探究活動において「評価」を行うことの重要性は、別稿「探究のフェイズごとにきちんと評価&フィードバック」で書いた通りです。探究活動は、フェイズが進むと前工程に戻ることが難しい構造のため、教科学習指導以上に「各フェイズでの着実な評価実施」が不可欠です。
評価を行うためには、評価の基準(観点別に整理した段階的な評価規準=ルーブリック)に加えて、評価の機会が不可欠。探究活動では、成果物以上に、プロセスに焦点を当てて評価を行うことが大切であるため、生徒の「活動」を観察する場面の確保は、評価実施の大前提です。
どんなプロセスを経たかは、成果物からだけでは推定以上のことはできません。的確な評価、改善課題の形成に繋げるには、プロセス(探究活動への取り組み=行動そのもの)を観察する必要があるからです。
本稿では、課題設定(テーマ選び)、先行研究調査、仮説作り、探究計画の立案、データの収集・解析、検証、まとめと展望といった「探究のフェイズ」ごとに、評価の基準と場面を考えていきたいと思います。
テーマ選び 選択理由に違和感や問題意識が明確にあるか
先行研究調査 既存知見の理解と問いの更新が言語化されたか
仮説作り・計画立案 検証可能性と計画の整合性・実現性は十分か
データ収集 進捗把握と課題発生時の修正対応ができているか
解析・検証・まとめ 想定外の結果を踏まえた考察の深化があるか
❏ 探究活動の評価は、生徒の内での成長・進歩を焦点化
教育課程部会の生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループで先月、「総合的な学習・探究の時間に関する評価等について」が議案になりました。(資料ページ:別タブで外部リンクが開きます。)
資料には、「設定した課題によって身に付ける知識自体が、学習者ごとに異なる中、探究のプロセスで必要な知識や方略をいかに効果的に活用し、設定した課題を解決できるかが重要」との記述が見られます。
生徒が各自のテーマで探究を進める以上、焦点を当てるべきは、成果物に評価基準を適用した結果での「生徒間の比較」ではなく、「本人の中での進歩」(プロセスの改善、問いの深化)がどう進んだかでしょう。
例えば、最初のフェイズ(課題設定/テーマ選び)でも、好適なテーマを選択したかという「結果」より、どんなプロセスを経て、そのテーマを選ぶに至ったかに焦点を当てて評価を行うべき、ということです。
日々の生活の中で抱いた違和感や、社会に目を向ける中で見つけた問題などに向き合おうとする中で、解明/解決すべきことを特定し、問いに具体化する方法と姿勢は、未来を創り、生きぬく力でしょう。
探究活動の中で、そうした学習ができたかどうかが重要。個々の生徒がどんな活動を体験し、どんな学びに再構成できたかが評価の観点です。
❏ テーマ選び: 選んだテーマに自分の理由が存在するか
テーマ選びは、探究活動の成否を決めます。なぜそのテーマを選ぶのかを説明(言語化)できてこそ、主体的な取り組みが期待できます。
言語化した理由に「起点となった違和感や問題意識」「より良い社会を実現するために解決すべき問題への認識」が含まれているでしょうか。
このフェイズでのタスクに、「選択の理由の言語化」を組み込んでおくことが肝要です。その上で、事前指導として、先輩学年の「(きちんと理由がある)成功例」と「(安易に誘導され、自分の理由を欠く)失敗例」を対比して、どこに勘所があるかを学ばせておくのも好適です。
なお、提出期限になって結果(選んだテーマ)だけを示させても、より良いものに改めて次に進むことができません。事前指導で示した「勘所」を見失っていないか、フェイズを通して見守りましょう。
実際の評価場面では、「理由付きで生徒が提出してきたテーマの案」が如上の要件を満たしているか、AIに解析させると、先生が判断をするときの参考になります。同じプロンプトを生徒にも示しておくと、生徒自身もテーマ選びを進めながら、自己点検と修正ができるはずです。
❏ 先行研究調査: 何を学び、問いをどう更新したか
テーマの案が決まると、先行研究調査に進みますが、要領を得ていない生徒はネットで検索した結果をコピペして「調査完了」にしてしまいます。これを放置しては、「巨人の肩への登り方」を学べません。
そもそも、先行研究を調べるのは、「どこまでわかっているのか」を知り、「どんな調査・検証方法があるのか」を学ぶため。ポスターや探究論文の「参考文献」の欄を埋めることが目的ではありません。
このフェイズの評価では、選択したテーマ、思い浮かべていた疑問に対して「先行研究がどんな答えを与えてくれたか」「読んでもなお残った疑問は何か」を言語化させたものを「材料」にするのが好適です。
調べた文献をリスト化させて、適切なチャンネル(論文検索エンジン、先輩学年の探究成果物など)を正しく活用したか把握するとともに、それぞれから何を学んだかを記録させて、評価の材料にしましょう。
また、新たに知ったことに基づき、最初の問いがどうアップデートできたかも確かめましょう。先行研究調査に入る前に思い浮かんでいた疑問を「問い」の形にさせておき、調査を終えてからその問いを作り直させれば、両者の間に生じた差分から「先行研究の成果」が測定できます。
❏ 仮説作り、探究計画立案: 実行と検証の可能性の考慮
先行研究調査を経て問いが更新された後、仮説作りに進みますが、この段階で検証の方法も見通しを立てておかないと、その先で「詰む」ことになりかねません。仮説は「検証できる形で立てる」のが本来。どんな方法で確かめるのかと切り離して仮説は作れないということです。
