本シリーズの#1 作成・保存されているデータの”たな卸し”から で書いた通り、校内で蓄積されているデータのうち、生徒の指導やその改善に活用されていないものは、収集を止め、無駄な作業は減らすべきです。
その一方で、進路意識の形成やメタ認知、適応的学習力の育成を図るのにポートフォリオを有効に活用していくとなると、これまでレコードに残してこなかったデータも新たに取得、蓄積していく必要が生じます。
集めて残したデータをどう使うのか、目的をはっきり見極めることで、収集と蓄積が自己目的化しないようにしたいところです。
2014/04/28 公開の記事を再アップデートしました。
❏ ポートフォリオを作成する目的に立ち戻って
総合型選抜で志望校にチャレンジする生徒はもとより、他の生徒にも、進学に際しては志望理由書や学習計画書を起こせるだけの明確な進路意識(何を学び、それを接点に社会にどう関わるか)を持たせたいもの。
目標を持った状態で巣立たせることは、3ヵ年/6ヵ年を通して目指すべき重要な目標だと思います。
様々な体験を通じて学びを積み上げ、その中で自分とその未来に向き合っていくには、体験のたびに感じたことをしっかり考え、言語化&記録していく必要があろうかと思います。
また、様々な活動に取り組んだときに、そこでの取り組みと成果をしっかり振り返り、より良いパフォーマンスを得るにはどうすべきかを考える中で、メタ認知、適応的学習力も養われていきます。
総合型選抜の募集枠が膨らめば、より多くの生徒に、出願書類を調える準備もさせておく必要があるはず。いざ志望理由書/学修計画書を起こそうという段で、熱意しか伝えるものがなければ、手詰まりです。
進路先が求める人物像にマッチするストーリーを構成するパーツとして入学以降の取り組みと成果をラーニング・ログ(学習成果記録)とプラクティス・ログ(実践体験記録)に蓄積させておく必要があります。
❏ 探究活動の成果と過程を進路先での学びに関連づけて
ボランティア活動や海外留学経験、取得した資格や検定を列挙するのも大事でしょうが、大学に進んでからの学びの目的と姿勢を伝えるには、探究活動に関する記録の方がはるかに大きな意味を持ちます。
成果を端的に示す「書き上げた論文/プレゼンテーション」は言うまでもなく、活動そのものの記録も欠かせません。
それに絡んだ大学研究室訪問の記録や、各種コンテストへの参加記録とその結果なども、志望理由の強さを伝える材料になります。
また、活動を振り返って、そこで自分が何を感じ、どのような課題を見つけたか、「リフレクション・ログ」(省察記録)に整理しておかなければ、志望理由の形成過程を相手に伝えきれません。
❏ ストーリーの構成要素になりえるものは欠かさず記録
どんなストーリーを構成するかは、「進路先が求める人物像」に合わせなければならない以上、進路希望が具体化するまで、ストーリーの構成要素として何を残しておくべきか判断がつきません。
必然的に、構成要素になりえるものはすべて残しておくべきです。
後になって思い出そうとしてもきちんと復元できるものばかりではなく、エビデンスとなる資料が紛失していては、どうにもなりません。
その一方で、形の上だけで取り組んだ結果、中途半端に終わった活動の中には、志望理由を伝えるだけの材料は見つからないと思います。
レコードを残すことを自己目的化して、そんなものまで記録に残させても、手間と無駄が増えるばかりではないでしょうか。
❏ 探究成果に加えて、進路指導や学校行事の振り返りも
探究活動や課題研究は、評定が数字に残る各教科の学習とは違い、成果品そのもの(論文や発表会資料など)を残す必要があります。
先生からの講評や生徒同士での相互評価の結果も添えて、それらを受けての自評も書き込んでおくと、そこで見出した課題に取り組む場としての「大学進学後の自分の学び」を描きやすくなるはずです。
紙で残しておいても保管が面倒ですし、検索も編集もできず、使い勝手も今一つ。電子的にデータとして残しておくのがお奨めです。
進路行事や体験型学校行事でも、何に参加したというレコードだけでは不十分でしょう。そこでの体験を通して得た気づきや反省、将来に向けた決意なども言語化してデータに残しておきたいところです。
❏ より良い学習者になるための「学びのPDCA」
大学入試のあり方が変わる中で生じた、出願のためのデータを残す必要性に加えて、「より良い学習者になるためのメタ認知、適応型学習力の形成」にも十分な意識を向けて、ポートフォリオを運用しましょう。
学んだこと、気づいたことを記録し、それを振り返って次のステップを考えることは「学びのPDCAサイクル」を確立するのに不可欠です。
振り返りの中での「気づきの言語化」は省察をより深めさせます。頭の中だけで反省するときより、合理的な思考が重ねられるはずです。
前述の通り、体験のたびに感じたことにしっかり向き合い、そこで考えたところを言語化(=論理的に表現)させ、記録に残させましょう。
他人から教えられたもの、伝えられたものは、たとえ中身を忘れてしまっても、ソースに立ち戻って(=再度話を聞いたり、調べたりして)学び直せますが、自分で考えて気づいたことはそうはいきません。
❏ レコードを生徒自身が入力する/書き込むことの利点
成績データや各種調査の結果は学校が保管してくれるものと考えている生徒が多いかもしれませんが、記録と管理を他人任せにしては、「自分ごと」として向き合う姿勢は育みにくいかも。
学習カルテ(名称は色々です)や、ファイリング形式に改めた進路の手引きに綴じ込むワークシートを用意して、データの入力/記入、補完と整理は「生徒自身」に行わせる方が、如上の目的に適うはずです。
メモを取らせる指導や手帳を用いたタスク管理やスケジューリングとも通底しますが、「やるべきこと」「やったこと」「やって感じたこと」を文字に起こしてみることで、初めて気づくことも多いはずです。
蛇足ながら、行事や活動への取り組みについても、自己採点を行った上でリフレクション・ログに残させれば、そこに残された言葉/文字は、別稿にも書いた通り、指導の効果測定を行うときの材料になり得ます。
その4に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一