必要があります。
物事を明らかにしていくことの姿勢やその方法(=能力・資質)も身につけさせなければなりませんし、学びを深め掘り下げる中では、大学に進んで学びたいことや、社会との関わりの中で取り組みたいこと(=学んだことの活かし方)などに思いを巡らす機会も得られるはずです。
探究活動で目指すべきところは、別稿「資料を与えて読ませる/探させる、そしてその先に」でも書いた通り、21世紀型能力を構成する「問題解決・発見力・創造力」や「持続可能な未来への責任」などの育成であり、一定の型に沿った活動をきちんと積み上げさせる中で、鍛錬と評価の機会を確保する必要があるはずです。
❏ 探究活動に用いるフレームワークを学ぶ必要性
方法を学ばず、やみくもに取り組むだけでは、体験的な調べ学習の先にはなかなか進めません。
探究を通じた目的とするところに近づくには、一定の型(探究学習の方策や手順)を知っておく必要があります。
やりかたを生徒に任せて「やってみることが大事」という段階は、小中学校での体験で通過しているはずです。
その先に進ませるには、領域に応じたいくつかの型をきちんと示し、実践を通じて生徒に習熟させる必要があるのではないでしょうか。
冒頭で紹介したPPDACサイクルは、統計的な思考法や統計を扱う知識・能力(リタラシー)と課題発見&解決の能力を結び付けたものですが、探究活動や課題解決行動のひな形として大きな可能性を持つように感じます。(cf. 探究活動やPBLを通して涵養すべき統計スキル)
❏ 最初の一歩は、疑問を「問い」に起こすこと
最初のフェイズである Problem (問題の把握と明確化) というのは、大雑把に言えば「問いを立てる」ということです。
周囲に関心を向けてさえいれば、「問い」は至る所に転がっています。日頃から新聞などに目を通していれば、賛否の分かれる論点や、疑問に感じることはいくらでもあるのではないでしょうか。
教科書に書かれていることにだって、当たり前とスルーせずに、「なぜこう言えるんだろう/どうやってわかったのだろう」と、疑問を抱く姿勢を持ちさえすれば、解明すべき「謎」には事欠きません。
そういった社会問題や科学・学問上の疑問だけでなく、身近なところにも、しっかり目を向けさえすれば、様々な問題がいくらでも転がっているはずです。(cf. 身の回りの問題を多角的に捉えさせる)
❏ 「当たり前のこと」をスルーしないことが大事
夏の日差しに焼かれたベランダの手すりで危うく火傷をしそうになったとき、「熱くなっている可能性があるから迂闊に触らない」ことを学ぶところで止まらず、「どうして金属だけがこんなに熱くなるんだ?」と考えられば、「探究の入り口」に立ったことになります。
あるいは、本を読んでいて「この文章、なんだか読みにくいなぁ」と思ったときに単純な感想に止まらずに、「なんで読みにくい(と感じる)のだろう」と考えれば、次節に例示するような探究にも繋がります。
こうした疑問を持つかどうかは、もともとの性格による部分もあろうかと思いますが、トレーニングによって修得できる能力・資質の有無による差でもあろうかと思います。
日頃の授業で「書かれていることを疑って読む」ことを促し、「答えるべき問い」を投げかけていくことが、そうした力(21世紀型能力で言うところの「思考力>問題発見力」)を生徒のうちに育む第一歩です。
❏ 問いを起こしたら、調査の計画に
例えば、「なんだかわかりにくい文章だな」という感想を起点に、「わかりやすい文章とはどういうものか」「人を引き付ける文章とはいったい何か」という問いを立てたとしましょう。
「わかりやすい文章」というキーワードでインターネット上の記事を検索したり、図書館で本を探して読んでみたりするだけでは、「調べ」はしていますが、それだけでは「探究」とは呼べません。
自分が立てた問いに答えを導くのに、先人達がどんなアプローチを採ってきたかを調べてみるのは、仮説を予測する準備の段階だと思います。
読みやすさ、わかりやすさの構成要因は何かを調べようと思うなら、最初の一歩は、様々な文章をサンプルとして集めて比較検討してみるところでしょうか。
ジャンルやタイプが違った文章をサンプルに比較しても、余計な要素が入り込み過ぎる(ノイズが大きい)ため、比較が難しくなりそうです。
同じテーマを扱った文章を集めて比べてみることにして、試しにネットでキーワード検索をしてみると行政が公開しているようなお堅いものから、個人が勢いだけで書いているものまで様々見つかり、サンプルは簡単に集まりそうだと見込みが立ってきます。
ここまでの手順を踏み、見通し(展望)が立ってきたら、第2フェイズの「研究計画づくり、不足する知見の補完」がある程度のところまで進んだことになるのではないでしょうか。
後編(フェイズ3以降)に続く
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一