仮説作りと探究計画の立案は一体として扱い、「仮説はどう確かめるのか」という視点をもって、両フェイズを往還させていくのが肝要です。
仮説が抽象的(「〇〇が大切」など)では、検証ができません。何を目的変数に、どんな説明変数を置くことで事象を説明しようとしているか想定した「仮説の記述」になっているか確認させましょう。
例えば、「ある種の音楽を聴くと、勉強の集中力が上がる」というのでは、調査でどんなパラメータ(が曲の特性を記述する要素群)を置き、何を以て集中力を測定するかもわかりません。複数のパラメータをおいた重回帰分析を行うにしても、要素の絞り込みすら難しそうです。
また、目的変数、説明変数に値する数値をどのような調査、実験で得るか、その調査、実験を行えるだけの機材、環境、時間があるかの見通しも立てさせておく必要があるはずです。如上の例では、統計的に有意性を判定できるだけの被験者を集められるか疑問です。
こうした様々な要件を生徒に認識させるには、ルーブリックを示すよりも、ワークシートの形で、記述にフレームを与えるのが好適です。
ワークシートで「往還」を担保(自己点検と修正)
一枚のワークシートに「仮説」「目的変数と説明変数」「それらを取得する方法(調査、実験)」を記入する欄が並んでいれば、提出前にすべてを埋める必要があり、2つ目の欄が埋まらなくなれば、1つ目に戻らざるを得ず、仮説作りと探究計画作りの往還は事前に生まれそうです。
このフェイズでの評価は、ワークシートの各欄に記入した内容に、明確か、整合的か、現実的かといった「尺度」を当てはめて行います。項目ごとの要件を書き出し、AIに「仮評価」をさせると、先生方の手間を下げるとともに、評価の精度の底上げもできるはずです。
なお、提出させてからの「ダメだし+再提出」では生徒もガッカリでしょうから、生徒にも予め「AIに記述内容を点検させる方法(プロンプトなど)」を示しておき、提出前の自己点検を促しましょう。「ある程度まで完成度を高めた状態での提出」も期待できると思います。
このケースに限らず、最終成果物(答案、レポートなども含む)を提出させる前の「事前&自己点検」の仕組みを与えることは、形成的評価(評価を通じて図る取り組みの改善)を実現する有効な方法です。
❏ データ収集(調査、実験): 計画の遂行と柔軟な修正
このフェイズでは、「計画が破綻していないか」を見守ることが主眼ですので、評価のスタンスも前段までとは少し異なったものになります。
生徒は、自らが起こした探究計画に沿って、調査(アンケートも含む)や実験を進めて行くことになりますが、実際にやってみると想定外の「障害」に道をふさがれることも少なくないはずです。
そうした場面で問われるのは、「困った、立ち往生、詰んで終わり」ではなく、「どう修正するか」を考えて実行に移せるかどうかでしょう。
この「計画実行」のフェイズでの評価のポイントは、進捗の把握と必要な支援です。計画通りに問題なく進んでいるか、支障を抱えた場合に生徒が適切な対処を考えて実行できているかに着目しましょう。
データ収集が始まったら、進捗状況(何をどう調べているか、計画に支障が生じていないか、どう対処しているか)をクラウド上で常にアップデートさせて、SOSを察知できる態勢をとるのが好適です。
適切なタイミングで支援・助言を行い、調査・実験計画の修正で済めば、仮説作りまで後戻りさせることもなく、先に探究を進められます。
❏ データの解析、検証、まとめ: 想定外をどう回収?
収集したデータを解析して「仮説通りの結果」が得られるとは限りません。まったくの想定通りというのも、あまり面白くありません。新たな発見もなく、問いの更新も起きなかったということだからです。
このフェイズで行うべき「評価」は、想定外の結果が出たときに、どんな思考を重ねて観察結果(データ)を回収しているかどうかです。当初の仮説通りの結果なら、明示的に評価を行う必要はないと考えます。
たとえば、t検定で有意差が検出できなかった、回帰分析で決定係数が小さかったといったときに、「では、どんな要素が介在(寄与)しているのか」を考えることで、思考の地平を広げられるかが問われます。
如上の「決定係数が小さい」場合なら、残差(近似線からの距離)でサンプルを分け直し、それぞれを特徴づけているもの/属性などを考えていくと、新たな仮説も出てくるはず。実験が上手くいかずに誤差が増えたなら、何が拙かったかを知ることも大切な学びです。
結果だけをみて、上手くいったかどうか(=予想通りの結論が得られたか)を判じるのではなく、そこからの学びをどれだけ大きくしてあげられるかが、指導者の腕の見せ所であり、評価実施の力点でしょう。
探究活動における評価は、「活動を通じて生徒がどれだけ成長したか」に焦点を当てて行うものです。フェイズごとに「評価結果に基づく修正と改善」をどれだけ図らせたかが問われるとお考え下さい。
全てのフェイズで、精緻な評価を行っていくのは、時間も労力も現実的ではないと思います。これまでの指導と生徒の活動を見て、特に不足を感じる部分に対して、重点的に行っていくのも妥当な判断です。
目的は、探究のプロセスにおける各フェイズの「生徒にとって未経験(に近い)の活動」への取り組みの様子をしっかりと観察し、詰む前に適切な支援を講じて、学びの成果を着実に積み上げさせることです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
